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誓約の地/漂流編・125<懺悔(11)>



誓約の地/漂流編・125<懺悔(11)>




同じ人に 同じように恋をした


ただ それだけだったのに






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 ヒョヌは少し遠い目をしてコウジから視線を外し、窓から差し込む光を見つめる。

「確かに、相手には……して無かったな」


 静かに淡々と語るヒョヌのその言葉を聞いて、コウジはカッとなった。

 コウジに視線を戻し、ヒョヌはその感情を受け止めていく。

「弟みたいな感覚だった」

「……おと、うと?」

 コウジの問いかけに、ヒョヌはふっと力を抜いて笑った。

「変な言い方だけど、そんな感じだった。気が小さいくせに背伸びして無理してる、そんな弟」

「だから……相手にもならないって?」

 馬鹿にするな――そう小さく呟いたコウジに、ヒョヌが問いかける。

「相手にしてほしかったのか?」

 それはまるで「構ってほしかったのか?」と笑っているかのようだった。

 コウジの頬に赤味が差し、その眼に怒りに似た感情が宿っても、ヒョヌは視線を外さない。

「だったら初めから向かってこい」

 ヒョヌの冷静な声に、コウジはかえってむきになった。

「なんだよ、それ。自分は俺より上だとでも言いたいのか? 修平さんはライバルになり得ても、俺じゃ相手にもならないって?」

「僕は自分から修平にぶつかろうとしたことだって一度もない。でも修平はいつも本気だった。一歩も譲らないって全身で言ってたよ。だからこっちも本気で向き合った。絶対負けたくないと思ってた。でもどこかで……もし優奈が修平を選んだらその時は仕方がないと、その時はどこかで思ってた。

そのぐらい修平の気持ちが伝わったからだ。本気の相手に本気で向き合うのは当り前のことだろう? これだけ一緒に暮していれば、言葉が通じなくても色々感じるもんだ。でもコウジ、お前は違う。お前は本気でぶつかってはこなかっただろう? 僕にも……優奈にもだ。

優奈を本気で好きだったなら、本気でぶつかるべきだった。僕を殺したいほど憎かったなら、僕に向かってくればよかったんだ。……お前は怖かったんだろう? はじめから逃げてたんだ。無理だって諦めて、敵わないって認めてた。それならけじめをつければよかったものを、それも出来ずにいた。

お前が卑怯なのはそういうところだ。それさえも認められないくせに、自分が終わらせられなかったから、終わりにしようと思ったのか? 優奈まで、優奈の人生まで終わりにするつもりだったのか? 冗談じゃない。そんなことは絶対許さない」

 コウジはヒョヌの言葉を黙って聞いていた。

 ただ彼の奥歯だけが軋んで、微かな音をたてていた。

「お前は一生懸命だった。最初は。それは見ていてわかってたよ。僕もずっと優奈を見てたから。もちろん応援なんて真似はできないが、それでも優奈を支えようとする気持ちに嘘はなかったと思ってる。それなのに……なぜ傷つけた? あんなに優しい人をなぜ追い詰めるようなことをした? 人のせいにするな。誰のせいでもなく、自分自身の問題だろう? 赦されるなんて思うな。それでもきちんと向き合って頭を下げる。お前はまず、そこからだ」

 その時、コウジが静かに口を開いた。

「そんなこと……わかってる」

 そんなコウジを見ながら、ヒョヌは静かに語った。

「僕らにじゃない。優奈に謝れ。謝って赦されるなんて思ってないんだろう? 当然だ。謝るのは赦して貰う為じゃない。自分の罪を認めるためだ。どんなこと言ってもお前がしたことは優奈を傷つけた。その事実は変わらない。お前がもし……もしもあの時、我を忘れておかしくなっていたんだとしても、僕は赦してはやれない。でも、お前はきちんとその罪と向き合え」

 その言葉を受けて、コウジの身体が震えた。

「だったら、終わらせるなんて言うなよ」


 終わらせたいと思ったのは自分だった。

 でも出来なかった。

 何もなかったようにただ諦めて、打ち捨てられた自分の想いを見ていることに耐えられなかった。

 何もかも――全てを捨ててしまわなければならないなら、いっそのこと全て壊してしまいたい。

 ここでの生活も、みんなとの関係も、彼女さえも――。




――終わらせるのは、あんたじゃないだろう?

 言外にそう告げるコウジの視線を受け止めて、ヒョヌは口の端を歪めた。

「今の僕には、それぐらいしかしてやれない」

 そう寂しそうに告げる。

「悩んだよ。お前を憎む気持ちはすぐに捨てられるもんじゃない」

 無表情のまま見下ろすヒョヌを振り仰ぎ、コウジは口を開いた。

「だったら――」

「ダメなんだよ」

「――――?」

「それじゃあ、ダメなんだ」

 眉間にしわを寄せて見上げているコウジから視線を外し、ヒョヌは薄く笑った。


「いい人だったでしょう?」

「…………?」

「優奈は、お前のことをそう言った。お前にあんな目にあわされて、目覚めた後に」

 自重気味に唇を歪めるヒョヌは、もうコウジを見ていない。


『あんな目を、させたかったわけじゃないの』


 言葉を詰まらせながら、静かに訴えた優奈の声を思い出していた。

 自分と同じように苦しんでいた杏子を励ます、その声を思い出していた。


『コウジくんと、同じ目――』


 一番苦しんでいるのは、自分ではない。



「僕がお前を憎んでいると優奈が泣くんだ。自分のせいで僕が傷ついてると心配して、僕の感情があの日を思い出させる。それは、それだけは嫌なんだ。優奈を守ると誓った。彼女が傷つかないように、泣かないように、あの笑顔を失わないように。僕の傍で優奈が安心して休めるように。これから先もずっと、どんなことがあっても」

 ヒョヌはそう言って、ただ静かにコウジを見つめていた。


 悪夢のような一夜を、優奈も忘れることはないだろう。

 これから続く日々にも、悩み、もがくことが待っているかもしれない。

 だからこそ同じように模索したとしても、自分はそれを支えてやる側の人間でありたい。

 そうでなければならなかった。


「だから……優奈に向き合うために、怒りで心を満たすのは今日で終わりにする、そう決めた」

 どんなときも優奈と共に在ること――それは誰にも譲れない。譲る気もない。

 どんな時も傍に寄り添い、彼女を支え、あの笑顔を守ってやりたい。

 男としても、人としても。

 そうであり続けたいと思う。



「……優奈のために」



 最後に放ったヒョヌの言葉が、コウジにゆっくりと突き刺さった。














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Comment

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  • 2012/12/16 22:53
鍵コメCさん
鍵コメCさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

おお!弟扱い、感じてくださいましたか!^^良かったです。
この時のヒョヌの想いは、コウジがこんな事件を起こす前のものですね。
コウジはヒョヌをある時から敵視してましたが、ヒョヌはヒョヌなりに可愛がっていたんです。
優奈のことを好きだと気付いた時点で少し距離を置きましたが
それも全て、コウジを想ってだったんです。
その想いを裏切られた――そんな風にも感じてしまったのだと。


>優奈とヒョヌの心の在り方が似てる。。

わぁ~~~そう言って頂けて嬉しいです><。
そうなんです。自分自身の想いはあっても自分の大事な人のために心を砕こうとする、
そんな根本的な優しさの「しめし方」が似てるんですね。

私はある法則というか、ある思いを込めて2人を似せているんです^^
そして、杏子と修平も^^
それはまだ明かすのは先になりますが、なぜ似ている必要があるのかは……いずれ^^
あ、たいしたことはないんですけどね(笑)


>僕の感情があの日を思い出させる。


そうなんですよね。
人はどうしても自分を中心に物事を考えます。
それは当り前で悪いことではないのですが、そこに人を巻き込んだ時は何かの岐路に立つ気がします。

コウジは自分に負けてしまったんですね。
優奈への欲望を表した時点で、そこにあるのはもう「愛」ですらなかったのかもしれません。
かつて、修平もかなり苦しんだように。

そしてヒョヌは、いつも最後のところで踏みとどまります。
それは無意識に。
その無意識さが、彼の資質だと思うんですね。
根っからの人の良さというか、善人というか(笑)


コウジの心の声――
こんなことをしでかさなければ、もっと聞くことができたかもしれません。
でも全てを台無しにしてしまった――コウジ自身が、です。

色々な理屈をつけて思いを吐露しても、そこに投げやりな想いや保身が見える――
だからこそ、逃げてはいけないような気がするんです。

そうそう。
ヒョヌは、コウジのしなければならないことを諭しているんですね。
この期に及んで誰かに向かって言い訳するのではなく。


そして!!

>「優奈のために」

コウジが独りよがりに「自分のため」に動いた事との対比。
まさにその通りです(笑)
根本的な愛し方、相手を想う気持ちの違い、そして人としての違いまで相手に突き付けていますね。

互いが互いを必要とし、互いを想って動く――
だからこそ、修平はコウジに渇を入れたんです!^^

その言葉の意味をコウジが理解するまで、もう少しかかるかもしれません。
なんせ次話ではまた、コウジは悪あがきを^^;;
私も書いていて「コウジ、往生際が悪いよ!」と叫びたくなりました(笑)


いつも優しい言葉をありがとうございます><。
体調はだいぶ持ち直しました^^……ホッとしてます(笑)

<懺悔>はまだ後数話続きます。
紆余曲折する彼らの中に、どんな光が差すのか。。。

当然、そのきっかけは雲隠れしたままの主役(笑)・・・・・だといいな(ぉぃ!)

その前に、まだ色々ありますよ~~杏子姐さんも沈黙したままですし(笑)

さ、どうするか考えねば(ぇ?
次話はクリスマス短編にするか、本編更新にするかいまだに迷っちょります(〃'∇'〃)ゝエヘヘ

1つクリスマスらしからぬどんよりした話が1本あるのですが
クリスマスにこれはどうなの~~とか、思ったりして(笑)


読んでくださって本当にありがとうございます!^^
次話も頑張りますね~~♪
鍵コメさんもお体にはくれぐれも気をつけて(*´∇`*)


  • 2012/12/17 22:38
  • YUKA
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ヒョヌさん容赦ないなあ。

ここまでいわれてしまったら、ほんとに喉を切って死ぬしかないでありますコウジくん。

……と、思ってしまうんですけどそれはわたしが男性だからでしょうか(汗)
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  • 2012/12/19 19:06
ポール・ブリッツさん
ポール・ブリッツさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

ま、ヒョヌさん怒ってますからね(笑)
でも私もそう思います^^;;

あ、コウジくん。。。次回反撃しますよ~~ちょっと。
でも返り打ちに合いますけど(汗)

  • 2012/12/20 21:51
  • YUKA
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鍵コメNさん
鍵コメNさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪


いえいえ~~いつでもお気に召すままでございますよ~^^
最近皆さんお忙しいみたいで^^
コメントを頂けるだけで、本当に嬉しいです。
いつも丁寧なコメントを、本当にありがとうございます!!!


そうなんですよね。
ヒョヌは今までも決してコウジを馬鹿にしたことはなかったんです。
それどころか、誰に対しても馬鹿にしたりすることはなかったんですね。
だからこそ彼の地位というか、立場というのは、生活していくに従って向上していきました。

鍵コメさんの言う通り、たとえコウジがきちんと向き合って、堂々と戦ったとして
今のコウジと違う気持ちでいれたのかどうか。。。
そもそも、それができる人なら、こんなことにはなっていなかったのではないか。。。
コウジの女々しさ、卑屈さがあったからこそ、こういう凶行に及んだんですよね。


>謝るのは赦して貰う為じゃない。自分の罪を認めるためだ

ここに注目してくださって、ありがとう。
私も謝って赦して貰おうとする小心者です^^;;
心のどこかで、必ず考えますよね。
争う前に謝って丸く収めようとか、謝ったんだからいいんじゃない?みたいな感情は。
誰しもが多かれ少なかれ、謝る時はそう考えるのではないかと思うんですよ^^

でも、この件は謝ってすむのか? という想いが残ってしまうんです。
何でも謝ればいいってもんじゃないって。
ヒョヌが言う「謝る」というのは口先だけの謝罪では無く、自分の行いを悔い改めるために
まず自分のしたことをしっかり認識するってことなんですね。

凶行も、黙しているのも、食べなかったのも――
全ては現実から目を背けたいと思うコウジの心によるもので
そのままでは、例え優奈に謝ったとしても、赦されるものではないと思います。

でもコウジのこの虚勢は、彼の心を守る防御でもある。。。みたいな。
罪の意識は感じていて、むしろ感じ過ぎていて、
そのことに目を向けると本当に壊れてしまいそうな自分自身に対しての。

憎い、嫌だ、嫌い――
激しい嫌悪や憎悪の感情の方が、絶対に対処しやすかったと思います。
それはわかりやすいから。
優奈の優しさは、今まで人を癒したり励ましたりしてきました。
でも今は――
彼女がどう思うのか、どうするのかで、みんなの心に波紋を投げかけます。
人の考えは決して1つではなく、色々な方向から見る人がいるから議論が生まれ
そこで話し合うからこそ、納得する答えが出るのではないかと思うんです。
一つの考えに流れると(時に激しい感情はひとつに方向性を作ってしまいますが)
それはすでに考えや意見では無く、独裁的な思想に繋がる気がしてね~~

悩んだり苦しんだり、そう言うことを通して
模索して答えを出すべきではないのかな、と思ったり^^

ヒョヌに対する感情とはまた違った感情をコウジは持っています。
少なくとも、彼は優奈を愛していたと思っているのですから、当り前ですね。
優奈はコウジとどう向き合うのか
コウジは優奈とどう向き合うのか。
それを見た周りはどう思うのか。

でも実は、次話でコウジは少しヒョヌに反撃します(笑)
いや~~~~~~~~なヤツです(笑)
ま、返り打ちに合うと思うのですが^^;;
忘れていたことを、蒸し返します(笑)
コウジお前~~~~~~と、叫んでください(笑)



風邪はだいぶ良くなりました^^
本当にご心配いただいて、ありがとうございました^^
鍵コメさんもくれぐれも気をつけてくださいね~~~
流行ってますから、急性胃腸炎もインフルエンザも^^;;

  • 2012/12/20 22:14
  • YUKA
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