QLOOKアクセス解析

誓約の地/漂流編・60<楽園(3)>


大きく揺れ出す様々な想いの始まりは、小さなイベントだった。


遭難中に抱える、不安とストレスの解消が目的の水着選び。

それが思わぬ歪みを生みだしていく――
================================================



「聞いてもいいですか?」

「はい?」

 ヒョヌはソンホに話しかけた。

 以前優奈が言っていた「女として見ていない」の発言の原因を、いつか彼に確認しようと思っていたのだ。

 どんな経緯でそんな話になったのか――きちんと真相が知りたかった。

「なるほど、ね」

 真相を聞いてヒョヌは苦笑いした。

 確かに嘘は言っていない。しかし真実でも無い。

 完全に意図的な伝え方――それだけ修平も警戒していたってことだ。

「僕も、変だと思っていたんですよ」

「…………?」

「暫くして、急に優奈さんがヒョヌさんによそよそしくなって。何かあったのかなと思ってはいたんですけど口を出すことでもない気がしてね。杏子さんに聞いた時は、さすがに腹が立ちましたよ! 姑息だなって」


「まぁ、確かに」

「でも、それを聞いた後の優奈さんも嘘は言ってないって言うし。現実を見ろっていう忠告だって。僕にはヒョヌさんには好意があるって言うことが現実に見えましたけどね?」

 冷やかすように話すソンホの笑いを含んだ声に、ヒョヌは空を見上げながら呟く。

「まぁ……お互いすれ違ってましたからね」

そう言って笑うヒョヌに、ソンホは頭を掻きながら謝罪した。

「すみませんでした」

「何が?」

「ヒョヌさんの耳には入れないように、口止めされてましたから」

「――あぁ、あれか。当然の判断ですよ。しかも杏子ちゃんに話してくれたから今があるのかもしれないし」

 だからいいですよ、そう言うヒョヌにソンホはもう一度頭を下げた。

「ヒョヌさんが何に悩んでいるのか、彼女は知ってたと思いますけどね」

「杏子ちゃん?」

「はい。韓国の事情やヒョヌさんの活動――まぁ、韓国での彼女の話なんかも聞かれました。あまり詳しくないと言ってましたけど、意外とよく知っていて。優奈さんが韓国に行くって聞いてから、一通りは調べたって言ってましたね」

「だから、僕の交際も知ってたのか」

「でも、それは問題じゃないって言ってましたよ?」

「どういう意味ですか?」

「杏子さんが言うには、他に付き合っている人がいるかどうかは関係ないそうです。既婚者は問題外だけど、彼女がいてもそんなの別れればいいだけだから、問題ないって言ってましたね。――それはそれでどうなの? って思いましたけど」

 呆れたように笑うソンホの声に、ヒョヌも噴き出すように笑った。

 なるほど杏子の言いそうなことだと思う。

「ただ、別れ方というか、別れた時の影響なんかを気にしてましたね」

「影響――ですか?」

「ええ。ヒョヌさんなら連絡手段があったらとっくに別れてるでしょ? ってね」

 そうですねと苦笑するヒョヌに、ソンホは浜辺の砂を掬うように弄びながら笑いかける。

「まぁ、今までは優奈さんにその気がなかったようですけど」

「杏子ちゃんの目も光っているしなぁ」

「ですね」

 顔を見合せて笑う2人は、何度か話した杏子の様子を同時に思い出していた。

「杏子ちゃんは、自分の中に基準を持っている人ですから」

 ヒョヌが海へ視線を向けたまま告げるとソンホはヒョヌを覗き込んで問いかける。

「基準?」

「例えば恋愛に関しても――世間の常識はもちろんわかった上でなんでしょうけど、それとは別の、なんて言うのかな。
 独自の哲学と言うか、基準になる様なものがある気がしてね」

「あ――、なるほど」

「優奈に関しては特に、ね」

「親友として、というよりむしろ姉としてって感じでしょうかね」

「僕もそんな感じがしてますよ」

「彼女を敵に回したら――交際は上手くいかないですか?」

 何気ないソンホの問いかけに、ヒョヌは一瞬考えてから口を開いた。

「それもそうなんですが。――それとは別に、彼女を敵に回したら命にかかわる気がします」

 ヒョヌは内心本気で言ったのだが、ソンホは楽しそうに声をあげて笑っていた。

「心配しているんでしょうけど。優奈はしっかりしている所とそうでない感じと……落差があるっていうか……」

「ですね! 育ちのいいお譲さんって感じがしますけど。お父様が外交官だって言ってましたね」

「みたいですね。――あぁ、だから国連がどうのって話になったのかな?」

「そうかもですね。彼女がもともと同時通訳者ですから。国際会議にも参加していたようですし、各国の要人とも知り合う機会があったのかもしれませんね」

「へぇ――、だからあの語学力?」

「あそこまでいかなくても、なれると思いますけど。今まで通訳が本業で、翻訳が副業だそうで」

「どっちも語学絡みですね。まぁ、あれだけできるなら当然か」

「見えませんけど、杏子さん曰く『仕事の鬼』だそうですよ?」

「――確かに見えない」

 へぇと目を見張ったヒョヌは、思わず呟いた。

「ね。でも、通訳のほかに翻訳までこなすんですから相当です」

「……変、なんですか?」

「変ではないですけど。通訳だけでも極めるのは大変です。しかもあれだけの言語を使い分けるんですから。それと翻訳はまたちょっと別ですね。聞いて話すことと、書くことはまた別と言うか」

「なるほど」

「同時通訳は、通訳の中で花形の仕事ですしね。彼女の年齢で聞いた経歴は相当優秀です。それ以外の時に、どうしてもと頼まれて有名人の通訳なんかもしていたそうですが。――普通、両立はしないものなんですけど」

「そうなんですか?」

「ま、出来ないというより、ジャンルが違うって感じでしょうか? 例えば、俳優さんの仕事でも、映画とドラマ、史劇と現代劇――っていう感じの違い? まぁ、俳優さんだと挑戦する醍醐味もあるでしょうが、求められるスキルが少々違うってことです」

「へぇ、なるほどね」

「テレビなどには出ていないそうなので、完全に裏方だそうですよ」

「そうなんですか?」

「はい。美人ですからね」

「…………?」

 疑問を浮かべるヒョヌの表情に苦笑しながら、ソンホは内緒話のように続ける。

「例えば有名スターの通訳が、人目を引く美人だと――ファンがね」

「あぁ」

「だから取材中の通訳というよりは、テレビなんかに映らないところでの個人的な通訳だったようです。僕も噂では聞いた事がありましたが、まさか優奈ちゃんだったとは――」

「へぇ、どんな噂ですか?」

「スターに指名される美人通訳者がいるって。ヒョヌさんは違いますけど、スターさんは我儘な場合が多いので。優奈さんを気に入った方は、彼女の言うことを聞くらしいんです。本人も事務所も、それからイベントなんかの主催者も彼女指名が多いって聞いた事があるんです」

「なるほど。――らしい、かな」

「どんな子だろうと思ってましたが納得です。本業もあるでしょうし、結構依頼が多かったらしくて――
 ある意味、スターのスケジュールを押さえるより大変だって言われてました。
 彼女じゃなきゃダメだっていう方もいたらしくて。
 スターが通訳のスケジュールに合わせるなんて凄いと思いましたから、良く覚えているんですよ!
 一般人と言えば一般人でしょうけど、この業界では実はかなりの有名人だと思いますよ? 
 ある意味、注目されるでしょうね」

「そうですか」

「大丈夫ですか?」

「ん?」

「ヒョヌさんも有名人ですしね。なんて言われるかわかりませんが、僕は味方ですよ。応援します」

「ありがとうございます。考えていないわけではないですが、助かってみないと何となんとも」

「ですよね」

「それでも、彼女は絶対に守りたいと思ってますけどね」

















関連記事

Comment

こんばんは、なによしです!
今回はヒョヌさんの気持ちが全面に出ていますね!
優奈さんを守り抜く・・・!とても固い意思でしょうね・・・!
しかし、水着の話から、ヒョヌさんの想いまでを読んで、未だに歪みとなる要因が分からない自分・・・。一体、どうなるのだろう!?というハラハラワクワクが止まりません!
応援しています!
なによしさん、こんばんは^^
なによしさん、こんばんは^^
読んでくださってありがとうございます^^
この「楽園」の章は、私の中では結構長めの章です^^
だからまだ、これからなのです♪
実は、今までのお話しの中に(楽園以外です^^)
ほんの少しだけ伏線をひいているんですが
少し過ぎて、自分でも忘れそうでした(笑)
もうちょっとわかりやすくするべきだったかなぁ。。。
きっとわかった時には
「わかりずらいっ!」と叫ばれることと思います(笑)
  • 2011/10/26 03:31
  • YUKA
  • URL
こんにちは、チョコです(●´ω`●)

今回はボーイズトークのお話ですね。
そんな会話の中、優奈がいかに優秀で
かしこい女性かと言う事がよく分かったお話でした。
とっても羨ましい.....
才色兼備ってこういう事を言うのね...なんて思ったり。
でも私の中のそれは杏子姐さんです^^

ヒョヌが
「彼女は絶対に守りたい」と思ってる様でひとまず安心しました。
その気持ちを貫くのだ!ヒョヌ!!

続きが楽しみです.+゚(o(。・д・。)o).+゚
チョコさん、こんにちは^^
チョコさん、こんにちは^^
はい、色々説明っぽくて申し訳ない回ですが^^;
ヒョヌは本気ですよ、きっと♪
お約束通り、2人には色々あると思いますが(笑)
ずっと「愛」は持っているのです。。。
ハラハラ、ドキドキ、イライラさせるかもですが
最後までお付合いくださると嬉しいです*^^*
――長いですけど(笑)
  • 2011/10/26 12:13
  • YUKA
  • URL
Comment Form
公開設定


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。