QLOOKアクセス解析

【誓約の地・番外編】 修平の述懐(後話)


【誓約の地・番外編】修平の述懐(後話)

述懐――心中の思いをのべること


しなやかな杏子の身体が、修平の膝の上で自分の居場所を作った。
暮れゆく午後の中で向き合う杏子に、修平は少しずつ想いを語る。

俺の本音は、お前を怒らせるだろうか?
それともお前を傷つけるだろうか?

軽口の中に愛を紡ぐ、修平視点・恋人同士の日常。


3話完結 
133話<懺悔(19)>読了推奨


================================================




「そう言えばさっき、ヒョヌさんも来たな」

「そうなの?」

 もたれかかる杏子の重みを感じながら、崩れ落ちないようにその身体を支えてやった。

――少し、痩せたな。

 口には出さないが、少し心配になる。

 見た目以上に軽く感じる杏子の体は、抱きしめるたびにふわりといい香りがした。


「ヒョヌさん、何しに来たの?」

「お前と同じ」

 すると何を思ったのか、急に杏子が顔をあげた。

「キスしたの?」

「……アホか!」

「同じって言ったじゃない」

「あのなぁ。どうしてそういう発想になる?」

「ヒョヌさんって綺麗な顔してるものね」

 何故か楽しそうに笑う。

「どんなに美形でも無いな」

「いいのよ? 有りよ?」

「無しだよっ!」

「修平って案外硬いのねぇ」

 私は平気だと笑う杏子に言葉もでない。


 そりゃあ、優奈と杏子の絡みなら見れなくもないなと、ふと思った。

 杏子は時々、驚くほど唐突に優奈に抱きつく。

 ほとんど杏子が一方的に抱きついているようだったが――。

 はじめは何があったのかと驚いたが、そんな場面に何度も遭遇していつの間にか慣れた。

 だからだろうか。

 優奈と杏子が……というシチュエ―ションを完璧に否定できない。

 いけない妄想が広がる。

「……そうなのか?」

「そりゃあね。あんな美形となら、普通、女は断らないでしょう?」

「――え?」

 ちょっと待て。

 今までの流れは「同性とキスできるか?」という論点じゃなかったのか?

「……ヒョヌさんと?」

 そう問いかけると、杏子は突然噴き出した。

「冗談に決まってるでしょう?」

 しないわよと笑う杏子は、いつになく楽しそうだ。

 あいにく俺はちっとも楽しくない。

「冗談ってのは冗談に聞こえるから冗談なんだ。もう少し冗談ってものを学んで来い!」

 お前ならやりかねないと思っちまったじゃねぇか。

「本気にする方がどうかしてるわよ。忘れたの?」

「なにがだよ」

「彼は優奈の彼氏。優奈の彼氏に手を出すわけないでしょう?」

 そうだった。

……いや、そう言う問題じゃない。

「いい男だとは思ってるけどね」

「――ん?」

「ヒョヌさん。けっこういい体してるし、はじめは青白かったけどこの島に来てだいぶ日焼けして、随分精悍な感じになった」

「……そうか?」

 本気で腹が立ってきた。

 こいつは人の膝の上で何を楽しそうに言ってるんだ?

「ねぇ。優奈は体質的に日焼けしづらいから真っ白でしょう? 遠目で見るとオセロみたいなの」

 思い出したのか噴き出すように笑い、無邪気な様子がまたなんとも腹立たしい。

「いるのよね。手入れもしないで綺麗なまま保てる人って。稀だけど。もちろんちょっとはするのよ? でも本当に簡単な手入れだけで美肌を保てるって人もいる。女優やタレントや顔自慢のOLが言う「何もしてないんですぅ」は嘘よ? だいたい涙ぐましい程の努力で保っているんだから。でも優奈はしなくても美肌を保てる稀なタイプ。ヒョヌさんもそうかも。もとは色白なのよねぇ。シミ一つなくて、お肌もつるつるで、男の癖に……腹立たしいわね」

 奇遇だな。

 俺も今、無性に腹立が立ってるんだ、お前に。

 それでも「お前も涙ぐましい努力派か?」とは言わなかった。

 この状況でそれはまずいというくらいの分別はある。

 お門違いに向けられた怒りの矛先が、間違いなくこっちに向かってくる。

「段々本気でむかついてきたわ」

「…………」

 眉間にしわを寄せる杏子をみて我にかえった。

 腹を立てるところが、微妙に間違ってる気がする。いや、話題自体がずれている気がする。

 まともに腹を立てるのがバカバカしくなってきた。

 そもそも、肌の美醜で男と競ってどうする?

「充分だと思うぞ?」

「何が?」

「杏子も。確かにヒョヌさんはそうかもしれないけどさ。お前の肌も充分綺麗だろうが」

 するとまた、杏子の唇が重なった。

 それがあまりに唐突で少し身体を引いたが、俺の首に絡めた杏子の腕がそれをさせない。

 絡めた腕と柔らかい体――なにより触れる唇が気持ち良くて、あっさり抵抗を放棄した。

 暫くして少し身体を離した杏子の瞳に、俺が映るのが見える。

 俺の頬を両手で挟んだ杏子が嬉しそうに笑う。

「で、何を話してたの?」

「ん? この間の礼を言われた」

 そこがお前と同じなんだと告げると、杏子は「なるほどね」と頷いた。

 それから先を促すように俺を見ている。

「俺の本音、かな」

 話すべきだろうか?

 ずっと避けてきた俺の本音は、お前を怒らせるだろうか?

 コウジの話題は俺たちの間でもまだタブーだった。

 杏子が何かを言ったわけじゃない。

 それでもまだそのことを消化できない杏子に、それと相反するような俺の本音を言えなかった。

 なにより一人抱え込むようにして物想いに耽る杏子を、このところずっと見てきたからだ。

 以前垣間見た杏子の表情が重なっていく。



 お前は何を悩んでいるんだ?

 何をひとりで抱え込んでる?


 俺はまだ、それを言えないでいた。



 それでもそろそろ踏みだす時期じゃないか。

 相手に求めるなら、俺もさらけ出さなきゃいけないんじゃないか。

 そう思うようになった。


「俺もあんな眼で優奈を見て、あんなふうに思い詰めてたのかもしれない……ずっと、そう思ってた」

 杏子は黙ったまま、予想より静かに俺の話を聞いていた。

「俺には……コウジの気持ちもわかっちまうから」

 その表情はみえない。

 俺の胸に顔を埋めて抱きついたまま、身じろぎ一つしない。

「コウジに共感してるわけじゃない。それでも……思いつめて逃げ場がなくなったあいつの闇は、かつて俺の中にもあったと思ってる。俺がコウジと同じことをしなかったのは、杏子がいたからだ」

「…………」

「俺は……コウジと同じだ」

「……同じ?」

 そう言って杏子は俺を見た。

「俺は自分の想いに夢中で、優奈を傷けたことがあっただろう?」

「……あれとこれとじゃ、意味も影響も違うわ」

「まぁな。それでも俺は、あの時の自分が嫌いなんだよ」


 心配そうに俺を見る杏子が予想外で、安心させようと少し笑った。

 俺が怖いのは、コウジになるかもしれなかった俺じゃない。

 俺が今、一番考えるのは――



「あの時の俺も、卑怯だったと思う」

 コウジを断罪する杏子を見て思い出した。

『ああいうやり方は気に入らない』

 そう言って俺を見下ろした杏子が重なった。

 あの時の俺を、お前はまだ憶えているだろうか?

 優奈を傷つけた俺を許せないと言ったお前は、まだそのことを忘れていないだろうか?

 コウジを一生赦せないと、断じたように。



「でもヒョヌさんは……ならなかっただろうってさ」

「…………」

「たとえ心が軋んで苦しんでも、忘れられないともがいても、 俺はコウジのようにはならなかったと思うって言われた」

 その言葉は、俺を少し救ってくれた。

「それに――」と付け加えた俺の顔を、杏子は見上げている。

「たとえ優奈のためでも、下手な男を杏子は選ばないだろうって言ってたな」

 杏子が乗り移ったように断言したヒョヌさんを思い出して、笑いがこみ上げてくる。

 そんな俺の様子に気付いたのか、「そうなの?」と聞き返す杏子も笑っていた。

「優奈を心配して俺たちを観察してたお前が、優奈がきっかけで俺を知ったとしても。それだけで俺と付き合ったりしないだろうってさ」

 あの時、その言葉に声も出なかった。

 そうなのだろうか? と、にわかには信じられなかった。

 でもそうだといいと本気で思ったんだ。

「そうだ! たとえ俺が優奈を好きだったとしても、杏子が俺に近づいた時は、杏子の中に俺への好意があったはずだって言ってたぞ?」

 そう言って杏子の顔を覗きこんだ。

「そうだったのか?」

 そう問いかけると、杏子は「どうかしら」と笑っている。

 案の定はぐらかされた。

 それ以上聞けなくて、なんだか消化不良だ。

 それでも笑っている杏子が凄く楽しそうで、まぁいいかと思うことにする。

「彼、いい男でしょう?」

「まぁな。俺が思ってたよりずっといい男だってわかった」

 お前は確かに見る目があったと言うと、当然だと言わんばかりに口の端をあげている。

「完敗?」

「優奈の件では。あ、でも俺は男から見てもいい男だって言われたぞ?」

 そう言って杏子を見る俺の表情は、少し得意げだったと思う。

「当り前じゃない」

 杏子は呆れたように笑う。

「そうか?」

「そうよ。私の彼氏ですもの」




 その一言に俺は笑って、もう一度杏子にキスをした。













関連記事

Comment

あららら・・・^^
完敗に重なる完敗・・・ラストで甘いとどめを刺されましたね///
修平さんの心は、もう、完全に杏子さんに向かっていて、優奈さんの礼拝堂での言葉が、杏子さんにもしそう言われたら・・・という仮定と重なって、コウジの立場とも重なって、彼の心を苛んでいたのですね。
杏子さんは今でもやっぱりまだ、本音を見せようとはしていない・・・かもだけど、以前のような閉じたような拒絶は感じられない!・・・と思ったのは気の所為?

しっかりした風にふるまっているけれど、以前より少し痩せた杏子さんに気付いてあげられるのは、やはり彼氏である修平さんならではですね・・・。もちろん、その心の奥底も...いつかは、と信じて・・・
杏子さんと優奈さんのいけない絡みを想像している修平さんが、何か親しみも感じて(笑)ヒョヌさんと修平さんも・・・きっと絵になると思いますよ〜〜ええ、絵画的な意味でですよ///
柄の間の恋人同士の時間が、潮騒のように優しく染み入ってくるようでした^^
canariaさん
canariaさん、おはようございます!
コメントありがとうございます!

そうなんです~~~<懺悔>でグダグダと重い話しをかいていたので(笑)
ちょっとした反動でしょうか(笑)
修平と杏子の日常、感じて頂けて嬉しいです^^

既に修平は杏子にも完敗ですね^^もう大丈夫か?修平~~ってぐらい杏子色です^^

彼の内面、ずっとコウジを気にかけていますね。
そして過去の自分を少しくいてもいます。
この気持ちはのちのちも引きずることになり、それが彼を動かす原動力に。。

そして、実はこれが先の「追憶編」にも少し繋がっていくのです^^

杏子の想い、そして苦悩。
少しずつ小出しにしてきた彼女の過去が、今杏子を苦しめています。
それを少しづつ消化しようともがいています。
めづらしく、杏子が自分のことで手いっぱいな状況です。
修平はそんな杏子を感じているのですが、無理強いできる相手ではないので
見守っている感じでしょうか^^

この先、またヒョヌと優奈がぐだぐだと(笑)
本編の前に、ちょっと色々挟む予定です^^

追憶編、全く書いてないので(笑)
新章をいつからにするかも悩みどころなのですよ~~^^
お礼短編もまだまだ書きたいですし^^

修平とヒョヌ!!絵的な意味でね~~~^m^
ありがとうございます!!(何が?)
どっちがどっちだろう。。。。(だから何が?)
そうそう~~~書けますよ!書けますとも(笑)
絵になりますね!(笑)


  • 2013/03/05 08:24
  • YUKA
  • URL
  • Edit
久しぶりに、この物語に戻ってきました ^^

修平君、いいですねぇ。
また西幻の中で、彼のお株が上がりました。

杏子ねえさん、色っぽい!
猫みたいに迫る彼女の姿が、くっきりと思い浮かびます。
  • 2014/01/12 15:16
  • 西幻響子
  • URL
  • Edit
Comment Form
公開設定


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。