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誓約の地/漂流編・130<懺悔(16)>


誓約の地/漂流編・130<懺悔(16)>



「彼のためじゃない。誰のためでもない。私のために力を貸して、杏子」

優奈の言葉に 杏子は言葉を失う



「今のあなたのそれは、償いになんてならない」

そこにある 優奈の想いとは?


================================================





「馬鹿なこと……言わないで。好きだったから。それでなんでも許されるなんて大間違いだわ。世の中には、報われない想いを抱えることなんて五万とある。叶わない片想いの方が圧倒的に多い。……それはあなたも、良く知っているじゃない」

「そうだね」

「……特殊な環境だったから、そんなことは言い訳にはならない」

「だから力を貸してほしいの。彼が自分の罪と向き合えるように。その上で、必要以上に俯かないように。後悔して反省していけるように。私にも、もう一度チャンスがほしい。こんどこそ間違わないように」

「なぜ優奈なの? チャンスが必要なのは彼でしょう? 優奈……いい? ここで今まで通り――確かに理想的だわ。でももう今までとは違う。それは他でもない、コウジが作りだしたのよ? 自分の思い通りに壊して作り上げた。この状況を。コウジの戯言を受け止めてなんてやれない。どんなことを言っても、コウジがしたことは最低よ? 最悪の結果になっていたかもしれない。それがわからないほどコウジは子供じゃない。そこまでする必要がどこにあるの? コイツのせいであなたが死ぬ目にあったのに」

 杏子の張りつめた声が響き渡る。


『彼、いい人だったでしょう?』

 そう言っていた優奈の言葉を杏子は反芻していた。

 優奈がずっと悩んでいたことはわかっていた。

 それでも……人が良いにもほどがある。


「なんでよ! なんで……襲われて命まで危険に晒された優奈がコウジを庇うのよ!」

 そう叫びながら、杏子にはわかっていた。

 これを言えるのは優奈でしかあり得ない。他の誰にも言えるはずがない。

 当事者で被害者の優奈本人だからこそ、あり得ないと思うコウジへの処遇を言える。

 力になる――そう言ったのは杏子自身だ。

 それでも納得はできない。

 コウジのために力を貸すなんて、今は口が裂けても言いたくなかった。



 そんな杏子の心を見透かしたかのように、優奈は話しかける。

「彼のためじゃない。誰のためでもない。私のために力を貸して、杏子」

 瞳いっぱいに哀しみを湛えて優奈は小さく笑った。

 杏子は食い入るように優奈を見つめて押し黙る。

「いつも甘えてばかりでごめん。助けて貰ってばかりで本当にごめんね。ずっと考えてたの。でも言っちゃいけないと思ってた。杏子が、みんなが私に起こったことを自分のことのように悩んで考えてくれてるのに。杏子はいつも的確で颯爽として私を諭して助言をくれる。私はいつも考えが甘くて失敗ばかりだけど、そのおかげで何とかここまでこれた」

「優奈……」

「杏子。……私は彼を監禁しても追放しても、きっと笑えない。そのことがいつまでも心に残って、今までのようにいられない。知ってるでしょう? 私がそういう馬鹿な子だって。だから二度とおかしなことが起きないように、二度と辛い思いをする人が出ないように、力を貸して」

 お願い――そう言う優奈に、杏子はこれ以上何も言えなかった。




「優奈さんに、罪なんてないです!」

 黙り込んだ杏子の代わりに、リョウコが声をかける。

「罪を犯したのも罰せられなきゃいけないのもコウジさんで……優奈さんは悪くなんて無い。それに……杏子さんの言ってる事はもっともだって思います。追放でも監禁でも、そう思われるのは当然なんだから」

 声を詰まらせながら話すリョウコに、優奈は優しく微笑んだ。

 その顔を見てまたリョウコは泣きそうになった。

――自分だったら、そんな顔はできない。

 颯爽と輝く杏子と、優しく包み込むような笑顔の優奈。

 そのどちらも姉のように慕い、またその2人の関係に憧れてもいた。

 遭難当時から自分を庇い励まし、また間違っていれば正してくれてきたのは優奈だった。

 その優奈が憧れていたヒョヌと付き合った時、リョウコは心から喜んでいたのだ。

 幸せそうにほほ笑む笑顔が優奈には良く似合う。

 そんな優奈の笑顔を見るたびに、リョウコまで幸せな気分になった。

 その笑顔が失われた――あの不安で眠れなかった夜をリョウコも忘れてはいない。

 俯くリョウコに優奈は声をかけた。

「そうだね。でもこの島は無人島。確かに過ごしやすいけど、生活するのは大変だってことはみんなわかっているはず。これだけの人数で毎日の作業を分担して、安全を考慮して――協力し合っているから生きていられる。一人で出来ることには限りがある。彼がひとりで生きていくのは、思っている以上に簡単なことじゃないよ」

 リョウコにも優奈の言っていることはわかっていた。

 それでも優奈が苦しむ必要なんて無いと、それだけは伝えたかった。

 好きでもない人に襲われ、それを好きな人に知られる。

 誰にもその本当の気持ちはわからない。

 もし自分だったら――リョウコは何度もそう思って、その度に体が震えた。

 それがどんなに苦痛だったか。騙され踏みにじられて、どんなにみじめだったか――。

 その後見つかった傷だらけの優奈が、目を覚ますまでの祈るしかない日々。

 その時の優奈の心を想うと、簡単に赦せない。

 あの時の杏子さんの怒りと、ヒョヌさんの動揺を思い出すたびに苦しかった。


――優奈さんは知らない。

あの時の杏子さんを。

あの夜のヒョヌさんを――。



「リョウコちゃん、ありがとう」

 その言葉にリョウコはハッと顔をあげる。

「そんな……私は、何も」


 何もできなかった。何も。

 あの時、自分も行けばこんなことにならなかったのではないか? 

 何故一人で行かせたのだろうか。

 そう考えて何度も泣いた。

 コウジの想いをリョウコも気付いていた。

 それでもヒョヌがいるのだから無理だと、諦めるしかないと思っていたのだ。

 コウジの策略を知らなかった。その心の闇にまで気付かなかった。

 でももしあの時、一人で行かせなければ――その想いがずっと心から離れない。


「リョウコちゃんのせいじゃない」

 優奈は気付いていた。

 遠慮がちに見舞いに来るリョウコが、あれ以来沈みこむような表情を見せていたことを。

 その気持ちを押殺して、精一杯笑ってくれていたことを。

「リョウコちゃんは悪くないよ」

 リョウコは今にも泣き出しそうに顔を歪める。

「それは優奈さんです! 優奈さんは悪くない! 絶対に!」

 震えて叫ぶようなリョウコの言葉を受けて、エリがその肩を抱いた。




 リョウコの言葉に、俯いていたコウジが口を開いく。

「わかってる。例え殺されても文句は言えないって思ってるから……」

 コウジはその瞬間、鋭く突き刺さるような優奈の視線を感じた。

「……わかってる? 自分で何を言ってるのか、わかってるの?」

「わかってるよ。……それが望みなら……それでもかまわないと――」

「今のあなたのそれは、償いになんてならない」


 思いがけない優奈の冷たい口調で、礼拝堂の空気が揺れる。

 視線が一気に優奈に集まり、その眼を見て全員が息を飲んだ。

「人の生き死には軽々しく扱っていいことじゃない。それがたとえ自分のことでも」

 優奈の言葉に激しい感情が宿る。

「それは……けど……」

 震える声で言葉を選ぶコウジに、優奈はそれ以上言わせなかった。

「少なくともここで……彼らの前で言うのは許さない」

 そう言って祭壇を指さした。

 微かに差し込む光が白い布に落ちて、眩しいほど反射している。



 そこには彼らが眠っていた。
















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Comment

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  • 2013/01/21 13:15
こんばんは〜(^^)
リョウコさん、こんな風に思っていたのですね。
「誓約の地」でのリョウコやエリの立ち位置って、いわゆる「普通の女性」で、親しみが湧きやすいですよね。
そんなリョウコの素直な気持ちは、こちらの共感を柔らかく呼び覚ます優しさがあるように思いました。これがやっぱり杏子さんだと、余りにも輝いて鮮烈過ぎるので、共感というよりは同化してしまって、心を激しく揺り動かされてしまうのですよね^^
前回のエピソードやコメント返信の中でもありましたが、医師でありまた鮮烈な存在感を持つ杏子さんの発言は、それだけで周りの人に有無を言わせぬ力を発揮するのですよね。杏子さんのこの感情は、どこへ向かっていくのか。杏子さんはまだ納得しきっていない感じもするのですが・・・

コウジ。
冒頭の優奈さんの言葉

>その上で、必要以上に俯かないように。後悔して反省していけるように。

最後のコウジが、これまた悪あがきのようにこの言葉に相反するような発言をしていましたが///人は前を向いて進むより、自分を責める方が楽に感じる時がありますよね。自分を責める事を免罪符にしながら、根本的な責任から逃れてしまいたいというような。
優奈さんがコウジに求めているのはそういう事じゃないのですよね。またコウジも理屈ではそんな優奈さんの気持ちを理解している筈なのですよね。でも、まだまだ彼も納得仕切っていないような気がしました。

人の生き死に。
優奈さんの琴線に触れた言葉なのでしょうか。
かなり驚きました・・・
いつも優しかった優奈さんの怒りは、感情的な怒りじゃなくて、もっと根元的な深さを感じました。
舞台が礼拝堂である意味や、彼らとは何を指しているのか。
優奈さんの想いの全容はまだまだ奥が深そうです。
これだけの感情の流れを作られるYUKAさんが本当にすごい!と毎回思います!^^!



「死んで償え」という考え方自体が安直で、「死んでお詫びを」という考え方はもっと安直だということですかね。

優奈ちゃんの道は困難な茨の道だなあ……だけれどもそこにしか人間としての生き方の可能性はないように思います。

死んでしまえばそれ以上の責任の追及の方法はありませんからねえ……。

>微かに差し込む光が白い布に落ちて、眩しいほど反射している。

汚れた部分を少しづつ浄化してくれる超自然的な力が暗喩されているようです。わずか一文でストリーをぐっとしめるYUKAさん、素晴らしいです^^
  • 2013/01/23 22:38
  • HIZAKI(
  • URL
鍵コメNさん
鍵コメNさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます!
頂いたコメントは何度も読ませて頂きました。
いつも細やかな気遣いと丁寧なコメントを、本当に嬉しく思っているのに
お返事がこんなに遅れてしまったこと、本当に申し訳なく思っています><。
どうかお許しください!><。

この「懺悔」の回は、本当に長く重くなってきました^^;;
本来は数話で終わることろが、まさかこんなに引っ張ることになるとは(苦笑)
それでもそれぞれの心の内に抱えていることも含めて書きたくなって
いつの間にか、長くなりました。

そうですね。
優奈の言うことは正論で、一見正しく見えます。
これは彼女にとっての最良なのですが、それが正しいとは言い切れないと思っています。
それぞれに考えがあって、それぞれの想いがあって
それを全て統一するのは、とても難しいことですよね。

>人の生き死には軽々しく扱っていいことじゃない。それがたとえ自分のことでも

これは、彼女の過去に起因した言葉です。
優奈が母を亡くしていることは何度か出てきていますが、彼女は他にも色々経験をしています。
優奈は少し頑なな子ですから^^
頑なに真っ直ぐな心というのは、かえって歪んでいるのではないかと思うんです。
正しいと思うことを正しいと信じすぎる頑なさは、歪みではないかと。
そう言う意味では、優奈もまた心に抱えたものを消化できていないのかもしれません。

創作する際は色々な面を描く必要性があると思っています。
色々な愛の形や、歪んだ感情、凄惨な事柄も、お話を作る上で必要になってくることもありますし
そういう面も、私の中にあることだったりして
それをどんな風に描くかも、なかなか難しいことですね^^
素人が創作している場合、そのお話は自身の過去や経験に照らし合わされることも多くて
なかなか難しいこともありますよね~~~
こういうセリフを書いておいて、作者としては、実はそのことにこれから触れていくという^^;;

人は正論やモラルだけでは息が詰まるし、いい面ばかりではないと思います。
憎悪や嫌悪、邪悪な面や不安怖れ、歪な感情を含めて、その負の感情と呼ばれるものも
誰しも心の奥に秘めていたりしますよね。
創作は、そのどの面にスポットを当てるかということな気がしています^^
鍵コメさんの描かれる世界観、その感覚や不条理なども含めて
私もとても共感したり、そのことにインスパイアされることも多いです^^
それほど鍵コメさんの作られている世界が、濃密で心に響くのだと思います^^
私はそのまま、鍵コメさんの想うように描かれるのが一番だと思っています。
その言葉が、創作が、その人の全てではなく
その断片というか、そのどこかにスポットを当てた一面だと思うので^^

真っ直ぐさだけが正しいということは無くて、歪んだものが歪んでいるとも言い切れなくて
歪になっているものも、それはそれでいいのではないかと思っていたりするんです^^
ゆがんだ形が、誰かの、なにかの歪みと上手く合わさることもあるかもしれないと思います^^

祭壇の彼ら――
優奈はある決意をずっと持っていました。
そのことと、コウジの発言が重なってしまったんですね。
彼らはもうものが言えませんが、
それは生きたいと願っている人の前で、死にたいと発言しているようなもので…
死にたくなかった人達の前で言っていいことではないと忠告しているようなもので。
自分のことしか見えなくなっているコウジに、みんなに、ですね。
コウジを叱責していますが、同時にみんなにも告げているという想いです^^

最後の描写^^
その光や色や感情が、目の前に浮かんでくださったならとても嬉しいです^^
真摯なコメントを本当にありがとうございました^^
もしよかったら、また遊びに来てくださいね~~^^


  • 2013/01/26 00:52
  • YUKA
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Canariaさん
canariaさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪
頂いたコメントが嬉しかったのに、お返事が物凄く遅くなってしまって
本当に申し訳ありません><。
これに懲りずに、コメントを頂けると嬉しいのですが^^;;

リョウコ――
canariaさんの言う通り、リョウコはいわゆる「普通の女性」です^^
女子高、女子短大を卒業している彼女は、どちらかというと奥手で気が弱くて
普通の家で育った普通のお譲さん^^
その経歴からか、彼女は男性陣よりも女性陣、とくに優奈や杏子に共感することが多いです。
共感というよりは、憧れと言った方がいいかもしれません^^
10代の女の子が同性の先輩に憧れるような、そんな感覚に近いかも。
そう言う意味では、夢見がちな幼さも残っていますね~^^

リョウコはヒョヌと優奈が同室になってから、杏子と同室になっていました。
リョウコを可愛がっていた杏子と、同室ゆえに会話する機会も多かったはずなんです。
だからこそ、杏子の抱えるものを少しずつ垣間見れていたのだと思います。
常に忙しい優奈よりも、どちらかというと
「人ができることには手を出さない派(笑)」の杏子と居る方が多かったというか^^
女性としても、共に暮らす仲間としても杏子寄りです。

杏子は納得はしないでしょうね。
でもこれ以上は無駄だと思うかもしれません。
それは頑なな優奈の一面を、とてもよく知っているから。
完全な当事者で被害者の優奈に、これ以上は言えない気もします。
だからと言って、納得するのとは違いますけどね^^
このことで杏子が抱えた感情を昇華するのは、実はもう少し先になりそうです!^^

そして、コウジ。
もう本当にこいつは~~~と思いながら書いています(苦笑)
ですが、簡単に「はい、そうですね!」と納得するには
彼の抱えていた感情は歪んでいたので、それは無いだろうなという想いもあって。
彼が色々なことを納得するにはどうするか、どうしたらいいか
そればかりを考えて書き進めています。
それは優奈の鶴の一声でどうにかできることではないという気もしているので^^
まして、憎悪していたヒョヌの言葉で改心もできるはずが無いし。
杏子には潜在的に反感があったので、これも無理(笑)
では何が彼の救いになるのだろうと、それを模索していて^^
徐々に心が移っていくような小さな変化が描けるといいのですが^^;;

優奈の怒り、驚かれましたか^^
彼女にはある想いがあって、それが覚悟となって彼女を突き動かしているのですが
そのこととコウジの発言がダブったのですね^^
コウジを叱責しながら、コウジだけでは無くみんなに苦言を呈しているともいえます^^
生きたいと願っていたであろう「彼ら」の前での、コウジの、みんなの発言に。
彼女の決意は次話、でしょうか^^
そして次回は「エリ」ちゃんの回^^
コウジに一番近かったカズヤの彼女であるエリが思うこととは?って感じです^^
そして徐々にみんなの心にも変化が……出るといいなぁ(笑)

お忙しい中、真摯なコメントを本当にありがとうございました^^
また読んで頂けたら嬉しいです♪

  • 2013/01/26 01:14
  • YUKA
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ポール・ブリッツさん
ポール・ブリッツさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪
お返事が大変遅くなりまして、本当に申し訳ありません><。

そうですね。
まさにその通りだともいます。
人は最終結論的に、それを願ったり、そこに逃避しようとするものだと思うのですが
そして、そう言う考え方を否定はしないのですが
優奈の場合、そういう解決策を選択はしない気がして。
この生活で、それを選択するのは回避したかったというのもあります^^

困難ですよね~~
でも彼女もその困難な選択を強いたことに対して、自分自身もその一翼を担おうとしています。
決して楽な道ではないけれど、希望はある気がしています^^
とはいえ、この話が上手く決着するかどうか^^;;
重くて難しい章ですが、もう少しお付合いくださると嬉しいです^^

  • 2013/01/26 01:20
  • YUKA
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HIZAKI さん
HIZAKIさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪
お返事が遅くなって、申し訳ありません^^;;

言葉の魔術師に褒められた♪
褒められると伸びる子なので(笑)また頑張れます!(・・。)ゞ テヘ

ありがとうございます♪

この最後の文で、その光や色や空気や感情が視えて頂けたら
これほどうれしいことは無いです^^

  • 2013/01/26 01:23
  • YUKA
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