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誓約の地/漂流編・24<秘恋(4)>


胸に去来する様々な想いに翻弄されて、

踏み出せない男(ヒョヌ)と臆病になる女(優奈)のすれ違う想い。



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 食事が終わりに近づく頃、修平は優奈の器の中に野菜を放り込んだ。

「ん? なに?」

「食べて」

「ちょっと! 好き嫌いはいけません!」

「………………」

「嫌いなの?」

「いや。そんなことは、ない」

「じゃあ、食べなさい」

 戻そうとする優奈から器を遠ざけて、勢いよく何度も首を振る。

「もう! 子供みたいね」

 苦笑して手を引いてくれた優奈に安堵して、修平はにっこりほほ笑んだ。

「サンキュ」

「いいわよ。もう、修平くんには作ってもあげないから」

「えぇ――――?!」

 拗ねた優奈と慌てて弁解する修平の様子を見ながら、ソンホはこの会話を通訳するか迷っていた。

 ヒョヌの気持ちの揺れと悟られまいとする葛藤を、彼もまた気付いていたからだ。

 わからないままよりはいいかもしれないなと考え直し、あえて淡々と会話の内容を通訳していく。

 そんなソンホにヒョヌは小さく首を振った。

「訳さなくていい」

 小さくそう呟いて微笑んだ彼の瞳が酷く淋しげに見えて、ソンホは何も言えなくなってしまった。

 笑顔で優奈に話しかけている修平もまた、そんなヒョヌの様子を全身で意識している。

 互いを意識し合う微妙な緊張感を感じ取った杏子は、また小さくため息をついた。









 * * *










 その日は、星の綺麗な晩だった。



 ヒョヌは一人離れて海を眺めていた。昔憶えた歌をアカペラで口ずさむ。

 初めて会った浜辺で、焚火の炎に照らされた優奈の美しい横顔を想い浮かべながら。

 埋葬した見知らぬ誰かのために流した、あの優しい涙を思い浮かべながら。

 花が咲くように笑う、彼女の笑顔を思い浮かべながら。



 その声に誘われるように優奈が近づいてきた。

「上手ですね」

「……優奈さん」

「その歌『星が落ちるよ』ですか?」

「そう。知ってます?」

「はい、いい曲ですよね」

「そうだね。歌詞が全部思い出せないけど。なんか思い出して」

「星が零れそうな夜だから?」

「綺麗な表現だな」

 ヒョヌは自分の隣の砂浜をポンポンと叩いて、優奈に座るよう促した。

「アンコールしたら、ダメですか?」

「いいよ、この歌?」

「ヒョヌさんの歌う歌なら、なんでも」

 静かに打ち寄せる波の音に合わせるように、ヒョヌの甘く切ない歌声が響く。

 優奈は隣で目を伏せるようにして聞いていた。

 ヒョヌはそれを全身で意識しながら口ずさむ。

 優しく囁くようなその声は、泣き出しそうな色を含んで静かな夜を包んでいった。

 歌が終わると優奈はヒョヌを見つめ、小さく拍手した。

 ヒョヌはそれを微笑んで見つめた後、また海を眺める。


 泣きたくなるような切なさに心が染まっていても、小さな奇跡を積み上げた零れていくような儚い夢の時間だとわかっていても、出会えたことに感謝しようと思う。

 相手の気持ちが掴めないまま、ゆっくりと過ぎていく日々に戸惑うけれど、このままこの時間がずっと続けばいい。


 お互いが心からそう思っていた。














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Comment

おおぉぉ。スターにすぐ隣りで歌ってもらえるなんて、なんて贅沢なことでしょう!!
優奈ちゃんがうらやましいです。
西幻も、〇〇〇に歌ってもらいたい…(笑)

しかし、昨日は修平君を応援したくなりましたが、今日はヒョヌさんのほうを応援したくなりました。節操ないですね ^^;

あ~、やっぱり優奈ちゃんはヒョヌさんとうまくいってほしいです!

この回の冒頭の部分で、遭難後のみんなのようすが、とてもよくわかりました。食料とか、色んなことを皆が不安に思っていることが、リアルに感じられました。
西幻響子さん、こんばんは^^
西幻響子さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
スターの生歌、たった一人の観客――本当ですね~
私もいます~~~歌ってほしい人^^
修平とヒョヌ……西幻さんの愛も奪い合いです(笑)
優奈がね~~動かしづらいんですよ~主役のはずなのに――
だから、ヒョヌが頑張らないと!!^^

冒頭。。。ありがとうございます(感涙)
どこまで説明が必要か、書くべきかいつも悩みながらの説明です。。。
状況説明は難しい(汗)
西幻さんのように、端的に情景が浮かぶようになりたい(切望)

それでなくても恋愛小説(純愛)カテゴリーは、
少々、線引きや制約やが多いので難しいのです^^;;;
でも、それをクリアしてこそ!!ですね^^頑張ります^^b
  • 2011/10/23 17:06
  • YUKA
  • URL
よくよく考えたら、ヒョヌも優奈も奥手でしたね。
でも、奥手でも少しずつ距離が短くなっているのかな?って感じでしょうか。

あの星の綺麗な晩の情景を読みながら思い浮かべてみると、
2人、本当は両思いなのに、片思い、すごく切ないはずなのに、そんな2人がなんてこんなに綺麗に見えてしまうんだろうと思ったら
ちょっと涙が出そうになりました。
なんかこういうのってすごい、はかない恋をYUKAさん流に書かせたら、情景がこんな綺麗に見えるから驚きです。
やっぱり、YUKAさんの話は毎回頬がゆるみます(*^-^*)
ペレさん
ペレさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
奥手……そうですね~~
ヒョヌはまぁ、誠実にと思っているためですが
優奈はもう、ビックリするほど奥手ですね。
――って言うか、天然なぐらい(笑)

もう~~ペレさんのコメントで私が泣きそう^^
そんなに褒めて頂いて――悶えました(笑)
真夜中に、PC前で悶える女。。。なかなか不気味ですけどね~~^^
情景が浮かぶ。。。凄く嬉しい褒め言葉です^^
感情も、情景も、いつももっと上手く描けたらと思っているので^^
私の頬が緩みっぱなしですが、これからも喜んで頂けるように頑張ります^^b
  • 2011/11/11 01:56
  • YUKA
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