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誓約の地/漂流編・127<懺悔(13)>

誓約の地/漂流編・127<懺悔(13)>



 静寂に包まれる礼拝堂に 優奈が現れた 

 そして 

 彼女を守るように並び立つ影が2つ 



 抱える不安 

 やり場のない感情 


 全員の視線が集まる中で 彼女は何を語るのか?



================================================





 気配を感じで全員が視線を流した先に、優奈が立っていた。



 一緒にいたエリとリョウコが優奈に付添い、優奈は立ち止まったまま礼拝堂の中を見渡し、そこに全員がいるのを確かめて最後にコウジに視線を移した後、コウジの元へゆっくりと歩いていく。

 一番近くにいた杏子の傍を通ると、杏子の視線を受けて小さく頷きいた。

 杏子はそんな優奈を暫く見つめた後、身体を少し引いて路を譲ってやる。

 祭壇から中央に真っ直ぐに延びる身廊(しんろう)を少しずつ進むと、ヒョヌは無意識に優奈の腕を取った。

 掴んだ優奈の腕が、微かに震えていた。




「大丈夫」

 思わず引き留めようとするヒョヌを安心させるように優奈は呟いた。

 柔らかく微笑んでいるいつもの優奈はそこに居ない。

 それでもヒョヌは優奈の強いまなざしを受けて、小さくため息をつくと路を譲る。


 数メートル先――


 コウジが顔をあげると、いつもの笑顔が消えた真剣な瞳と目が合った。

 そしていつの間にか2つの影が同時に動いて両翼のように並び立つその光景を、ただぼう然と見ていた。

 ヒョヌは静かな眼をしたままゆっくり移動して優奈の右前に立ち、コウジの傍からゆっくり立ちあがった修平が少し離れて優奈の左側に着く。


 無意識なわけがない。

 優奈には近づかせまいと、その隙を埋めるような二人の立ち位置にコウジは唇を歪めた。

 それでも二人の間から見える優奈の姿に、コウジの気持ちが揺れる。



 ずっと好きだった人。

 全てを壊してまで手に入れたかった、愛しい人。



 優奈の姿を見たのはあの夜以来だった。

――少し、痩せた。

 あれから随分日が経っているはずだった。

 それでもまだ痛々しい切り傷が幾つも優奈の手足に残り、赤く染まる傷が白い肌に浮かび上がる。

 まるで自分の罪がそこに刻まれているようで、負わせてしまった傷を直視することができない。

 コウジは目を伏せるようにして項垂れた。

 午後の強い日差しが礼拝堂の壁にあたり、柔らかい光に変えて優奈を照らしていく。



「少し、痩せたね」


 コウジはもう一度優奈を見た。

 その言葉が自分に向けられたものだと理解するのに時間がかかった。

 なんと答えていいかわからず、心なしか青ざめた表情の優奈を避けるように視線を逸らしていく。

 第一声で優奈からどんな罵声を浴びるのかと、そこにいた誰もが同じように身構えていた。

 だがその声は言葉はとても穏やかで、全員の気持ちをかえって不安にさせる。

 自分を襲い、怪我を負わせた相手への第一声が、まるで相手の体を気遣う言葉であるとは予想していなかったからだ。

 どうするのか、どうなるのか――

 礼拝堂に張り詰める、みんなの想いを含んだ空気を優奈は小さなため息で包んでいく。


「ああいうやり方は好きじゃない」

 優奈はこわばる顔を向けてコウジに語りかける。

「愛する人は私が選ぶ。私の心と体を許す人は、私が決める」

 静かに語る優奈の声は、水を打ったように静まり返る礼拝堂に反響した。

「二度と、しないと誓って」

 そう言われて、コウジはもう一度優奈を見上げた。

 いつも潤んだように輝いている瞳の中に浮かぶ哀しみに声すら出ない。

――誓ったからと言って、俺がしたことは消えるわけじゃない。

 そう思う気持ちに反して、コウジは無意識に頷いていた。

 視線を避けるように俯いたあと、顔をあげることすらできなかった。

 口を開いても、声が喉の奥で絡んでしまう。

 浅い呼吸を繰り返し、コウジはただ項垂れている。

 憎悪でも侮蔑でも苛立ちでも無く、深い哀しみと毅然とした視線。

 それが何故かとても恐ろしい。

 取り乱すことのない静かなその声に、コウジの体が震えていく。



「……コウジを、許してやるのか?」

 そう口を開いたのはケイタだった。

 その問いは非難ではなかった。

 彼女の言葉が、彼女の醸し出す雰囲気がただ純粋に疑問だったのだ。

 それはそこにいた誰もがそうだったのだろう。誰もが身じろぎもせず優奈の答えを待っていた。

 優奈はコウジを見たまま、ゆっくり首を横に振る。

「赦すことは、まだできない」

 その言葉にコウジは何故か安堵する。

――赦されるはずがない。それでいい。



「そっか」

 ケイタはそう言って眼を瞑った。優奈の傍にいたヒョヌがそっと問いかける。

「優奈は……どうしたい? 何を望んでる?」

 優奈はヒョヌの方を振り扇ぎ、その瞳を見つめていた。

「オッパ……」

「ん?」

「力を、貸してくれる?」

「もちろん」

 ヒョヌは迷わず答えた。

「及ばずながら俺も、だな」

 修平が声をかける。
カズヤも叫ぶように優奈に声をかけた。

「俺らだって同じだよ。優奈さんはどうしてほしい? 思ってること言っていいよ」

 小さく頷く優奈を見て、誰もが口々に優奈を励ましていく。

 ただ、杏子だけが黙って優奈を見つめていた。



 青白い顔で少し微笑んだ後、優奈はゆっくりとコウジに視線を戻して語りかける。

「ここで、みんなと生活を続けること。……朝の作業をして夜の見張りをしながら、救助を待つ全員に力を貸してほしい。みんなと一緒に食事をして片付けて。……コウジくんも一緒に」

 その瞬間、全員が優奈を見て唖然としていた。

「コウジも、一緒に?」

 ヒョヌがもう一度念を押す。

 優奈はかたい顔をしたまま頷いた。

 杏子は大きく眼を見開き、修平は微かに視線を落とす。

 それぞれが驚き唖然として声も出ないその状況で、ヒョヌは優奈ならそう言うだろうと、なんとなくわかっていた。

 自分の中の想いがそれを否定し、それを許すまいともがいていただけだと今ならわかる。

 数日前のヒョヌならこの優奈の発言に驚き、戸惑い、猛然と反対しただろう。

 認めるのは今でも苦しい。

 それでも――



「ちょ、ちょっと待って! それって……今まで通りにってこと?」

 思わずカズヤが叫んだ。

「……そう、かな」

 そう言うと、優奈が小さく息を吐いた。

「コウジも?……そんな……優奈さんは、それで本当にいいの?」

 そう呟いたカズヤに、優奈は微笑んだ。

「冗談じゃないわ」

 沈黙を破るかのように杏子が呟いた。

 荒げた声では無いのに、その凛とした声は驚く程礼拝堂に響き渡る。

 全員の視線が杏子に集まる中で、優奈だけが振り返ることをしなかった。

 自分の発言が杏子の琴線に触れるとわかっていたからだ。

 必ず、止めに入る。

 それは誰のためでもなく、優奈を想って。

――杏子、ごめんね。

 優奈には杏子の想いが痛いほどわかっていた。

 だからこそ悩んだ。

 自分の想いが杏子をまた追い詰めるかもしれない。

 それでも――



 静かに流れていた礼拝堂の空気が揺れて、コツコツと響く足音が優奈に近づいていく。

 杏子は優奈の腕を取って振り向かせると、睨むような鋭い視線で優奈に声をかけた。

「私は嫌よ。コウジのために、なんでそこまでしなきゃいけないのよ!」

「……赦したく無ければ、赦さなくていい」

「そう言う問題じゃないでしょう?」

 杏子は優奈を見据えたまま小刻みに震えている。

 張りつめた空気を感じて全員が息を飲んだ。

「甘いにもほどがある。何度も言ったでしょう? 謝って赦されるの? これで無罪放免にしたら必ず後悔する。ここには他に女性もいるのよ? このまま無かったことにして、一緒になんて暮らせない」

「ごめんね、杏子」

「謝らないで。優奈が謝る必要はないわ。こんなこと、赦しちゃいけないのよ」

「まだ、赦すとは言ってない」

「同じだわ」

「同じじゃない」

 二人の間に沈黙が流れる。

 彼女たちの間にだけ流れる、無言の会話――

 優奈は小さく微笑んだ。それでも杏子から目を逸らさない。

 続けようとする杏子の言葉を遮るように、優奈はゆっくり首を振った。

「杏子。これは……譲れない」

「優奈……?」

「どうしても、譲れない」

 毅然として言い放つ優奈に、杏子が絶句する。

 優奈が杏子に一歩も譲らない。

 また沈黙が流れ、優奈と杏子の静かな視線だけが交錯していた。

 そこにいた全員が、呆然と成り行きを見守っている。


 なぜ?


 浮かび上がる疑問の中で、いつの間にか対峙するように向かい合う二人。




 それはこの島で二人を見てきた全員が、はじめて目にする光景だった。

















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Comment

今晩は~
優奈さんは

怖い人ですね

冷たいほどに硬い

揺るぐことない優しさ

こうゆう人は


怖いなあ

  • 2012/12/30 22:53
  • フラメンティ
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  • 2012/12/30 23:21
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  • 2012/12/30 23:22
一見赦しているように見えるけど、その場にいる他のみんなの冷たい視線の中いつも通りの生活を延々とするのはつらいからなあ。

日本といい韓国といい、極東諸国は特に、刑余者にはものすごく冷たいからなあ……。
一年間有り難うございました
YUKAさんこんにちは

ご無沙汰していますが『誓約の地』夢中で読んでいます。
早く更新されないかと毎日覗いています。

すごいなあ~
今回も呼吸を忘れて一気に読みました。
一年間、楽しい時間を有り難うございました。
よい年をお迎え下さい。
フラメンティさん
フラメンティさん、おはようございます♪
コメントありがとうございます^^

年を跨いだお返事になってしまい、申し訳ありません^^;;

そうなんです!
余りにも毅然とした優しさ――実は優奈はとても強くて頑固者。
あの杏子姐さんが、勝てないと思う人ですから(笑)

怖いほど頑ななもの。
フラメンティさんのコメントを読んで、男の人は女の人よりそう思うかもと思いました。
こういう人を愛して支えていくのは、やっぱり並では無理ですね(笑)

厳しさも秘めた優奈の優しさ。
決して甘くは無い、その強い想い。
優しくたおやかで従順な、儚い女の人ではないんです^^

そんなの優奈は、コウジを救うのか、追い詰めていくのか。
また見届けてくだされば嬉しいです^^
  • 2013/01/03 10:39
  • YUKA
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鍵コメNさん
鍵コメNさん、おはようございます♪
コメントありがとうございます。
お返事が年を跨いでしまって、申し訳ありません^^;;

おお!
冒頭でまさにお年玉のような、嬉しいご報告が~~~~~
ありがとうございます(*´∇`*)
寒さも厳しい季節、無理をしない程度に楽しんで頂けていたら、それが何よりですよ♪


優奈の決断、こう来ると思ってましたか^^ふふふ^^
そうですね。
男性と女性では、捉え方というか感じ方は違うと思います^^
それは受け身側と攻め側というか、その感覚も違うので。
それに、こういうネタは女性の中でも意見の割れるところだと思うのです。
優奈の真意はまだ明かされていませんが、明かされた後の優奈の優しさの中に秘める
杏子とはまた違う厳しさを感じるかもしれません。
むしろ、杏子の方が優しいのではないかと私すら思うほどです^^

杏子が勝てないと思う、優奈の厳しさ、厳格さ
その真っ直ぐで、あまりにも大き過ぎる優しさや視点は、
女性の持つ柔らかいものとは少し違うかもしれません。

杏子はまだ、気持ちを切り替えてはいません。
そこは今までの想いと、女性としての想いがあります。
ヒョヌも男性ですから、気持ちの切り替えが「優奈を守る」ということで置き換えられていくので。

以前修平が心配したように、杏子は少し感情に囚われてしまいます。
杏子だけでなく、こういう場合は誰しもがそうだと思いますが
杏子の感情の激しさは、優しさでもあるんですね^^

杏子と優奈の対立
それは同じように人を想う優しさからの出来ごとですが
その優しさの、思いやりの先が違うのです。

実はこの先、懺悔は長く長くなりまして^^;;
優奈の視線の先がどこにあるのかまだ少し先ですが
その視点はやっぱりどこか超然としていて、女性らしくは無い気もするのですが^^;
最後に何かが残ると、そうだったのかと思って貰えるように頑張ります^^

いつも優しい心遣いをありがとうございます♪
私も鍵コメさんと出会えたことが、交流を続けられたことが何よりうれしいことでした。

相変わらずの私ですが、今年もよろしくお願いします^^


  • 2013/01/03 10:39
  • YUKA
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ポール・ブリッツさん
ポール・ブリッツさん、おはようございます♪
コメントありがとうございます。
お返事が年を跨いで、申し訳ありません。

おお!さすがです。

>一見赦しているように見える

その通りです!!
これは決して「赦し」ではないです。
ある意味、ヒョヌヤ杏子の断罪より厳しいと私は思っています。

でもそこに、救いも見出したい。
私はそう考えています^^

  • 2013/01/03 10:40
  • YUKA
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金太郎さん
金太郎さん、おはようございます♪
おお!お久しぶりでございます!!

楽しみにしてくださっていたんですか><。
私のつたない小説を楽しんでくださる、これほど嬉しいことはありません。

呼吸を忘れて~~(笑)あはは。
無駄に長いので、息継ぎ必要ですよ~~(*´∇`*)

こちらこそ、一年間ありがとうございました^^
そして今年、春には「漂流編」が完結する予定です^^
3部作なので、その後は少しおいて「追憶編」が始まりますが
書きはじめてから、かれこれ1年半もかかってしまいました^^;;

それでもこの作品を通して色々な方と知り合えて、交流することができました。
本当に嬉しいことです^^

これからも楽しんで頂けるように頑張ります^^
よかったら、お時間のある時にお付合いください^^

なによりの嬉しい便りとなりました。
ありがとうございました^^

  • 2013/01/03 10:40
  • YUKA
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