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誓約の地/漂流編・14<牽制(2)>


胸に去来する様々な想いに翻弄されて、踏み出せないヒョヌ。

優奈に思いを寄せる、修平が取った行動。


2人は更にすれ違って――



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 燦々《さんさん》と降り注ぐ日差しの中、午後のひと時をそれぞれが思い思いに過ごしていた。

 優奈は日陰に置いてある荷物をひっくリ返して整理を始める。

 きちんと整頓するのは楽しい。


 今日は1つずつ確かめながら、空いたトランクに衣装を整理しようと決めた。

 サイズごとには別れてるから、今度は色ごとに分けよう! 

 そうだ! 黄ばんできた白いTシャツとか……染めたり出来ないかな?

 昔、草木染めの方法を見学に行ったことを思い出した。

 この森から材料が見つかるかも、と1人思案しながらせっせと衣類を畳んでいく。



 荷物の中のあるものに目が留まった。

「あら、チョガッポ? 何かに使えるかなぁ」

 お土産で買ったものだろうか? 



 アースカラーに彩色された布をパッチワークのように組み合わせた風呂敷《チョガッポ》

 それは衣類に交じって積み上げられている。

 韓国留学中に招待された友人宅で、敷き布として飾られていたのを思い出した。

「そう言えば、彼女もヒョヌさんのファンだったなぁ」

 取り留めもなく、懐かしい想い出を回想する。

 日本の友人の勧めで初めて見た韓国ドラマ。

 その話の中心にヒョヌがいた。


 憂いを含んだその瞳が想い出と重なって目が離せなくなり、どんな人だろう――そんな好奇心からいくつも作品を視聴して、いつの間にか夢中でヒョヌについて検索を繰り返した。

 どんな思いで、どんな風に語るのか知りたくて、手を出さなかった韓国語を勉強して――

 その想いが高じて留学まで敢行《かんこう》してしまった。

 自分でも呆れるほどのめり込んだ。

「杏子じゃなくても、心配するわよね」

 我ながら凄い行動力だったと思う。

 何でそんなにのめり込んだのか――

 優奈は無意識に耳たぶに触れて、ハッと我に返る。

 あれからずっと身につけていたピアス。

 遭難の時に外れたのか、気がついた時には無くなっていた。

 それでも時々無意識に耳に触れていたのに、最近はそれさえ忘れていた。



「忙しかったから、かな」

 苦笑しながら少しため息をつく。

 それは彼から初めて貰った贈り物。

 月長石――別名「ムーンストーン」


 月の名前を冠したその石。

 「月が宿る聖なる石」とも言われ、まるで本当に月明かりを宿したかのような淡い光を纏《まと》っていた。

「贈られてから随分調べたっけ」

 当時の自分を思い出して、優奈はくすりと笑った。

『危険を知らせ、危険から守ってくれると言われてる。旅行のお守りにも使われる石なんだ』

 語学留学を重ねる自分を心配して、誕生石ではないけど僕の代わり――そう言って笑った顔が浮かんでは消える。

 愛を告げる恋人の石だと知ったのは、それより後のことだった。

 離れ離れになった恋人同士も、別々の場所で同じ月を見ることが出来る。

 月の光で繋がっている――遠距離恋愛のお守り。

 恋人の石、幸福の石――愛の石。


 そっと込められた想いに泣きそうになって、毎日のように眺めていた。

「忘れてた……」

 その事が少しショックだった。


 あまりにも鮮やかな想い出に心が崩れてしまいそうになりながらも、心細くて眠れない夜は声に出さずそっと彼の名前を呼んだ。

――あれから思い出さない日は無かったのに。



『1人で背負わなくていい――』



 先日のヒョヌの言葉を突然思い出した。

「…………」

 ヒョヌが何気なく紡ぐ言葉は、いつも懐かしい想い出と重なっていく。

 優しく微笑んでくれるその瞳の色に魅せられて、心に響くその声で名前を呼ばれると胸が苦しい。

 ヒョヌと向き合うたびに、酷く曖昧で不確かな感情が去来《きょらい》する。


 少し早くなる心臓の鼓動を押さえたくて胸に手を当てると、大きく息を吸い込んだ。

「お嬢さん、精が出ますね」

 急に声を掛けられて、反射的に振り返ると修平が笑っていた。

「あ。――ちょっとね!」

 優奈もつられて笑う。

「みんなにやらせりゃいいのに」

「大したことじゃないから。結構好きなの、こういうの」

「……好き、なのか?」

「何その顔! まぁ、男の人は好きじゃないよね」

 修平は目を細めて微笑む優奈を眩しそうに見つめて、呆れたように肩を竦める。

「男がってこともないだろ? 親友は確実に『嫌い派』じゃねぇか?」

「確かに。杏子は――向いてないかも」

「俺もそう思う」

 修平は肩を竦めるようにしてそう言うと、くすくすと笑う優奈の傍に腰を下ろした。

「何があるか把握できるし。意外と楽しんでるの」

「偉いねぇ」

 そう言って優奈の頭をなでた。

「…………今、子供扱いしたでしょ?」

「いや? 褒めただけ」

 修平は口の端をあげるようにして笑うと、頬を膨らませて睨む優奈の両頬を片手で摘まむ。

「絶対した――!」

 優奈が片手で修平の胸を叩く前に、修平は笑って飛びのいた。

「よっし! 手伝う!」

「いいよ。遊んでくれば? 大丈夫だから」

 そう言う優奈の声を明らかに無視して、衣類を畳み始める修平に苦笑する。



 ヒョヌは離れた木陰に腰をおろし、そんな2人の様子を見ていた。

 優奈はふと思いついて修平に声を掛けた。

「ねぇ。ひとつ聞いていい?」

「ん? 何?」

「修平くん、ヒョヌさん苦手なの?」

「…………」

 一瞬戸惑ったような顔をした修平に気付かないまま、優奈は手を休めずに続ける。

「なんか話してるの見たことなかったから。韓国語わからないからかな? とも思ってたんだけど」

「そんなことねぇよ。昨日話した。ソンホさんの通訳で……さ」

「あ、そうなの? 何話したの?」

 榛《はしばみ》色の大きな目をキラキラ輝かせて修平に問いかけた。

 ヒョヌの話をする時の優奈はいつもこういう顔をする。

 嬉しくて楽しくて好きでたまらない。それが伝わってくるような笑顔。

 修平の心が軋んだ。



「別に世間話。韓国スターって知らなかったから、その話とか。韓国大騒ぎですねって」

「確かにね」

 視線を手元に落としながらくすっと笑う優奈を見て、修平はきりっと奥歯を噛み締める。

「優奈の話も出たよ」

「え?」

 慌てる優奈に気付かないふりをして、修平は平静を装って淡々と話しかけた。

「ファンだって言ってたから。美人だって褒めといた」

「……ありがと」

「最近仲いいからさ、ヒョヌさんも気になってるのかなって、ちょっと思ったりしてたんだ」

「ちょっ! 何言ってるの?」

「ごめん。間違ってたらしくてさ」

「…………」

「そういう風な女としては、見てないらしい」

「あ、当り前じゃない!」

「そう? まぁ、そうみたいだな」

「ファンに優しいので有名なんだから」

「そっか。まぁな、確かにいちいちファンを女として見てらんないよな。俺は知らなかったけど、実はスゲー有名なんだろ? 身体が持たね―よな」

 そりゃあそうだと笑う修平の言葉に、優奈は一瞬ドキッとした。

 女として見てないのは当り前だと言い聞かせる。

 そばにいられることが、単純に嬉しかった。ただ役に立ちたかった。

 何かを期待してたわけじゃないはずなのに、いつの間にか錯覚してたんだろうか? 

 近くにいたから、近づきすぎたから。

 住む世界の違う遠い人だったのに、こんなに傍で毎日話したり、笑ったりしてしまったから。

 多くの女性が彼を好きで、彼を好きで――

 いつか現実に戻る日が来て、お互いの世界に帰る時まで夢を見ていたかっただけ。

 そう、いつか必ず醒める夢――

 言われるまでもなく分っていたはずなのに、笑って答える修平の言葉が心に刺さっていく気がした。





 当り前だと否定する優奈を修平はずっと見ていた。

 無理して笑おうとして泣きそうになってる。

 荷物を整理する手が細かく震えていた。

 確かにヒョヌはそう言ったが正確ではない。むしろ悪意のある伝え方だった。

 自分の言葉が優奈を震えるほど傷つけたのもわかっている。


 それでも、修平は訂正しなかった。

 彼の心を奪った澄んだ瞳も柔らかな笑顔も、いつもヒョヌに向けられていた。
 
 優奈の心が自分に向いていないのはわかっている。

 あこがれ以上の気持ちでヒョヌを見つめていることも。



 それでも構わない。

 必ず俺が守るから。傷つけた分まで守るから。





 そう心に誓った。






















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Comment

ここまで 拝読しました

いいですねこの流れ 恋愛ドラマ的で

実際にありそうでw
  • 2011/10/17 05:09
  • いちごはニガテ
  • URL
いちごはニガテさん、 こんばんは^^
読んでくださって、ありがとうございます^^

ありそうですか?^^だんだんご都合主義で笑っちゃうかも(笑)
  • 2011/10/17 17:27
  • YUKA
  • URL
なんだか読んでて思ったんですが

修平って・・・・不憫!!

なんか好きなのに相手の視界には入ってない感が
バリバリなんですが・・・!

そして自分は物陰から優奈ちゃんを見守り隊!
  • 2011/10/25 20:26
  • 小心者
  • URL
小心者さん、こんばんは^^
小心者さん、こんばんは^^
読んでくださってありがとうございます。
修平が不憫……確かに(笑)
でも実は――初期プロット当初、名前も定かでないキャラだったんですよ(笑)
私が忘れていただけですが(笑) 大出世?です^^
修平にもいつか春が……来ることを祈ってやってください^^;

> そして自分は物陰から優奈ちゃんを見守り隊!
優奈。。。喜びます!^^b
  • 2011/10/25 20:35
  • YUKA
  • URL
本人は、まわり見えないよね。
修平君、あんまりやりすぎると、嫌われちゃいますよね。
ぎりぎりかなって、思いますが、、、

でも当の本人はまわり見えないんですよね。

この先どう展開していくのか楽しみです。
  • 2011/10/28 13:47
  • 北のくまから
  • URL
北のくまからさん、こんにちは^^
北のくまからさん、こんにちは^^
コメントありがとうございます^^
ですよね~~^^;結構アウトっぽいですけど(笑)
でも、人を嫌えないのが優奈ですから^^
その気が有るのか無いのか。。。優奈のせいかもしれません^^;
実は天然小悪魔かも(笑)
罪作りな子です。。。
  • 2011/10/28 14:18
  • YUKA
  • URL
ども!こんにちは!
修平って、なんか懸命に振り向いてもらおうって頑張ってても
報われない感がもう見えてしまってて、もしかしたら一番可哀相なキャラなんでしょうか?
でも、ここからどう修平が動いていくか楽しみです。
そしてヒョヌさんと優菜がこれからどうなっていくかも
すごい期待してます。
そしてそして、通訳のソンホさんも・・・
やっぱり通訳だけで終わるのか?楽しみです(笑)
ペレさん
ペレさん、こんばんは^^
読んでくださってありがとうございます^^
修平の苦難、ヒョヌの苦悩は続きます(笑)
ん~~~判断が難しいところですが、修平~~私は好きなキャラなんです^^
――ってことで、彼の今後を予測してください(笑)
そして、ソンホ!そこに食いつきましたか~~^^
いいヤツですよ!どうなるのか楽しんでください^^
  • 2011/11/03 17:57
  • YUKA
  • URL
なかなかこの辺は大人の恋に・・・ならないか。
恋愛小説であったのですが、「大人になると、ちょっといいなと思う人は大体相手がいる。だから、それは奪い取るしかない。取られる方が悪い。相手がいるから諦めていたら、出会いがない。」というセリフがありましたが、まさにその通りなんですよね。
  • 2013/04/20 18:36
  • LandM
  • URL
LandM さん
LandM さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます!

おお!けだし、肉食女風名言ですね(笑)
確かに、恋人のいない相手を探すのは難しくなっていくでしょうし、下手すると妻子持ち(笑)妻子持ちは置いておくとしても、恋人がいるいなを気にしていたら恋は動きませんからね。いいか悪いかは別としても、誰も傷つけずに幸せを掴むなどは、大人になればなるほどなかなか難しい。
告白。
本人にとってはとても甘く切ない場面ですが、恋人がいる場合、相手の視点に立てば「あの子と別れて私と」ってことになりますしね~~
ですが、
「奪った女はこの先、いつか奪われるかもしれないと思いながら過ごすのよ。始まった恋の終わりがくるまでね。それでもかまわないんでしょう? だって知っているんだもの。奪う女がこの世にいるってことを。その時は誰でもなく自分を責めなさい。自分もまた、奪われてしまう程度の女だったてこと。相手に負わせた傷は、必ず自分にかえってくるものよ」

誰の言葉かって? ……杏子が言いそうだなって(笑)

  • 2013/04/21 01:19
  • YUKA
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