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誓約の地/漂流編73<濫觴(3)>



動きだした想いと抱える心。

それぞれの決意が、新たな時間を紡ぎ出す。





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 修平はいつものように、海でひと泳ぎしていた。

 ヒョヌが、体力作りに浜辺を走りこむのと同じように、修平は泳ぐことにしている。

 30~40分一気に泳いだ後、休息をとるために浜辺に上がってきた。



 優奈とヒョヌを、西側の海に突き出た岩場で見かけて以来、修平は休息場所を変えた。

 今では生活拠点が教会に移ったため、余程の用が無ければ、みんながあまり近寄らない場所――

 以前の岩場とは逆の東側の岩場まで来ることにしていた。

 まるで岩盤のように続くその場所は、横になるのも困らない。

 島の東に位置するこの場所は、西側の岩場より日が陰るのが早い。

 すでにじりじりと太陽が照りつける時間を過ぎ、幾分日差しが柔らかくなっている。

 修平は洞窟から持ってきて、日差し除けにTシャツを掛けておいたペットボトルを取った。

 置きっぱなしにしていた水は、既にぬるい。

 その水を一気に喉に押し込み、蓋《ふた》を締める。


――もう、恋は終わったはずだ。それはわかっていた。


 何度も必死に自分に言い聞かせている。


――幸せになろうとしている女に、しつこく執着するのは本来自分の趣味じゃない。


 それでも夢中になっていた自分の想いをすぐに忘れられるはずもなく、優奈を見ればまだ胸が痛い。

 だから心に折り合いをつけたくて泳ぐ。

 綺麗な海と泳いで疲れた身体が、自分の女々しい心を洗い清めてくれる気がしていた。
 










     ***











 いつものようにひと泳ぎして岩場に腰かけて休息をしていると、不意に声を掛けられた。

「ちょっと、いいかな」

 その声に驚いて振り返ると、真剣な表情で立っているヒョヌと目があった。

「――何?」

「話がある」

 そう言って自分を見つめているヒョヌの様子に、一瞬言葉が出てこない。

 そんな自分を振り切るように頭を振り、口の端で笑いながら肩をすくめた。

「報告にでも、来たのか?」

 自重気味に笑う修平から目を逸らさず、ヒョヌは「あぁ」と肯定する。

「わざわざ言いに来なくても、もう知ってる」

「もう知ってるって、知ってるよ」

 真顔のままつっ立っているヒョヌの言葉に、修平が揶揄《やゆ》するように反応した。

「じゃあ、なんだ? 惚気話《のろけばなし》でもしにきたか?」

 その問いに答えず、ヒョヌは黙って移動する。

 そのまま、海を眺めながら静かに笑っている修平の隣に腰をかけた。

 そっと隣に腰かけるヒョヌを一瞥《いちべつ》しただけで、修平も黙ってそれを受け入れる。

「優奈と、付き合ってる」

「…………」

「それをきちんと言いたかった。言うべきだと思ってたから」

「なんだ、それ」

「僕なら、ケジメをつけたいと思うから、かな」

「…………」

「泣かせる真似はしないと、誓う」

 修平の喉がぐるりと鳴った。

 その声にはっきりとした意志と決意を感じて、修平の胸がキリキリと痛む。

 その意志も決意も、まだ自分の中にあるものだ。

 燻《くすぶ》る感情がせり上がって、わけも無く叫びたい衝動にかられる。


 だが誓った。

 もう二度と、自分に恥じる真似はしない。

 みっともない真似を晒《さら》すのは、もうまっぴらだと。

「――出来るのかよ」

「するよ」

「俳優は?」

「続ける」

「韓国で?」

「そう」

「優奈も?」

「それは、わからない」

「…………」

「必ず、守る」

 会話を交わす間、2人は一度も視線を合わせなかった。

 静かに打ち寄せる波の音が聞こえるほどの沈黙の中でさえ、それは変わらない。

「――そうか」

 ぼそりと呟いた修平の声は、心なしか掠《かす》れていた。

 同意ではなく、決意を滲《にじ》ませたその小さな呟きに、初めてヒョヌが修平に視線を向ける。

「いいの?」

「何が?」

「一発ぐらい、殴るかと思った」

「…………」

「いいよ。一発は受け止める」

 ヒョヌの言葉に海に向けていた視線を足元へと落とし、ふぅと小さく息を吐いた。


――なるほど。遺恨《いこん》を残さないように、一発は殴られる覚悟で来たってことか。


 ヒョヌを一瞥すると、修平は口の端をあげた。

「一発で済むと思ってんのか?」

「思ってない。一発は受け止めるって言っただけだ」

「二発目以降は?」

「当然、やり返す」

 即答するヒョヌに少し驚いて目を見張ると、呆れたように肩をすくめる。

 忘れていた。

 穏やかな風貌に似合わないほど、実はかなり勝気だとあの対決で知ったはずだった。

「言っとくけど俺、そんなに弱かねぇぞ?」

「ああ」

 飄々《ひょうひょう》とした態度に少しムカついて、顔の形が変わるほど殴ってやろうかと物騒なことを考えていると、それを見透かしたようにヒョヌが呟いた。

「――できれば、顔は避けてほしいけど」

「俳優だからか?」

「いや?」

 そんなことはどうでもいいとばかりに否定するヒョヌを、修平は眉を寄せて横目でちらりと一瞥した。

 ヒョヌは視線を海へ向けたまま、修平の無言の問いに答える。

「優奈が気にするだろう?」

 だから出来れば見えないところにしてくれると有り難い――そう言って小さく笑った。

 視線を流してきたヒョヌの目は、わかるだろうと暗に語っている。


――確かにな。


 怪我を見れば一番気にするのは優奈だろう。


――で、この解決方法でチャラにするのも優奈のため、ってことか。

 そういうけじめのつけ方は嫌いじゃない。



 ヒョヌの胸の内を理解して、修平が小さく笑う。

「まぁ、それもありだな」















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Comment

こんばんは!
おおお!ついに二人の決着が幕を下ろしたようですね!この二人、キチンとプライドや信念を持っているため、絶賛中!(笑)
ぜひとも、少しづつ仲良くなって欲しいですね♪

そして、殴り合い・・・楽しみです!
そういえば、前回のバトルはガチバトルではなかったのですし、正式には今回が初バトルなのか・・・
次回も楽しみにしています!
なによしさん
なによしさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪
絶賛中~~!ありがとうございます。
2人が仲が悪くて話さないので、私が辛い(笑)
ガチバトル……2人がどうするのか、明日見届けてください^^
  • 2011/11/10 00:56
  • YUKA
  • URL
おお~。なかなか順当に、二人の男の話し合いが進んでますね。

久々に、ちょっとかっこいい修平くん。
「もう二度と、自分に恥じる真似はしない」
うむうむ、それでこそ男だ!(笑)

ていうか、修平くん、韓国語理解できたんでしたっけ?優奈に習ったんでしたっけ??(すみません、あほな質問して ^^;
西幻響子 さん
西幻響子さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
あはは。
そろそろね~~ヒョヌと修平の会話が書きたいんです(笑)
つ、辛かった~~
実はヒョヌより修平の方が描きやすかったりします^^

修平の韓国語~~ふふふ。修平はまだできません。
ヒョヌはもうペラペラの域です^^
優奈が約3カ月かけて教えてますから~~^^
韓国語⇔日本語は、本気でやると2~3か月で結構話せるようになるそうですよ~
実は、そんな記載も何処かで入れました(エヘッ*^^*)
そのキッカケエピは、また差し込みますけどね。
だから、その後のみんなとの会話は基本的に日本語です^^
  • 2011/11/10 17:54
  • YUKA
  • URL
YUKAさんこんばんは♪

ランキング不動の1位ですね♡

男の友情が芽生えそうな…
修平君やっぱり優奈の事なかなか
忘れられないですよね><;

奏響 さん2
奏響さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
いや~~~ん、久々に話しかけられる(笑)
コメント読んで見てきました。ありがとうございます^^
でも不動ではないんですよ~~、たまたまなんです^^;;
今日はなんだかいつもより、遊びに来てくださっている方が多いみたいで^^
男の友情~~いい響きですよね(笑)
まぁね~忘れられはしないでしょうね~
これから修平がどうするのか、お時間のある時に見届けて頂けると嬉しいです*^^*

  • 2011/11/10 23:36
  • YUKA
  • URL
あっ、そうか~!
ヒョヌさんが日本語話せるようになったんですね。
すみません、失念していたようです ^^;

ほほう。
ヒョヌさんより修平のほうが書きやすいですか。
じゃあ、YUKAさんの性格が修平のほうに近いのかな??
西幻響子 さん
西幻響子さん、こんにちは^^
コメントありがとうございます^^
えへへ、そうなんです~~ヒョヌがね、頑張ったんで(笑)
いえいえ、お気になさらず^^

ヒョヌより修平が近い。。。あ、そうかも(笑)
でも、恋愛はあんなに積極的じゃないですが^^;
  • 2011/11/11 15:52
  • YUKA
  • URL
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