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僥倖


台風のため、明日の夕方まで急にぽっかりと予定が空いた。

帰宅後いつも通りシャワーを浴びていつも通りPCに向かい、メールをチェックしつつ今これを書いている。明日の朝の交通は気にしなくてもいい、という安堵感から発泡酒のプルタブを折った。今はまだエンジン音と水の跳ねる音が聞こえてくる以外は案外静かなもので、時折強い風が吹き付けて何かがカラカラと音を立てている。

夜を終えるのはまだ早いと雨が囁くように窓を叩く。窓外にしな垂れる雫が部屋の灯りに照り輝き、その雨声を聴きながら少しずつ夜が沈んでいく。「何かをする」のでは無く「何もしない」という甘美で贅沢な時間。仄かに見える時の流れの中で、とりとめのない思考に沈み、仮想の街を歩く空想癖が創作に繋がっていく。
私の自由はこうした夜の底に存在する。いい夜だ。

明日は何しようかなーと少し浮かれて、わくわくが風船みたいに膨らんでいたのだけれど、考えてみれば明日締め切りという案件が残っているし、休暇前にこなさなければならないもろもろが山積の状況では、結局仕事をせねば成らぬわけで、「何しようかなー」ではなく「何から手をつけるべきかなー」という状況だったと気付いてしまい、わくわく風船はあっけなく萎んだ。しかも夜間講義予定は健在で「あります」というわけで、完全休みではないことが判明して微妙に凹む。それでも僥倖には違いない。

今朝は「台風が関東上陸」とTVの中で声高に連呼していて、荒川が氾濫すると銀座まで水没するとか、帰宅時間は大混乱だとか、深夜と朝には交通機関が麻痺するとか、苛辣に脅され続けて家を出た。その時点では明日のために前乗りした方がいいだろうかと思っていたので、そこはもう有り難い限りなのだけれど、惨憺たる災害シュミレーション映像を見るにつけ、行くも行かぬも自己責任だぞと念を押されているようで、災害に遭う前から暗澹たる気持ちにさせられる。

こういう時は悲しいかな、社会に組み込まれている社会人というものは、仕事都合で外出しなければならないわけで(現代社会で「そんなもん休んじまえよ」と本気で豪語するような無頼漢はお引き取り頂くとして)勝手に休むという選択肢は無いに等しい。だから個人よりも企業に働きかけてくれないかといつも思う。

かといってみんながみんな本気で休むという選択肢を行使するならそれはそれで大混乱な訳で、今日も人の世の命綱と社会を回す仕事で奔走する方々に感謝して夜を終えよう。

お仕事の皆様、どうかお気をつけて。



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