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誓約の地/漂流編・138<生誕(5)>



生誕記念
お祝いをくださった皆様に、せめてもの感謝を込めて


飾り33 



誓約の地/漂流編・138<生誕(5)>


優奈とヒョヌ。

2人のすれ違いに気付いた杏子は、みんなを巻き込んで一計を案じた。

大切に思うからこそ臆病になる2人に、差し伸べた友情。


その想いに、ヒョヌはどう応えるのか?
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 杏子と話したあの日からヒョヌは考えた。できることは少ない。

 まず飲み終わったぺリエのビンを割れないようにテープで補強し、コップぐらいの大きさにカットする。

 集めた不要の蝋燭を集め鍋で溶かし、タコ糸を芯にしてガラスの瓶で可愛い蝋燭を大量に作った。

 ロウソクを準備して見つからないように隠した後、海岸で小さなサンゴや貝殻を集めていく。

 これも白か薄ピンクの小さなもの限定でだ。

 集めるのにはかなり根気がいった。優奈に見つからないようにランニングと称しては浜辺に向かう。

 アイスピックで開けた穴を整え、それを釣り糸に通して小さな貝のネックレスも作った。

 何度も割れたり壊れたりしたが、それでも限られた時間で作業に没頭した。

 これは主に夜中優奈が寝てから起き上がり、見張り用の焚火の前で行っていた。

 当然見張り役のメンバーにはバレたが「内緒」はお互い様だ。

『優奈には内緒』

 杏子の厳命が合言葉となっていた。


 そして誕生パーティー当日。

 こっそり抜け出したヒョヌは、音を立てないように部屋の模様替えを敢行していた。

 棚に段差をつけ蝋燭を飾り、二つの丸椅子の上に摘んできた大量の花を飾る。

 その反対側の壁にベットを二つとも寄せた。

 棚の両サイドのロウソクたちに、円錐状に作った木枠と布のランプシェードをかぶせていく。

 そこには無数の小さな穴が開けてある。穴から零れる小さな光は真っ暗な部屋に浮かび上がっていた。

 壁中に広がる無数の光るの粒は零れ落ちる星空のように煌めいて揺れる。


「すごい。……綺麗」

 部屋に入るなり優奈は溜息のように呟く。ヒョヌを振り返った優奈は、大きな榛色の瞳を輝かせて微笑んだ。

「ありがとう」

 するとヒョヌは微笑んで優奈を指差した。

 黙ったまま楽しそうにほほ笑み、指した指を軽く振りながら後ろ足で移動する。

 何があるのかと優奈が首をかしげると、ヒョヌは棚の中央にあるロウソクに火をつけて大きな板を立て掛けて優奈の後ろを指した。

 そこに光の文字が浮かび上がった。







  『HAPPY BIRTHDAY YUNA 

  ずっと かわらず あいしてる』








 優奈は両手を口に当てて肩で息をした。

 日本語は随分上達していたヒョヌだったが、話すのと書くのではまた違う力がいる。

 きっと誰かに教わって、一生懸命彫ったのだろう。たどたどしく書かれたひらがなが、とても可愛くて愛おしい。

 そしてその中央にできた光の輪に気付いた。その中心には優奈に宛てたプレゼントがかかっている。

 小さな貝のネックレス。

 優奈は思わずヒョヌを振り返ると、彼はすっと手を伸ばしてそれを手に取りって優奈に着けた。

 この島でここまで準備をすることがどれだけ大変なことか良くわかっていた。何日もかけて準備をするだけではない。限りのある材料で精一杯考えてくれた、その気持ちが苦しいほど嬉しかった。

 言葉も出ない優奈は、潤んだ瞳でもう一度光の言葉を反芻していく。


『ずっと かわらず あいしてる』


 その時、かつて贈られた言葉が胸の中で錯綜した。





「誕生日おめでとう、優奈」

 ヒョヌはもう躊躇わなかった。後ろからゆっくり優奈を抱きしめていく。

「生まれてきてくれて、僕と出会ってくれて、愛してくれて、ありがとう」

「オッパ……」

 小刻みに震える優奈の身体を暫く抱きしめたまま、その柔らかい髪に顔を埋めていく。そして優奈の腕をって振り向かせると、その頬を両手で包みこんでキスをした。

「今日は僕にとっても記念日になった。優奈がこの世に生まれた日。僕の生きる世界に優奈が生まれおちた記念日。優奈をこの世に送り出してくれた全てに、感謝する日だ」


 優奈に出逢う前から、ヒョヌにはずっと夢があった。

 色んな役をこなし、その世界で生きる「俳優」という名の夢が。

 かつて多くの偉大な先輩と共に学び、作品を作り上げる熱い思いを共有した。

 芸能界という世界に流れる時は通常の流れよりも早い。

 1年も経てば全てが一新するほどの新しい風が吹くことも珍しくない。

 それでもヒョヌはその流れを恐れなかった。過酷で厳しい試練にもくじけることはしなかった。

 積み上げた仕事、掲げた理想――それはそのまま、彼の夢と繋がっていた。

 しかし全てがこれからという時に巻き込まれた遭難事故――。


 穏やかに流れる時間に焦りは増幅する。時々無性に叫びたくなった。

 どんな理想も希望も空しくから廻り、焦る気持ちに追い立てられる日々に心が折れそうだった。

 その度に優奈の笑顔で救われていた。

「これから毎年、一緒に祝っていこう。これからずっと」

 彼女がいたから前を向ける。不安も焦りも笑い飛ばすことができる。

 だから、誓う。

「ずっと変わらず愛していく」



 先の見えないこの島の生活で見つけた、未来への約束。

 美しい泉のほとりではじめて優奈を抱き締めたあの日から、ずっと変わらない想い。




 優奈はヒョヌの胸に顔を埋めて小さく震えていた。嬉しくて切なくて言葉も出ない。

 もう二度と夢などみないと思っていた。

 それでもまた出逢ってしまった。

 時を重ねれば重ねるほど不安も大きくなり、眠れぬ夜を幾つも過ごした。

 この先何があるのか、先の見えない未来。不安でないと言えばうそになる。

 それでも――。







 それでも今はただ、幸せだった。
















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Comment

「時よ止まれ、君は美しい」

というやつですね。

誰の言葉だったっけ……。
Happy Birthday!
普段の生活の中であったなら、ヒョヌに買えないものなどないだろうし、用意できないものもなかった事でしょう。でも、遭難中で、買う事などできないからこそ、優奈が本当に心から喜ぶ贈り物が用意できたのでしょうね。ハングルではなくて、日本語で。杏子姐さまに頼むのではなくて自分で。これまでのどの誕生日よりも、そしてこれから、いくらでもあるだろう未来の誕生日よりも、心に残る日にしたヒョヌに心から拍手を送りたいです。

そして、YUKAさんのお誕生日に、このコメントを書けて私も嬉しいです。

P.S. ポール・ブリッツさん、それは「ファウスト」ですよ〜
  • 2013/08/31 03:03
  • 八少女 夕
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ポール・ブリッツさん
ポール・ブリッツさん、おはようございます!^^

まさにですね~~

あ、夕さんが教えてくださいましたよ♪^m^

  • 2013/08/31 08:19
  • YUKA
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  • Edit
八少女 夕さん
夕さん、おはようございます!^^

まさにその通りですよね。
今までのプレゼントやサプライズ。彼の立場なら、フツ―の人ができないようなことでも出来たと思うのです。もちろんそこに気持ちはあるのですが、いわゆる「お金に糸目はつけない」というような使い方も。

でもここではそれができない。それどころか、物資すら少なくて想うようにいかない。彼らの生活と状況を考えて、出来ることはなんだろうと思った結果のサプライズです。優奈もお金持ちで、それこそ買って貰えないもの、望んだものが手に入らないことはなかったと思います。(性格的に高価なものを望んだかは別として)

だからこそ、いつも以上に特別なプレゼント^^
でもきっと今の優奈には、ヒョヌに愛されているということそのものが、それを実感できるということ自体が、大きなプレゼントなのかもしれないですが^^
精神的にも肉体的にもきつい状況で、やっと幸せを感じられる回です。もしかすると、私の精神状況的にも安定できる回です(笑)「懺悔」は葛藤があってとても大変でしたので^^;

誕生日に合わせたようにUPとなりました。
そして私も、この日に夕さんからコメントを頂けて幸せです!本当にありがとうございました^^


  • 2013/08/31 08:29
  • YUKA
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こんばんは!!今日は台風一過の太陽を浴びに船釣りに行ってきました!時化あとのカワハギ爆爆っを夢見て… うん撃沈^^; 勘が戻ってない>< ビリッケツでした。でも小さいながら10匹。7匹は近所のお蕎麦屋さんにお裾分け^^ あとは家で肝和えしました。はじめての生肝和えチャレンジ!うっ美味い!!キッチリ船上血抜きをした成果でした@ω@vvv いつか皆で食べましょね♪
  • 2013/09/18 22:44
  • 日咲
  • URL
こんばんわ^^

何回読んでも切ない思いが・・・

おばさんでも、胸がキュンってします(笑)
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