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誓約の地/漂流編74<濫觴(4)>


動きだした想いと抱える心。

それぞれの決意が、新たな時間を紡ぎ出す。





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 修平のセリフを受けて、ヒョヌは小さく頷いた。


――さすがにここじゃまずいよな。


 岩だらけにこの場所で万が一転倒したら、運悪くお亡くなりに――なんてことになりかねない。

 せめて砂浜へ移動するかと少し腰を浮かせた途端、修平にガッと腕を掴まれた。

「ありとは言ったが、やるとは言ってねぇよ」

 口の端で小さく笑うその様子に、ヒョヌが眉を寄せる。

「やらねぇよ」

「なんで?」

「殴るってことは、そこでチャラにしようってことだろう? ここでチャラにしてやるつもりはねぇな」

「…………」

 そう言うと、修平はすぐにヒョヌの腕を放した。

 そのまま、足元に置いていたミネラルウォ―タ―を掴んで、くいっと蓋《ふた》を捻《ひね》る。

 真顔で黙ったヒョヌの視線を感じながらごくりと一口飲み込むと、また静かに蓋を閉めた。

「……悪かった」

 振り絞るように放たれた修平の一言。


 それを受けたヒョヌは驚いて、思わず修平の顔を凝視した。

 修平はその視線を感じながら、伏せていた双眸《そうぼう》をあげて海を眺める。

 傷つけてもいいはずなんてなかった。

 それでも、あの時は頭ではなく心が動いた。

 このぐらいのことで壊れるなら2人それまでだろう――そう自分にそう言い聞かせてた気がする。


 でも違った。

 そんなやり方を駆使しても、ダメなものはダメだと思い知らされた。

 いやむしろ、そんなやり方を使ったからこそ心の中に小さなシコリを作った気がする。

 好きな女を震えるほど傷つけていいなんて理屈は、どこにもない。

 らしくない――

 そう言った杏子の声が、修平の耳の中でずっと反響していた。

 突きつけられた現実で目が覚めて、そんなことさえ見失っていたのかと愕然《がくぜん》とした。

「俺も誓うかな」

「何を?」

 胸に去来《きょらい》する様々な想いを飲み込んで、修平がゆっくりと言葉を紡《つむ》ぐ。

「もう二度と、卑怯な真似はしない」

「…………」



――気に病んでたのか。


 ヒョヌは一瞬目を伏せて、心の中で苦笑する。

 修平が本気なのはわかっていた。

 優奈へ意図的に伝えた言葉以外に、そんな作為《さくい》は一度もなかったから。


 むしろ、自分が言葉の壁を感じてもどかしい思いをしていた頃――

 みんなの中心で快活《かいかつ》に笑い、優奈を支えようとさり気なく奔走《ほんそう》する彼を何度も目撃した。

 優奈には自分より修平の方がいいんじゃないか。

 その方が幸せになるんじゃないか。

 気を許すと浮かび上がるその問いを認めたくなくて随分もがいた。

 渡したくない、渡すもんかと意地になってた気がする。

 逆の立場だったら、言えただろうか。

 本気になった女性との恋に破れた直後、その相手に事実を突き付けられているこの状況で、自分の使った手段が間違っていたと、これを悔いていると謝れるだろうか。

「修平は、いい男だな」

 ヒョヌの小さな呟きを聞き咎めて、修平が眉尻をあげる。

「この状況で、あんたがそれを言うか?」

「ん? ああ、そうか。そうだな」

 嫌味で言ったんじゃないよと笑うヒョヌに、修平は肩をすくめる。

「本当に約束を守るのか、見届けてやろうと思ってさ」

 そう言ってにやりと笑った。

 だからまだ、チャラにはできない――

 自嘲気味に笑いながら告げる修平の言葉を黙って聞いていたヒョヌは、問題があるなら言ってみろと言わんばかりのその口調に、ヒョヌが少し眉をひそめる。

「――守れなかったら、奪っていくって?」

「どうかな。でもその時は、お望み通り思いっきり殴ってやる」

 一発で許してはやらねぇと言って笑った修平の横顔を見て、ヒョヌはまた小さなため息をついた。

 わかった――ヒョヌがそう呟いたあと、2人は暫く黙っていた。

 時折吹き抜ける潮風を肌に感じ、同時に互いの存在を意識しながら、降り注ぐ太陽に煌めく海原を眺めている。

「気の長い話になるかもな」

 突然話し始めたヒョヌに修平が反応した。

「なにが?」

「問題は救助されてからってことだろう?」

「だろうな」

「…………」

「俺はまだ、完全にヒョヌさんの誓いを信じたわけじゃねぇからな」

 その一言に、ヒョヌは少しカチンときた。

「普通――誓いってのは、守るためにあるんだろう?」

「そうだな」

「守れない約束を、男が簡単に口にするもんじゃない」

「当然だな」

「嫌がらせ、――ってわけじゃないか」

「当り前だ。それとも何か? やっぱり自信がないってことか?」

 お前の誓いはその程度かと、暗に含んだ修平の口調に苦笑いする。

「随分苦労させられたからな――」

「だから! もう卑怯な真似はしないって言ってるだろ?」

「別に疑ってるわけじゃないけど」

「そうか?」

 問いかける修平の視線を軽く流して、ヒョヌは目の前に広がる海に視線を移した。

 海面で反射する光がゆったりとした波で揺れているのを眩しそうに眺めながら、両手を腰かけた岩について身体を支えて両脚をなげ出すと、ワザとらしく大きなため息をついて言った。

「じゃあ、もう気を使うのはやめることにする」

「なんだ、それ? 使ってたつもりだったのか?」

「それなりに気を使ってたつもりだけどな」

「そりゃあ、どんな冗談だよ」

 顔をしかめながら、修平が余計なお世話だと呟く。

 とことん意地を張り続ける修平の態度にヒョヌは素直に感心した。

 と同時にふと思いついて修平の横顔に視線を向けた。
 
「わかった。これからたっぷり見せつけよう」

 楽しみにしてろと断言するヒョヌの言葉に、修平は何とも言えない顔になった。

 それこそどんな冗談だと内心愚痴ったが、それでもここまで意地を張った以上、止めてくれとは口が裂けても言えない。

 うっすらと笑みを浮かべるヒョヌの横顔から、充分わかった上での嫌がらせだと想像がつく。

 耐えきれず、がしがしと頭を掻いて振り絞るような声で呻いた。

「――この野郎」

 吐き出された修平の一言に弾かれて、2人は同時に小さく笑った。

















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Comment

こんばんは!
なによしです!

修平さん!あんたァ漢と書いてオトコと読むほどいい男だよ・・・!素直に恋敵に敗れたことを認めて卑怯な行いを詫びるなんてさ・・・!ヒョヌさんもいい男ですが修平さんも、もうどんどん株が上がっていますよ!こう・・ネチネチしていない爽やかさというか、サッパリとした一面がより一層男前ですね!というか、この二人が仲良く?していると優奈さんが幸せだと思うのですよ・・・・!修平さんならできるよ、きっと!仲良くなってくれー、と盛大に応援しています!!
今回はホント、男同士の潔さというか友情にも似た感触が心地よかったです!!
次回も楽しみにしています!!
  • 2011/11/11 00:18
  • なによし
  • URL
なによしさん
なによしさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
おお! 盛大な応援ありがとうございます^^
修平株、急上昇ですか?^^
そうですね~~
もともと修平は、屈託のない男(漢^^)ですから、
今までの自分が許せないんですね^^
そんな雰囲気や、修平の潔さみたいなものが伝わったら嬉しいです*^^*
まだ、仲良く――というのは先になりますが、
ここから先、男の友情も描けたらいいなと思います^^
ヒョヌと修平……どっちも好きなんですよね~~
自分で作ってるんですけど(笑)
  • 2011/11/11 01:49
  • YUKA
  • URL
う~ん、やっぱり修平はいい男でしたね!
惚れなおした!(笑)

修平の辛さを慮るヒョヌさんも素直でいいですね。さすが大人だ。彼の柔らかな性格が伝わってきます。

ヒョヌさんに、私の秘書になってほしい(あくまでも、恋人じゃなくて秘書(笑)
西幻響子 さん
西幻響子さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
惚れ直しましたか?^^
西幻響子さんは、最初から目を付けてましたもんね~
杏子並に、お目が高い!(笑)

ヒョヌはね~~優しい大人の男です^^こっちも捨てがたい(←何が?)
ヒョヌは秘書ですか?^^じゃあ、恋人は銀次~~~?(笑)
――なんて贅沢なっ!いいとこ取り過ぎです~p(`ε´q)
  • 2011/11/11 16:18
  • YUKA
  • URL
こんばんは
YUKAさん、こんばんは。

なんだか二人ともイケメンでしかも爽やかって
反則ですよねww
恋は人を磨くんですね。
私なんか原石のままで、表面なんかもうザラザラですww
最近脂も少なくなってきてカサカサしてます。

続きが少なくなってきました。
大事にとっておこうと思います。
執筆頑張って下さい。
  • 2011/11/21 21:06
  • gimonia
  • URL
gimoniaさん
gimoniaさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
イケメンで爽やかは反則ですね~~(笑)
私の好みが2人ですね~~
男も女も、恋で磨かれるんですね^^
もう!gimonia さん面白いです♪
潤いは身近にあるものですよ^^

――あ、最近更新が遅くてすみません^^;;
はい、頑張ります^^
  • 2011/11/21 22:38
  • YUKA
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