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誓約の地/漂流編・19<錯綜(4)>


胸に去来する様々な想いに翻弄されて、

踏み出せない男(ヒョヌ)と臆病になる女(優奈)のすれ違う想い。


*錯綜(さくそう)――物事が複雑に入り組んでいること。
入りまじっていること。

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 ある日の午後、ヒョヌは森を抜けて海岸沿いを走っていた。

 身体が鈍る――そう思って始めた砂浜でのランニングは想像以上にきつい。

 しかし、動くことは嫌いではなかった。

 仕事上でも身体を作るのは基本中の基本。

 昔からマシンで鍛えるやり方より、走ったり筋トレしたりする方が好きだった。



 はぁはぁはぁ……



 1時間ほど何も考えず、ただひたすら走った。

 身体をほぐしながら浜辺に座る。

「……喉が、渇いた……」

 持参していたペットボトルは飲んでしまった。

 キャンプの場所まで戻らないと水にはありつけない。

 戻るにはまだ距離があったので、少し休憩してからにしようと、足を投げ出して木陰に寝そべった。

「ヒョヌさん!」

「――――!」

 呼ばれて飛び起きると優奈が立っていた。

「どうしたの?」

「ソンホさんから走ってるって聞いて。喉、渇きません?」

「渇いた」

「じゃ~んっ!」

「…………」

「飲んでみてください!」

 受け取ったペットボトルはよく冷えている。

「あれ? ……冷たい!」

「でしょ? 洞窟で冷やしたんです。ちょっと飲んで!」

 隣に腰を下ろした彼女に促されて、水を口に含んだ。

 キーンと冷えた水は微かに柑橘系の香りと味がする。

「美味しい!」

「でしょ! 森で見つけた果実をちょっと絞ってみたんです。いいでしょう?」

「凄く美味しい! 生き返った。ありがとう!」

「よかった。全部飲んでいいですよ?」

「優奈さんのは?」

「いいんです! それ、ヒョヌさんのために作ったんですから」

「……………」

 キラキラした笑顔で微笑む優奈が眩しかった。

 自分のために用意したと笑ってくれた彼女に、嬉しさで心が揺れる。

「ホントに飲んじゃうけど?」

「はい」

 ペットボトルの半分ほどを一気に流し込んだ。

 くすくす笑いながら優奈が自分を見つめている。

「熱中症になりますよ?」

「持ってた水、飲んじゃって……」

「そうだったんだ」

「これ、いいね。爽やかな感じで」

「運動の後は特にでしょ? よく走ってるの見かけてたから」

「一緒に走りますか?」

「追いつけません! トレーニングの邪魔になります」

 汗に濡れた長めの前髪を掻き上げるようにしながら、ヒョヌは声をあげて楽しそうに笑う。

 眩しそうに海を見ている彼の横顔にいつの間にか見惚れていた優奈は、ふいに視線を戻したヒョヌと目が合って、慌てて話を続けた。

「気に入ったのなら、また作ってあげます!」

「ホント?」

「はい。皆も気に入ってくれたんです。封を開けるので、あまり作り置き出来ないけど」

「……………」

「どうしました?」

「いえ。またお願いします」

「はい」

 彼女はそういう人だった。

 誰にでも平等に優しい。

 自分にだけ特別、一瞬そう思って浮かれた自分に苦笑する。

「洞窟を見つけたの?」

「そうなんです。この間、修平くんが。奥に氷もあるんですよ! 時々暑い時は涼みに行っちゃうんです」

「そう」

「今日、皆にも場所を教えて。今頃涼んでますよ」

「……この間って?」

「え?」

「2人で見つけたの?」

「いえ。修平くんが見つけて教えてくれたんです。凄く得意げな顔をしてましたけどね。ヒョヌさんも行きますか?」

「………いや」

「まだ、走るんですか?」

「ん――」

 疑問を浮かべた優奈の顔を見て、ヒョヌは苦笑した。

 彼女の艶やかな髪を梳くように風が流れていく。

 修平はきっと優奈の喜ぶ顔が見たかったに違いない。

 洞窟の涼しさに瞳を輝かせて喜ぶ優奈を想像して、苦しくなった。

 もし自分でも、きっと1番に優奈に教えるだろう。彼女の喜ぶ顔を想像して。

 喜んでいる優奈に、得意げな顔を見せる彼の気持ちがよくわかる、きっと自分も同じだから。


 小さい男だな、僕は。


 優奈を喜ばせる発見をして、いつもの花の咲くような笑顔を向けられたであろう修平に嫉妬した。

 頬を上気させて、潤んだ瞳で感謝の言葉を告げられただろう。

 それが何だか羨ましくて、嫉妬する自分がちっぽけに思えて心が沈む。


 修平には、負けたくない。

 優奈の隣で彼女を支え、何の気負いもなく彼女を愛していくと宣言できる、彼だけには。



 優奈は急に黙ってしまった自分を不安そうに見つめている視線に気がついて、ヒョヌは苦笑した。

「僕は毎回、優奈さんに作って貰う事にします」

「はい、いいですよ」

 任せてくださいと笑っている彼女が嬉しそうで、少し気持ちが晴れた。

 その時ふと思いついて、優奈の顔を覗き込むようにして話しかける。

「その代わり、美味しい木の実の場所を教えてあげようかな?」

「え? ホントですか?」

「ホント。ちょっと遠いけど。この間散歩してて見つけたんだ」

「凄いっ! どんな?」

「それは行ってのお楽しみ」

 ちょっと自慢げに告げるヒョヌが子供みたいで、優奈は思わず噴き出した。

「優しいんだか、意地悪なんだか」

「わぁ――! って言ってほしいからね」

「あ! 期待しちゃいますよ?」

「いいよ。でも僕が優奈さんを連れていくまで、皆には内緒ね」

「もう! みんな内緒好きですね。いつ教えてくれますか?」

 それから2人で決行日を相談し、キャンプ地まで戻っていった。

















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Comment

杏子ちゃん、実はヒョヌと優奈をくっつけて、自分が修平といっしょになりたいという潜在意識が……。

だとしたら王道だなあ(^^)

ちなみに別記事の、キャラクターの設定はほとんど読んでません。小説を読んでいて、しだいにわかってくるのが好きなので(^^;)
ポール・ブリッツ さん、こんばんは^^
> 杏子ちゃん、実はヒョヌと優奈をくっつけて、
自分が修平といっしょになりたいという潜在意識が……。
> だとしたら王道だなあ(^^)

あはは。
なるほど、潜在意識ですかね~^^


> ちなみに別記事の、キャラクターの設定はほとんど読んでません。
 小説を読んでいて、しだいにわかってくるのが好きなので(^^;)


もう、重ね重ねごもっともです^^;
必要なことは小説内で出していく予定でございます。
必要なことが出てこなかったら、私の力量とミスでございます。

あれは、私の余談と受け取ってください^^
  • 2011/10/19 17:09
  • YUKA
  • URL
修平くん、なかなか、けなげですね。
応援したくなっちゃう(笑)

それにしても、じれったい。
ヒョヌさんと優奈ちゃん。
でも恋愛はこういうのが逆に楽しかったり…
杏子さん、手助けしてあげないのかな??
西幻響子さん、こんばんは^^
西幻響子さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
読んで頂けて嬉しいです。
じれったい。。。本当ですね(笑)
修平は一生懸命ですよね~~ヒョヌはヒョヌで悩んでいるんですけど^^;
杏子姐さんは、まだ様子を見てます^^
そのうち、耐えきれなくて行動しますよ(笑)

  • 2011/10/22 17:21
  • YUKA
  • URL
たびたび失礼します。

描写が美しくて勉強になります!!
しかし、この微妙な三角関係悶々としています~。
優奈ちゃんもヒョヌくんもこれでいいのかぁ!?

ではまた続きを読みに伺います(*´∇`*)♪
滝元 真那 さん
滝元 真那さん、こんばんは^^
わぁ~~褒めて頂きました^^ありがとうございます(照)
そうなんです!
すみません、ウチのヒョヌがまだヘタレで(笑)
はい、いつでもお待ちしています*^^*
  • 2011/10/31 23:50
  • YUKA
  • URL
よし!ようやくここまで読みました!
この次当たりにひっそり影を潜めていた
杏子姐さんが動くのでしょうか?

作風上、ここは耐えなくてはいけないのですが、
ヒョヌさん、これでいいの???と言いたくなってしまうところです(汗)
でも、実際の三角関係の恋愛だと本当にこんなもどかしくなるんですよね。
『修平に負けたくない!』そう決意したのになかなか足が動かない、
むやみに恋愛に引き込んで期待をもたせて優奈を傷つけたくない、
いろんな葛藤があると思う、
そういう思いが悶々としてしまう描写がよく表現されてますねー。
いつの間にか、この世界観に引き込まれてしまってます(*^0^*)
ペレさん
ペレさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪
ここまで来ましたか~~^^
ね! ウチのヒョヌ、ヘタレでしょう?(笑)
この辺は、本当にイライラしますね。
誰がって、私がです(笑)
わぁお! 凄い褒め言葉を頂いてしまいました^^;
嬉しいです。ありがとうございます^^
そうですね~
優奈に対しては、本当に迷っているんですが
それもこれも、ここでだけではなく、
いつか生還できた時のことまで考えているんですね~~
その話は、またおいおい出てきますが(ずっと先で、まだ書いてませんけど(笑))
2人の恋に、杏子姐さんはなくてはならない存在です^^
そのうち出てきますので、楽しんで頂けたら嬉しいです^^
  • 2011/11/06 18:10
  • YUKA
  • URL
この辺は支えあいなのか、あるいは牽制なのか。まあ、それは人次第ですかね。内面で何を考えているかはまた別問題だと思いますけど。しかし、飲み水の確保はできているんですね。優れた無人島ですね。あるいはもともとあったものか。。。
 現在の連載小説終わりました。また来週から連載始まりますのでよろしくお願いします。今度は地球のサバイバル(?)の話を書きますので、興味があればよろしくお願いします。YUKA様の小説を読んで思いついた小説です。
  • 2013/05/04 21:45
  • LandM
  • URL
LandM さん
LandM さん、おはようございます!
コメントありがとうございます!^^

そして、連載終了お疲れさまでした!読ませて頂きましたよ^^
私、いまだにLandM さんへのコメントをどうしたらいいかウロウロしているのですが(笑)
それでコメントも出来ず申し訳ないです^^;;

飲み水どころか……という感じですが、すぐれた島ですね(笑)
実は普通の島では無かったり?(笑)


そして、えぇ~~~~~~!!ほんとうですか!
私の稚拙小説から派生したとはっ!
何と光栄なお話でしょうか^^でもきっと数段完成度の高い作品が出来上がっていくのだろうなと楽しみです!
もちろん読ませて頂きますよ!!(*´∇`*)
毎回伺った時は読ませて頂いてます^^
一応大人なので、お酒の記事も楽しんでます♪←弱いけどワイン好き
今度、シャンパンもお願いします!^^
  • 2013/05/05 10:21
  • YUKA
  • URL
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