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誓約の地/漂流編77<濫觴(7)>


動きだした想いと抱える心。

それぞれの決意が、新たな時間を紡ぎ出す。






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「別に必要ないならいいのよ。でも、男だからっていつも立ち向かわなくもいいんじゃない?」

「慰めてくれるって?」

「楽しんでもいいんじゃない?」

「…………」

「こう見えても、私けっこう抱き心地いいわよ?」

「だろうね」

 普通なら魅惑的《みわくてき》な誘いになるのだろうが、修平は難題を与えられた気がして困惑していた。

 自分のことが好きだ――と言うのならまだわかる。

 失恋した相手に自分じゃダメかと近づいていくというのはよくある話だ。

 でも杏子の誘いはそれとは違う気がする。

 本気で一晩相手をするという気なんだろうか?

 だからと言って、俺のことが好きなのかと聞くのは躊躇《やめら》われた。

 この場でそれは、何だか間が抜けている気がする。

「失礼じゃ、ないの?」

「――――?」

 歯切れの悪い問いに、杏子が微《かす》かに眉を寄せる。

「俺はまだ優奈が好きだ。優奈が俺を見てなくても、あきらめなきゃって思っても、まだ心が追いついてない。気がつくと優奈を探して、優奈を見て――優奈をほしいと思ってる」

 今はまだ、名前を口にするだけで胸の奥がちりちりするような痛みを伴う。

 優奈の親友である杏子は、衝動に流されてもいい相手でないこともわかっていた。

「そんな俺と寝たら、俺は優奈の代わりに杏子を抱くことになる。優奈を思いながら杏子を抱いたら、よけい虚しいだろう?」

 やんわりと拒絶する。誰に対してでも無い、自分に向けた言葉だった。

 それでも杏子には充分伝わるはずだった。

「そうね。だったら虚しくなくなるまですればいいわ」

 深くため息をついた修平の横顔を見つめた後、杏子はゆっくりと視線を海へ流した。

「忘れる必要は、ないのよ」

「…………」

「あの子を本気で好きになったら、忘れるのは難しい。そんな男を何人も知ってる。離れることもできず、近づくこともできなくて、ずいぶん長い事苦しんでる男も知ってる。そのぐらい魅力的でしょ? ――でももう手遅れなのよ、残酷なようだけど」

「わかってる」

 振り絞るような掠《かす》れた声。短い言葉に彼の心情が籠《こも》っていた。

「あなたは、優奈に夢中になりすぎて間違えたの」

「――何を?」

「優奈を手に入れる方法」

「方法?」

「そう。あなたが勝つ可能性はあったと思う。確定ではないけど。そのくらいいい男よ、あなたも。――そうね、間違いなく」

「…………」

「確かに、優奈は初めからヒョヌさんに憧れていた。だから、あなたは分が悪かったわ。でもそれが全てじゃなかったはず。優奈を手に入れるには優奈の気持ちが一番ではあるけど、絶対じゃないのよ。彼があなたに負ける可能性もあった。 でも、彼は気付いたの、無意識かもしれないけど。何が自分に足りなくて、何が優奈に必要なのか。それにはどうしたらいいのか」

「…………」

「ホント、久々に出逢ったと思うくらい勘がいい男」

 「…………」

「あなたは気がつかなかったから、彼に負けたの」

「…………」


――気付かなかった、もの?


「それは、どんな方法?」

 少し驚く修平を感じて杏子は小さく微笑んだ。

「私を味方につけること。それがあなたと彼の違い」

「…………」

「優奈を手に入れるためには、絶対外せない条件なの。――絶対にね」

 修平は黙って杏子を見つめた。その視線を感じながら杏子は言葉を紡ぐ。

「修平もヒョヌさんも自分の恋に苦しんでいたのをずっと見てた。そして2人とも行動した。――あなたは自分のために優奈を傷つけて私を怒らせた。彼は優奈のために私に心を開いた。――それが違い」

 ゆっくりと日が傾き、夜の帳《とばり》が下り始める。

 2人はしばらく黙って海を見ていた。静かに繰り返される波の音だけが聞こえる。

「怒らせたのに、なぜ慰めようとする?」

 話を聞きながらずっと疑問だった。

 何故そこまで言い切るのに、自分を誘うようなまねをするのか。

「あなたが本気だったってわかってるから」

 ぼそりと呟いた杏子の一言に、修平の心が悲鳴をあげた。

 じりじりとせり上がる感情。

 指先が微《かす》かに震えるのを気付かれまいとして、両手をグッと握りしめる。

「優奈を愛してるのも、優奈を自分が守ろうとしていたのも、本気だったってわかってる」

 杏子はそう言って静かに微笑んだ。

 凛としたその視線は、真っ直ぐに海へと向けられている。


 修平はいつの間にか涙をこぼした。

 自分でもそれと気付かず、ただ静かに一筋の涙が頬をつたい零《こぼ》れていく。

 確かにそうだった。

 本気で守りたかった。こんなに愛したことはなかった。かつて一度も。

 相手を傷つけても手に入れたいと願う事はなかったし、本気の想いが叶わない、こんなに苦しくて切ない心を抱えた事もなかった。

 快活《かいかつ》に笑ういつもの彼はそこにはない。

 哀しみと侘しさに肩を落とし、俯いていく心とただひたすら向き合っている。

 杏子はそんな修平に、ただ長い時間静かに寄り添っていた。










     ***










 月が昇り月明かりが海を照らし始める頃、修平は屈《かが》めていた身体を起こした。

 仄《ほの》かに照らされた海を眺めてから無意識に隣へと視線を移すと、寄り添う杏子が微笑んでいる。

 人は人で癒される――杏子のその言葉にすがった。

 柔らかく微笑む杏子を引き寄せて、修平はそっとキスをする。

 彼女の柔らかい唇を何度も味わいながら甘い吐息を吸い込み、舌を絡めていく。



 長いキスを繰り返して、そのままゆっくり杏子を押し倒した。














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Comment

こんばんは!
おおお、修平さん、心の拠り所を見つけたみたいですね。涙を見せるなんて・・・他の相手にはしない、杏子さんにだからの弱さを晒している感じが切ないです!この二人は、まだ恋愛と呼ぶにははやいような、でも、二人だけの特別な関係が動き出しているのは確かですね!
二人の組み合わせがまた・・・!大人っぽい感じです!いやらしい意味ではなく、杏子さんがドライな感じに見えて、ずっと修平さんを誘っている所とか・・・・なんだろう、杏子さん、好きになったのかな!?とワクワクが止まらないです!!

この組み合わせはいい・・・・!!
優奈さんたちもラブラブですが、こっちはもっと別の・・・うまく伝えられないのがもどかしいです!が!この二人も応援しています!!

今回は修平さんの感情が吐露しだして、良かったですー!!
次回も楽しみです!が、無理のない範囲でどうぞ~!!応援しています!
なによしさん
なによしさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
喜んで頂けて、凄く嬉しいです*^^*
まだね、修平も苦しさですがったって感じですから。

>他の相手にはしない、杏子さんにだからの弱さを晒している感じが切ないです!
おお~~まさにそこです^^
そう思って頂けて嬉しい*^^*

修平の感情の吐露……これも杏子の魅力?^^
そう感じてくださったなら本望~~
恋に夢中な杏子も書いてみたいんですけど、これがね~~
杏子姐さん、難敵なんで(笑)
ありがとうございます^^少しストックがあるので大丈夫です^^
15日に更新して、週末ごとぐらいには大丈夫だと思います^^
更新を無理しないと決めたら、気が楽になりました(笑)

前からやりたかったXmasエピを考える余裕も出来たし^^
心配かけてごめんなさい。私も応援していきますよ~~^^b
  • 2011/11/14 01:52
  • YUKA
  • URL
  • Edit
杏子さん、修平くんのことを心の底ではどう思っているんだろう?

修平くん、杏子さんのことを心の底ではどう思っているんだろう?

今のままでは言葉のフェンシング状態だぞ(^^)
ポール・ブリッツ さん
ポール・ブリッツさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
> 杏子さん、修平くんのことを心の底ではどう思っているんだろう?
> 修平くん、杏子さんのことを心の底ではどう思っているんだろう?

そうですね。その答えは、たぶんもう少し先でしょうか。。。
  • 2011/11/14 16:54
  • YUKA
  • URL
今晩は

>人は人で癒される

素敵な台詞ですね

こうゆうところからも

愛が生まれれば

とか 思ってしまいました


愛とは違うかもしれませんが

報われない想いを

互いに癒しあう


ボクが想うに杏子は優奈のことを

愛してるのではないかと(loveのほうですw)

だから

癒しを求めてるのは

杏子のほうではないかと

思うのですw
  • 2011/11/14 19:23
  • いちごはニガテ
  • URL
いちごはニガテさん
いちごはニガテさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
人は人で癒される……ここから生まれる愛もありますね~
報われない想いを互いに癒しあう……さすが!表現が素敵です^^
杏子の優奈への想い――
その想いがなんなのか。。。
ちょっと先ですが、拘る理由も少しずつ出せたらいいなと思ってます^^
読んでくださったら嬉しいです。
  • 2011/11/14 20:39
  • YUKA
  • URL
お久しぶりです、チョコです^^
まとめて一気に読みたかったので
実は読むのをずっと我慢してたのですよ。
続きが気になり過ぎる派なので
やっぱりまとめて読んだ方がスッキリと言うか自分に合ってます^^

まとめ読み最高でした!
やっぱりぐいぐいと物語に引き込まれるのを改めて実感しました。
本当に面白いです!!

今回1番感じた事は「修平に対する気持ち」です。
ちなみに私の気持ちです(笑)
彼の切ない恋心、でもけじめをつける事が出来た、
そんな感じがしました。
涙をこぼした彼があまりにも悲しかったです。
嫌いなキャラなのに、彼の辛い気持ちとシンクロしました。

ごめんよ、修平。
もう前みたいに君の事嫌いじゃないから
優奈を守って欲しい。
ヒョヌや杏子の様に優奈を守って欲しいです。
コウジから!!!

次はepisode.0(全7話)が終了するまで読むのは我慢です^^
では。
チョコさん
チョコさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
おお!一気に来ましたね?^^
わかりますよ~~~私も基本的には、まとめて一気読み派ですから^^

喜んで頂けましたか?嬉しい~~^^
修平に対する気持ち……
修平嫌いのチョコさんにそう言って頂けて、修平も本望でしょう(笑)

あはは。
修平を含め、彼らがこれからどう行動するか
待っていてくださると嬉しいです^^
まとめ読み了解です^^b
7話終了はクリスマス前ぐらいかなぁ~~^^
忙しいのに遊びに来てくださって本当にありがとう~*^^*
  • 2011/11/15 17:15
  • YUKA
  • URL
こんばんは
YUKAさん、こんばんは。

杏子さんの本心が気になりますね。
いつも一歩引いて一段上から周りを冷静に見下ろして
いる彼女が、どういう経験と葛藤を経てその立ち位置に
立ち得たのか興味がありますね。

執筆マイペースで頑張って下さいね。
  • 2011/11/24 23:04
  • gimonia
  • URL
gimonia さん
gimoniaさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
杏子――彼女は本当に老成した考えの持ち主で^^;;

>経験と葛藤を経てその立ち位置に立ち得たのか――
その一旦は、「追憶編」で少し書く予定でいます^^
まだまだ「漂流編」も終わっていないので先ですが(笑)
興味を持って頂けると、俄然張り切ります!(単純)
いつも優しい言葉をありがとうございます^^
  • 2011/11/24 23:47
  • YUKA
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