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誓約の地/漂流編・15<牽制(3)>


胸に去来する様々な想いに翻弄されて、

踏み出せない男(ヒョヌ)と臆病になる女(優奈)のすれ違う想い。


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 荷物の整理が終わり、優奈はフラフラと立ち上がった。

「おい、今からどこ行くんだよ!」

「……ついてこなくていいよ」

「…………」

 泣き出しそうな顔で森の中に入ろうとすると、休んでいたヒョヌと目があった。

 優奈の様子にヒョヌは思わず駆け寄る。

「どう……した?」

「……な、何でもないです!」

 無理に笑おうとして言葉が出ない。

 どう思ってたんだろうか? 勝手に勘違いして期待していた自分を。

 突然、恥ずかしさで顔が赤くなった。ヒョヌの腕を振り払うようにして森の中に逃げ込む。

「優奈……さん?」

 足早に森へ入っていく優奈を追いかけようとして修平に腕を掴まれた。


 無言でヒョヌを引き留め優奈を追っていく。

 彼の視線に押されるようにして、ヒョヌは呆然としたまま暫くそこから動けなかった。









   * * *









「それ以上いくと危ねぇぞ」

 振り返ることも無く森の奥へ突き進む優奈の後ろを歩きながら、修平は声を掛けた。

「……大丈夫よ」

「どこがだよ」

「……ほっといて平気」

 それでも進もうとする優奈の腕をつかんだ。

 振り返った優奈は、大きな瞳一杯に涙を浮かべて修平を見上げ、慌てて視線を逸らした。

「……優奈がヒョヌさんを本気で好きなのは知ってる」

 いつになく真剣な表情で語る修平から目を逸らしたまま、優奈は押し黙った。

「ファンとしての憧れから……いつの間にか女として好かれたいと思い始めてたのもわかってる。夢のような時間が、嬉しくて楽しくてしょうがないって思ってたのもわかってる。――そんな優奈を俺はずっと見てたから」

「だったら……ほっといてくれればよかったのに」

「………夢は、いつか終わる」

 絞り出すような修平の言葉に、優奈がはっと顔をあげた。

「夢の続きが長ければ長いほど……現実が苦しくなるぞ?」

「……夢でも、勘違いでも……いいのよ。楽しいんだから」

「よくねぇよ!」

 その時、2人の間を駆け抜けるように風が吹いた。

 吐き捨てるように話している修平の声がなんだか遠く聞こえる。

 なぜこの人はこんなに苦しそうなんだろうと、そんな事が気になった。



 夢の続き――


 不意に懐かしい人の顔が浮かび上がって、優奈は動揺した。

 心が壊れそうなほど愛しくて、思いだしてはいけないと心に閉じ込めた記憶の断片。

 優奈は無意識に両手をグッと握り締める。

「なんで……」

「あとで苦しむことがわかってるのに、黙って見てられねぇんだよ」

 その言葉は優奈の中にするりと入ってきた。何かが心の奥にすとんと落ちていく。

 苦しむ? 

 あぁそうか……彼は私が苦しむのを心配してくれているのか。

 だからこんなに、苦しそうな顔をしているのか。

 まるで、あの頃の杏子みたいに―――

「……わかってるから。彼がスターなのも、いつか終わる生活だってことも。自分でもびっくりするぐらい勘違いした馬鹿な女だってことも。修平くんが言わなくても……ちゃんとわかってるよ」

 修平はそう言って微笑んだ優奈から目が離せなかくなった。

 静かに微笑むその姿はとても清らかで、消えてしまいそうなほど儚く見える。

 さっきまで榛色の澄んだ瞳を輝かせて嬉しそうに笑っていたのに、今はただひっそりと何かに耐えるように笑っている。


 それほどまでに傷つけてしまったと思った。

 取り返しの付かないことをしてしまったのではないか―――そんな思いがふと過《よぎ》る。


「もう、わかったから。ちゃんとするから。だから少し一人に……」

 不意にぐらりと視界が揺れる。

 気付くと後ろから修平に抱き締められていた。

「――――!」

「俺に当たっていい……泣いて、いいから」

「修平くん……放して……」

「…………」

 修平は、身動きがとれないくらい優奈をきつく抱きしめた。

「優奈が好きだ」

「…………」

 修平の突然の告白に呆然とする。

「初めて会った時からずっと……今は俺を見てなくてもいい。あいつを好きでいてもいい。俺はこの島でも現実に戻っても、お前のそばにいるから。ゆっくりでいい。少しずつ俺を知ってほしい……俺に、優奈を守らせてほしい」

 言葉が喉の奥に絡んで声が出ない。

 心に浮かんでは消えていく想いの欠片。

 それがグルグルと駆け回って、修平に何を言えばいいのかわからなかった。

 もう2度と、本気で人を好きにはならないと決めた。

 それなのに――

 いつの間にか、本気でヒョヌを好きになっていたと愕然とした。

 それを皮肉にも修平の言葉で自覚する。

 咄嗟《とっさ》に無理だと思った。
 
 彼との恋など続かないと。

 それが夢であることは、わかりきっていたから。


 夢は、いつか醒める――


 浮かんでは消える記憶の断片。

 傾けた想いが行き場を失い、ただ漫然《まんぜん》と積み重ねていく日々。

 心が壊れそうな罪悪感に押し潰されそうで、心の奥に押し込んできた想いが一気に甦る。

 得ることがなければ、失うこともないはずだった。



「付き合うことは、できない……」

 そう告げるのが精いっぱいだった。

 ヒョヌで一杯の心で、他の誰かの好意を受けられるはずなどない。

「――わかった。今はそれでもいい」

 修平の鼓動を感じるほど近くにいるのに、その声は何処か遠くから聞こえる気がする。

 痺れたような思考では、それ以上考えられなかった。



 今はただ――

 震える体を支えるように抱きしめてくれる修平の身体が温かくて、優奈は静かに涙を零《こぼ》した。










 遅れて追いかけてきたヒョヌはそんな2人を見つけると、無意識に樹の陰に隠れた。

「…………」

 目が離せず、動くこともできず――

 心いっぱいに広がっていく喪失感を、どうする事も出来なかった。


























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Comment

おおっ。

修平くん……。

自分ではヒョヌのライバルのつもりだろうけど……。

ただのカン違い男だぞこれじゃ。(^^;)



それはそれとして、昨日、カルト作家として名高い赤江瀑先生の短編集「ニジンスキーの手」(ハルキ文庫版)の収録作品を二篇読んで、

すっかり信者になりました(笑)

無理にとはいいませんが、図書館にあったらぜひ読んでみてください。

耽美だなんだといわれて敬遠していた自分がバカに思えてくるくらいすごい作品ばかりです。まだ二篇しか読んでないけど。
ポール・ブリッツ さん、こんばんは^^

修平……一生懸命なんですよ(笑)きっとね。。。
ヒョヌもヘタレだし!

ウチの男どもは、何だかなぁ~~って感じです^^;
もっとカッコよく書いてやらねばっ!!!

それに比べて、杏子姐さんは男前(爆)

本の御紹介、ありがとうございます^^
メモって、まずは図書館で探してみます♪
  • 2011/10/17 17:31
  • YUKA
  • URL
優奈ちゃんがヒョヌさんにフラれたら(?)
自分の所に来てくれる・・・みたいな
なんて新喜劇なんだ!!(爆)

Aが駄目でもBがあるじゃない
恋愛ってそんなものじゃないよ修平君!!

とか思ってしまいました。
  • 2011/10/26 12:01
  • 小心者
  • URL
小心者さん、こんにちは^^
小心者さん、こんにちは^^
まさにその通りです(笑)
優奈が、ヒョヌに振られると思ってないんですよ~
だから、必死なんですね^^;;;
どんなことをしても手に入れたい。。。
押しつける恋は自分も人も傷つけるんですけどね。
修平は、いつになったら正気に戻るのか^^;;;
  • 2011/10/26 12:19
  • YUKA
  • URL
夢は確かにいつか終わりますが、
それは死ぬときかもしれないということを考えれば、生きている限りう夢を見続けて生きることは可能です。そういうのが生きる根性であって、恋をする根性ってもんだっておもっています。ファイトだあ!!
  • 2013/04/21 17:34
  • LandM
  • URL
LandM さん
LandM さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます!!

そうですよね。
>夢はいつか終わる――。
この言葉は、優奈と杏子の過去に係る想いに繋がる過去に絡むセリフですが
彼らはまだ、その過去に囚われています。

生きている限り幸せになってもいいのだと、
それが生きているということで、そこに罪はないのだと
是非彼らの尻を叩いてやってください♪

いつもコメントありがとうございます!
頂いたコメントを読むのがとても楽しみになっております^^
ありがとうございました♪

  • 2013/04/23 19:59
  • YUKA
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