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誓約の地/漂流編・137<生誕(4)>

 

誓約の地/漂流編・137<生誕(4)>


優奈とヒョヌ。

2人のすれ違いに気付いた杏子は、みんなを巻き込んで一計を案じた。

大切に思うからこそ臆病になる2人に、差し伸べた友情。


その想いに、ヒョヌはどう応えるのか?


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 その日、優奈の誕生パーティーが開催されることになった。

 杏子が声をかけたのだ。その計画は本人にだけ極秘で進められることになる。

 元気のない優奈のことはそれぞれが感じていた。

 暗い話題に沈んでいた島での、久々に浮かれるようなイベント。

 優奈とヒョヌも席を外している医務室で杏子が計画を説明している間、修平は今朝の会話を思い出していた。

 ケイタとツヨシ、カズヤとコウジは食料調達に出掛けている。

 この4人には修平が説明しておいた。特にコウジに対しては慎重に声をかけたのだ。

 修平から計画を聞いた時コウジは頷き、自分も参加していいのかと静かに問いかけた。

「いやか?」

 修平の言葉に今度は首を振る。

「俺がいて、楽しめないのは困ると思っただけだよ」

 静かに笑っているコウジに、修平は肩をすくめる。

「お前がいなきゃ、優奈は楽しめないさ」

 そう言って修平は笑った。

「仲間全員でイベントをしようって決めたんだ。お前は仲間だろ。お前だけいなかったら、優奈は喜ばない」

 その言葉に、コウジは頷いた。

「笑ってほしい」

「ん?」

「俺がいうのはおこがましいんだけど。前みたいに笑ってほしいんだ」

「……そうか」

「だから何でも協力するよ」

 呟いて海を眺めるコウジの横顔を、修平は暫く見つめていた。




 突然の奇声に修平は我に返る。

 皆快く賛成し、中でもリョウコとエリがはしゃいで張り切っていた。

「そう言えば、ヒョヌはどうするんだ?」

 杏子にマークが問いかける。

「伝えてあるわ。でも彼は別行動」

「別行動?」

 首を傾げるミラに、杏子は微笑んで答えた。

「彼氏としては個人的に何かしたいでしょうね。張り切ってるんじゃない?」

「なるほど」

「ヒョヌはどんなことするんだろう?」

 興味津々に聞いてくるジャンとミラとに杏子が苦笑して「聞いてない」と答えた。

「内緒みたいよ」

「うわ。すごく興味ある――!」

 興奮したエリの腕をひいてリョウコが諭した。

「それより私たち! 私たちも盛り上げましょう! 喜んで貰わなくっちゃ!」

 何故か非常に意気込んでいるリョウコにエリが賛同した。

「ヒョヌさんに負けられないよね?」

「当り前よ! 絶対負けないわ!」

「……ちょっと待て。勝ち負けじゃないだろう?」

 呆れた顔で笑っている修平をリョウコはきっと睨みつけた。

「意気込みの問題です!」

「いや、それはわかっているけどさ」

 そう言いながら、修平は杏子を振り返って苦笑した。

 ヒョヌと優奈の間に感じる距離、それを埋めるキッカケにと思ってこの計画を考えている杏子の意図を修平はわかっていた。

 同時に、このところの沈みがちな全員の空気を変えたいという含みも。

 しかしあくまでも主役は優奈であり、ヒョヌだった。

 その邪魔になるようでは本末転倒。

 張り切り過ぎるなよと笑っている修平に、リョウコは頷いた。

「ただ、笑ってほしいだけです」

 リョウコがぽつりと呟くと、そこに居た全員がリョウコを見た。

「前みたいに、笑ってほしいんです」

 その言葉が全員の心に沁みる。

 何故か泣きそうになっているリョウコの肩を杏子がそっと抱きしめた。

「そうね」

「わかってるさ」

 修平はリョウコの頭にポンと手をのせ、微笑んでいる。

「さぁ、計画を立てましょうか」

 杏子が声をかける。

「優奈には内緒でね」

 杏子のその言葉を合図に、それぞれができることを考え、楽しんでいた。



 その日から――。

 キャシーとミラは、衣類の中からいくつも選んだ服をリメイクして可愛いワンピースを作っていた。

 リョウコとエリは当日使う食堂の飾り付けを検討しながら、医務室で本を片手に話しあう。

 そしてこっそり隠れるようにして、ヒョヌと修平は打ち合わせを重ねていく。




 当日。

 杏子が優奈を連れ出してる間に男性陣は山のような果物を採りに行き、エリとリョウコはたくさんの花を摘んできた。

 エリとリョウコはその果実で甘く大きなパイを焼き、ジャンは野草と香草でスープを作り、佐伯とマークは珍しく海で魚を釣った。

 大漁に気を良くした2人はジャンの指導の下で自ら捌いていく。

 



 夕刻。

 いつもの食堂に煌々とあかりが灯る。

 揺らめく炎に飾られた花が照らされ、大きく開け放たれた窓から甘い香りが吹き抜けていく。

 テーブルにはたくさんの食材が所狭しと並べられ、仄かに湯気が立ち上っていた。

 質素ではあるが、この島では晩餐と呼ぶにふさわしいテーブルの上で、磨かれた食器に反射した光が踊っている。


「ハッピーバースディー!」

 ヒョヌに連れられて食堂に入った優奈は、用意された品々に驚いた。

「ありがとう!」

 プレゼントのワンピースに着替え、たくさんの花に囲まれながら嬉しそうに笑う。

 久々に見ることのできた花の咲くような優奈の笑顔。

 全員がもう一度取り戻してあげたいと願った笑顔だった。


 この島では驚くほどの豪華な夕食を全員で堪能したあとも宴は続いている。

 佐伯が弦を張り直したギターを弾き、ジャンはイタリア語で自慢の歌を熱唱し、杏子と修平はトランプマジックで優奈を驚かせ、和やかな時間が過ぎていく。

 一通り余興が終わりに近づき、それぞれが賑やかに話しこんでいる中で杏子はそっと辺りを伺う。

 いつの間にかヒョヌの姿が無い。

「真打ちはどこ?」

 誰にも聞こえないように小さく呟いて柳眉をあげる。

 ずっとヒョヌがどうするのか気になっていた。

 優奈との間にある小さなすれ違いを修正するチャンス。

 そのために伝えたはずだった。




 暫くすると、音も立てずに部屋に戻ったヒョヌがそっと優奈のそばに近づいて屈んでいる。

「どこにいってたの?」

 優奈の問いかけにヒョヌは「ちょっとね」と微笑んだ。


――きっと何か考えがある。

 そこにいる全員が、戻ったヒョヌにあえて気付かない振りをしていた。

 笑い声をあげ、浮かれた全員の意識だけが優奈とヒョヌの様子を伺っている。

 無駄に緊迫する空気を感じてヒョヌは肩を竦めたが、みんなの気遣いに甘えてそのまま優奈の手を取った。

 首を傾げた優奈に優しく微笑むと、盛り上がるみんなの中からこっそり連れ出していく。

 杏子は一瞬躊躇ったが、その後をつけた。

 そっと部屋を抜け出して真っ暗な廊下を音を立てずに進むと、部屋のドアが少し開いているのがわかる。

 夜は真っ暗になるはずの部屋から驚くほどの明りが漏れていた。





「抜け駆けはよくねえよな?」

 囁く声に驚いて杏子が振り返ると、修平が笑っていた。

 しかもその後ろにはロウソクを片手に近寄ってくるエリとリョウコ、カズヤ、ソンホにマークやキャシーまでいる。

「……何してるのよ」

 声を殺して呆れる杏子に修平は肩を竦めた。

「見てわかるだろ?」

「は?」

「覗きの便乗だよ」

 得意げに、にやりと笑う修平に杏子は脱力した。

「ここが正念場だからな。友人としては心配だろ?」

「…… 好奇心じゃないの?」

「当然、それもある」

「……悪趣味ね」

「人のこと言えないだろうが」

「一緒にしないでよっ」

 思わず声を荒げそうになる杏子に、修平が口元に人差し指を当てて制止する。

 腹立たしいが争っている場合ではなかった。気付かれたら、ヒョヌの計画に水を差すことになる。

「他は?」と問いかけた杏子に、修平は居残りだと小声で説明した。

 佐伯はコウジを連れて海辺の見張りに行き、ジャンとミラは後片づけのために残り、ケイタとツヨシは外の見張りをかってくれていたらしい。

 もちろんあとで詳細に報告することを条件に。

 そこまで聞いた杏子は肩を竦め、ドアの方に向き直った。

 薄く開いたドアから部屋の中を覗くには限界がある。あまり覗きこんではばれてしまう。

 杏子はドアを気付かれないように少しずつ開けたが、それでも先頭の杏子と修平以外は中を見ることさえできない。

 しかたなくカズヤに窓側へ廻れと合図をした。カズヤが頷き、残りもそれに従った。












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Comment

あいかわらずだなあ
杏子姐さんの過保護。
修平以下、その他ギャラリーも好奇心でついて行っちゃっていますね。普通なら「こんなプライバシーのない世界いや!」とキレるところでしょうが、優奈もヒョヌもそういう方向にはいかなそうです。「絶対に覗きにくる」と確信していたりするんですかね。


  • 2013/07/20 21:53
  • 八少女 夕
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八少女さんのコメントもわかるけれど、

わたしは修平くんたちの野次馬根性がよくわかる(^^;)

「とてつもなく貴重ななにか」を守ったという確認がほしいんでしょうなきっと。読者も。そしてそれは当事者以外の第三者の視点から描かないと描ききれないものなのではないか、と思うのであります。
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