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誓約の地/漂流編・49<忠告(2)>




ある日、杏子は男性陣を呼び出して……



episode.2<愛する気持ち>を改稿にあたり本編に組み込みました。





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 ある日、突然杏子が男性だけを医務室に呼び出した。

 集まった男性の中心に、大きな袋の中身を出して山にする。



 避妊具だった。


 ソンホにジャン、佐伯にマークへの通訳を頼み、皆が唖然とする中で杏子は腰に手を当てて説明をする。

「相手のいる人も、いない人も携帯して頂戴」

「…………」

「わかっているとは思うけど、この島で妊娠したら大変だから」

「するなら避妊しろってこと?」

「そうよ」

「何で急に?」

「客船で見つけたものと、ここにあった荷物の中に入っていたものを集めたの。
 ここに移動して、2人部屋とはいえ個室が出来たわけだし。
 気分が盛りあがるのはかまわないけど、マナーは守ってほしいのよ」

「相手がいないよ」

「今いなくても、ある時突然、盛り上がるかも知れないでしょ?」

「…………」

「これが、お誘いなら嬉しいけどね」

 ツヨシが苦笑しながらそう切り出しても、杏子は全く意に返さず呆れたように先を続ける。

「装着が好き嫌いにかかわらず――
 付けずにして相手が妊娠したら、未必の故意で下手をすると殺人ですからね?」

「――――!」

 杏子のペースで呆気にとられていた男性陣は、この発言に再び目を丸くする。

「穏やかじゃないなぁ」

 杏子の醸し出す不穏な空気を和ませようと、ケイタが揶揄するように苦笑した。

 杏子は一瞥して切り返した。

「リスクは冒せないので、簡単に説明しますけど」

「…………」

「元々、妊娠出産は、すごくリスクがあるものなの。現在の医学では、死亡率はかなり下がっているけど。
 ここでの出産はきっとは原始に近いものでしょう? アフリカなんかの少数民族と同じくらいかしら。
 しかも彼らのように培った経験もないの。
 まともに生まれればいいけど、万が一胎児や妊婦の状態が悪化しても、設備も薬もまして栄養用の点滴すらない」

「…………」

「そして流産や死産の場合、完全に排泄されればいいけれど、最悪、体内に残る」

「そうなると?」

「痛んだ物を食べればおなかを壊すでしょう? 痛んだままの物を子宮に入れておけば炎症を起こす。
 それで感染症なんかになれば、下手すると亡くなるわ。
 流産や死産なんかの場合、病院で手術になることもあるっていうのはご存知?」

「…………」

「愛の結晶の赤ちゃんなんていうのは、胎児が生きている場合だけ。
 何かの理由でダメになった時、女性の体にとって相当な負担になってしまう。
 ましてここでは、何もできないに等しいのよ? 
 ここにいる女性たちは、私も含めて全員妊娠の可能性のある人たちだし。
 女性の生理は、環境やホルモン、ストレスなんかでも大きく変化すると言われてるわ。本人が意識していなくてもね。
 この状況は、決していつも通りの環境じゃないから、多かれ少なかれ影響してる。
 だから俗に言う安全日なんて信じないでね? 男性に常に気をつけていただくしかないのよ。
 ――これは忠告。よろしいかしら?」

 そう言って、その場に集まる男性陣を見渡すと、最後にヒョヌと目を合わせた。

「するな、とは言わないんだ」

 修平が、肩をすくめながら笑っている。

「いい大人がダメって言われて、『はいそうですか』って聞くと思う?」

 何を言っているのかしら、という心の声を隠さない杏子の様子に、修平は苦笑した。

「そりゃ、そうだな」

「でしょ? 嘘は言えないしね」

「嘘?」

「ダメ、とは思ってないもの」

「そうなの?」

「そうよ? 悪いことするわけじゃないでしょう?」

 くすりと笑う杏子に、修平はちょっと目を見張って口の端で笑う。

「――ここでは、リスクがあるんだろ? ダメって言った方が早い気もするけどな」

「リスクがあるから燃える、っていうバカは許さないって言ってるの」

「いざとなったら、きれいさっぱり忘れて暴走するかもしれないぞ?」

「あら、ここにいる女性たちが、そんなバカな男を選ぶ、バカな女だと言いたいのかしら?」

「そうは言ってねぇよ」

「そんなバカな男も女も、庇ってやるほど優しくはないけどね」


 杏子は面倒くさそうに髪をかきあげた。

 彼女達のリスクを先回りして、こうして話をしている――

 自分で言う以上に、優しいんじゃないのか? と修平は苦笑する。



 ヒョヌは、その間ずっと杏子の様子を伺っていた。

 杏子がなぜこんな話を突然し出したのか、心当たりが思いっきりある。

 そして、杏子が暗に含んでいるものもわかっていた。

 ヒョヌと杏子、2人の視線が一瞬交錯する。


――優奈に何かあったら承知しないわよ? 


暗にそう言われた気がして、ヒョヌは無意識にのけ反った。

 ほんの一瞬だったが、その視線は厳しい。

 口元だけ微笑んでいるから、尚更怖い。

 わかってるわよね? と念を押す表情は、完全に自分に対してのプレッシャーだと思う。


――殺気って、本当に感じるんだな。


 苦笑するヒョヌを綺麗に無視して、杏子は修平に声を掛けた。

 「それとも、きれいさっぱり忘れて、暴走する自信があるの?」

 修平は呆れたような表情のまま、脱力した。

「――そりゃあ、どんな自信だよ」

 杏子の懸念は良くわかる。確かにリスクの方が大きい。

そんなバカはしないと杏子に告げた修平は、腰かけていたソファーに深くもたれかかった。

 杏子と修平の話が終わったのをきっかけに、口々に全員の同意を得た杏子は、妻帯者のジャンと婚約者のいるマークに念を押す。

「ジャンさんマークさんも例外ではないわよ? 子供は生還してからにしてくださいね?」

 そこまで言うと、いつもの艶やかな笑顔を振りまいて最後は歌うように告げた。

「じゃあ、サイズがわからないから各自でどうぞ。相手のいる方は多めに取って。
 ただし、これしかないから自分の分を使いきっちゃたらお互いで助け合ってね。
 余った分は医務室で保管するから、残りを佐伯先生に渡してくださいな」

 それだけ言うと、杏子は颯爽と医務室を出ていった。



「やれやれ」

 医師の佐伯が、独り言のように呟いて苦笑する。


 残された男性陣は、山のような箱の前で、無意識にお互いの顔色を伺っていた。















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Comment

チョコです^^

姐さん素敵!!
私一生付いて行きます!!

いえいえ、姐さんはいつも正しいよ。
実際に姐さんみたいな人がいたら
ちょっとキツいかな?って思われちゃうかもだけど
この人は凄く真面目で正しい事を言ってるよ+゜。*゜+

本当にかっこいい女性って
きっと杏子姐さんみたいな人の事+゜。*゜+

でも
この人凄く優しいよね+゜。*゜+
チョコには分かるよ〜〜+゜。*゜+

チョコさん
チョコさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

そうなんです!
かなりきついことでも平気でいう人ですが(笑)
真っ直ぐな人ですね^^
彼女も彼女なりに色々あるのですが、それはまた別の機会で^^
カッコいい女性と言って頂けて、杏子も酔えお混んでいると思います^^
私も喜んでますけど~~^^

チョコさんのコメントに浮かれるYUKAでした^^
  • 2011/12/27 16:52
  • YUKA
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