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誓約の地/漂流編・116<懺悔(2)>




誓約の地/漂流編・116<懺悔(2)>




教会の廊下を杏子が駆けていく

息を切らして開けたドアの先で 彼女は安堵した。



それは 待ち望んでいた夜明け

登りはじめた小さな光は 闇を払うことができるのか?





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 暫くすると、優奈の耳に廊下を駆けてくる足音が聞こえた。

 カチャリと音がして、杏子が入ってくる。

 優奈の顔を見ると驚きに目を見張り、足早にベッドのそばに駆け寄った。

「優奈」

「杏子」

「良かった」

 杏子の口から、ため息のような安堵の声が漏れる。

 杏子がどれほど心配していたか、そしてどれだけ喜んでくれているのかを優奈は感じていた。

「心配掛けてごめんね」

「ホントよ! でも良かったわ。ヒョヌさんもすごく心配したのよ」

 うん――そう言って頷くと、優奈は窓へと視線を流した。

 窓から眺める景色は眩しいほど光が踊っていて、少し湿気を含んだ風が流れ込んでくる。




「――あ」

 そう呟いた優奈の視線を追うと、窓の外にカズヤの姿が見えた。

「カズヤ。あんた……何してるの!」

 杏子が綺麗な眉を片方だけ器用に釣り上げた。

「だって、杏子さんが医務室に入っちゃダメだって言うからさ」

「それは……優奈が疲れるからってことでしょう? これじゃあ意味がないじゃない」

 杏子の意図はそれだけではなかった。

 ヒョヌから目が覚めたと報告を受けた時、喜ぶみんなの顔を見て咄嗟に傍に寄ることを制止した。

 森の奥深く――誰も助けに来ないその場所で襲われる。

 その恐怖は計り知れない。

 あれから数日が経過していて、あの日の全員の憤りも恐怖も動揺も少し落ち着いてはいた。

 しかし優奈はその間、目を覚まさなかったのだ。

 生死をさまよう一夜が明けて目覚めたばかりの優奈は、あの日から時間が止まっているかもしれない。

 そうだとすれば、恋人であるヒョヌはともかく他の男性陣が近づくのを怖がるかもしれない。

 一刻も早く駆け付けたい一心で、杏子は来るなと言い放っただけで詳しくは説明しなかった。

「あんたはホント、救い難いわ」

 そう言ってカズヤを睨みつける。

 その視線の鋭さに動揺したカズヤは、両手をあげて窓枠から一歩後退した。

「わ、わかってますよ! 少しだけですって!」

 言い訳するカズヤから視線を落とすと、小さく微笑む優奈を見つけた。

 怯えている様子はなかった。そのことに少しほっとする。

「 ――っていうか、お前らズルいぞ!」

 そう叫んだカズヤの視線の先を追うと、ちゃっかりドアから中を覗いているエリとリョウコを見つけた。

「全く――」

 そう言って肩をすくめる杏子に頬笑みながら、優奈は2人の名前を呟いた。

「心配かけてごめんね」

 その言葉に、エリとリョウコは大きく首を横に振った。

「そんなことはいいんです。優奈さん。本当によかった」

「気がついたんですね」

「……こっちの2人も、人の話を全く聞いてないわね」

「私たちも心配したんです!」

「わかってるわよ」

 そう言う問題じゃない。

 病み上がりの体は、思っている以上に体力が落ちている。

 人と会い、会話を交わす――

 言葉を発すること、理解すること、相手を気遣うこと。

 普段何気なくしているそんなことが、病人にはかなりの負担になるのだ。

 医師である杏子は、それをよく知っている。

 特に優奈のようなタイプは、無意識に自分を制してしまう。

 だがここで説明する気にはなれなかった。

 そんな話を今優奈の耳に入れるのは、それこそ馬鹿げているからだ。

 そしてなにより、みんなの顔を見つめる優奈の表情が穏やかだった。

「まぁまぁ、そう怒るなよ」

 修平はヒョヌと連れだって様子を見に来た。

――ブルータス、お前もか。

 なぜかそんなフレーズが頭をよぎる。

 医師であるということを盾にして全員を追い出しても良かったが、優奈の前での言い争いは極力避けたい。

 とにかく今は目覚めたばかりなのだから。

 結局杏子は肩をすくめただけで、知らん顔を決め込んだ。

「優奈。良かったな」

「ありがとう。心配かけてごめんね」

「気にすんな。……ホント良かったなぁ」

 しみじみ言う修平に優奈が苦笑する。

「やぁね。じじくさいわよ?」

 まだ顔に怒気を含んだままの杏子を修平は恨めしげに見つめ、ため息をついて優奈に愚痴る。

「涼しい顔してよく言うよなぁ。凄かったんだぞ?」

 杏子とヒョヌは一瞬ぎょっとした。修平が何を言い出すのかと思ったからだ。

「この2人はもうウロウロおろおろ、腹をすかせたクマとライオンが睨みあってるみたいだったんだから」

「誰が熊だ!」

「ライオンって何よ!」

「……ほらな?」

 わかってるんじゃねぇか、そう言って肩をすくめる修平に優奈が笑った。




 以前と変わらない笑顔――

 それは全員がもう一度見たいと切望していた、柔らかい笑顔だった。


















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Comment

今晩は~
続き読めてよかったです^^
  • 2012/10/07 22:38
  • フラメンティ
  • URL
フラメンティさん
フラメンティーさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

あは^^
私もムリかと思いました(笑)
細菌更新が綱渡りで^^;;

来週からなんとか時間がとれそうです^^


  • 2012/10/08 00:09
  • YUKA
  • URL
  • Edit
こんばんはっYUKAさん(*´∀`*)♪
誓約の地、続編(゚∀゚)キタコレ!!ヒャッホー♪
目覚めた優奈さん、そしてずうっと見守ってきた杏子さんとのようやくの再開を果たせて何よりです・・・・っ(/_;)

>「優奈」

>「杏子」

>「良かった」

この短い字数で簡潔に完璧に、二人の関係を表せていてびっくり凄い!!といい意味で鳥肌が立ちましたですお///
杏子さんにとって優奈さんがどれだけ大事で特別な相手なのか、二人の短い会話越しに表情まで見えてくるような名場面ですねっ(*´Д`)!!

そして集まるギャラリー(笑)!!
ひょっこりやってきたようで隠れきれてない、というかバレバレなカズヤが笑いを誘います~('∀`)ノ☆
そしてわらわらと皆さんお揃いで・・・(笑)
ブルータス、お前もか。
に盛大に吹き出しました(笑)
今までがシリアスモードだったため、久しぶりにコメディタッチな皆の姿にほのぼのしつつ、優奈さんの目覚めが嬉しくてたまらない描写に(゚д゚)(。_。)(゚д゚)(。_。) ウンウン!と共感ですっ(*´Д`)
コメディの中にも杏子さんと修平さんの他とは違う親密さが見えていますねッ♪
優奈さんが失踪してからといものずうっと気を張っていたであろう杏子さんの心をほぐすのは、やっぱり修平さんの役目なんだと、ナチュラルに気づきます☆

ようやく光が戻り始めた島の中、コウジは一体どう出るのか・・・

次回も楽しみに待ってます~~(*´σー`)エヘヘ♪
なによしさん
なによしさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

読んで頂けて幸せです^^

おお!そうなのです!
この短い呼び名の中には万感の想いがこもっているのです><。
やっと呼びかけにこたえてくれた相手。
それがどんなに嬉しくて心からホッとしているか。。。


なのに私ってば、ノリノリでカズヤいじりをば(笑)
だってですね~~
やっぱりみんな心配していたし、喜ぶと想って~~(〃'∇'〃)ゝエヘヘ

本当はここ、なかったんです(笑)
書き始めたら止まらなくなってwww
実はこういう、主線でない悪乗りが好きなんですね~~私(*´∇`*)


そう!極めつけの「ブルータス、お前もか」(笑)
悪乗りに極み(笑)

>優奈さんの目覚めが嬉しくてたまらない描写に(゚д゚)(。_。)(゚д゚)(。_。) ウンウン!と共感ですっ(*´Д`)

そうそう、そうなんです^^
断罪がかなりシリアスで終わっているので、ちょっと落差を出したかったのです^^
やっぱり、優奈が生還して目覚めて、嬉しそうなみんなが書きたかったというか^^

そしてもう一つ、明るく騒いで優奈を励まそうという
彼らなりの想いやりでもあるんです^^
辛く苦しかったのは、優奈ですから。
だから優奈が楽しそうに笑うことで、みんなホッとしたのだと思います^^
これもまた、どちらが励まされているのかわからない構図ですね~^^

修平はもろもろわかっていて確信的に^^
カズヤの無意識な暴走とはわけが違います(笑)
あの杏子姐さんが選ぶのですから、ありふれた普通の男であるはずがない!
という信念の元に彼を描いております(笑)

そうそう。
コウジをどうするかという難題がまだまだ先に待っています。
優奈がどうするのか
それをヒョヌと杏子はどう受け止めるのか。

ここはもう、はじめの時から出来上がっているのですが
私のつたない文章力、描写力で伝わるかどうかが問題^^;;

懺悔――
誰が誰に、何に懺悔するのか、またしているのか。
断定することではないのですが、全体を通してそれが色々な意味での懺悔に繋がるよう
頑張ってみたいと思います^^

<懺悔>は<断罪>より少し長くなる予定で、月末には「花魁」を挟みますが、
また読んで頂けると嬉しいです^^


  • 2012/10/09 22:14
  • YUKA
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