お礼短編 episode,1 恋の予感<誓約の地・番外編> Day:2011.10.15 19:00 Cat:恋する予感 これは優奈が、高校生の頃のお話しです^^私にしては、珍しい1人称風味(笑)しかも、続きそうな……予感^^;;;番外編ですが、本編を知らなくても大丈夫だと思います^^短い話しですし、ちょっと盛り上がりに欠けますが、よろしかったら読んでください^^ ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 優奈は、彼女が通う附属高校の校舎裏にある、小さな庭園に呼び出されていた。 ここは、通称『桜の丘』―― 庭園を囲うようにして何本もの桜が咲き、敷き詰められた青い芝生との対比が綺麗な、生徒たちの休息の場所だった。 普段は、昼食や談笑する生徒の多い場所だが、ほとんどの生徒が帰宅した今日は、他に人影もなくひっそりとしていた。 優奈は、微かに聞こえてくる運動部の掛け声を聞きながら、目の前にいる男子生徒の顔を見つめていた。「――付き合って、ほしいんだけど」 一瞬、どこへ? と聞き返そうとして口をつぐんだ。 この状況は、きっとそっちじゃない。間違いないとは思うけど、確認した方がいいのかな?「それって、お付き合いするってこと、だよね?」「そう」「そう、だよね」 そう言うと、なぜか彼は困ったように笑っている。 やっぱりそうだった。それなら、きちんと伝えなきゃ。「ごめんなさい」 すると、彼は淋しそうに視線を落としてしまった。 考えて出てきたのは、結局この言葉だけ。いつもいつも、肝心な時に言葉が浮かばない。 きっと杏子だったら、もっと上手く言えるんだろうな。 ちょっと情けなくなって俯いていると、優奈が凹むなよと笑われてしまった。 そうだよねと呟くと、そうだよってまた笑った。「九条くん、ありがとう」「え?」「嬉しい」「――――嬉しい、のか?」「うん。好きになってくれて、ありがとう」 そう、やっぱり嫌われるよりは、好かれる方が嬉しい。だったら、伝えるのはごめんなさいじゃなくて、ありがとうだと思う。「まぁ――無理だとは、思ったんだけどさ」 一度ちゃんと伝えようと思って――――そう言って、照れたように笑っている。 だから、やっぱり少し困ってしまって、本当にごめんねともう一度謝った。 今年に入って何人目だろうか? 去年高等部に進級してから、時々この庭に呼び出された。 告白の仕方は色々だったけど、みんな必ず最後は、無理だと思ってたけど、って言う。 何で無理だと思いながら、言うんだろう。 それでも、一生懸命思いを伝えようとしてくれる人に、酷く申し訳ない気がして、告白される度に恐縮してしまう。――付き合うと、何かが変わるの? いつもそう思ってた。 高校は中等部まで共学で、高等部に進級すると、大きな中庭を挟んで校舎が別になる。でも同じ付属の高等部だから、文化祭や体育祭の行事は合同なものが多い。 教科を一緒の教室で勉強することはなくなったけど、昼休みや下校の時は会うことも出来る。授業中は友達でも話すことはないし、付き合ったからと言って、いつも一緒にいられるわけじゃない。 高校に進級して、彼氏を作る友達も増えた。でも私にはまだ、男の子とお付き合いをするってことがピンとこない。 習い事も多かったし、大好きな語学の勉強で、毎日帰宅は10時を回る。 週末はお父さんと一緒に、鎌倉のお爺ちゃんの家に顔を出していたし、たまにできた自由な時間は、杏子達と出かけてる。――もう、それで精一杯だ。 それなら、今のままでもあまり変わらないんじゃないか? そんな風に思う。 自分でいうのもなんだけど、私と付き合っても面白くないんじゃないか、とさえ思う。 そんなことを考えていると、急に彼が声をかけてきた。「優奈って、好きな奴――いるの?」「え?」「言っとくけど、杏子たちじゃなくて、男でって意味」 好きな、人。 そう聞かれて、ある人の面影が不意に浮かんで、消えた。 優しくて大人で、一緒にいるとなんだか心が温かくなる――――そんな人。 そこまで考えて、ハッと顔をあげた。 答えを待っている彼に、思い切り首を横に振って否定する。「ううん、いない」「本当に?」「ホントに!」「――そっか」 彼は、時間とらせてごめんと謝りながら、送ると言ってくれた。「大丈夫。今日は、杏子達と約束してるから」「そうなんだ。じゃあ――ここで」「うん」 頭を掻きながら、少し背を丸めるようにして去っていく、彼の後姿を眺めていた。 好きな人。――その言葉が、急にすとんと心に落ちる。その瞬間、ギュッと何かに掴まれたように息苦しくなった。 思い浮かべると嬉しくて、なぜかちょっと悲しい。胸の奥がさわさわと揺れるようにざわめいて、酷く落ち着かない気持ち。 これが好きってこと、なんだろうか―――― 「あ、時間!」 気が付いて時計を見ると、もう約束の時間を過ぎている。杏子にメールを打とうとケイタイを掴むと同時に、それが震えた。 受信したばかりのメールを開くと、思った通りの相手。――早くしなさい―― 相変わらず、ビックリするほどタイミングのいい杏子に苦笑する。 簡潔に伝えられたメールにため息をついて、待ち合わせの場所に急いだ。 URL Comment(8)Edit