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誓約の地/漂流編・113<断罪(3)>


誓約の地/漂流編・113<断罪(3)>


傷だらけの優奈を見ていた杏子は、何を感じ取ったのか。

口を閉ざしていた、杏子の断罪が始まる――






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 その声に弾かれたように全員が祭壇の方へ振り向く。

 そこに杏子がいた。


「優奈はそんな女じゃない」

 見る者の背筋を寒くさせるような美しい顔には、冷たい微笑を浮かべている。

 瞳の奥に壮絶な怒りを放ち、まるで目の前の獲物を狩る猛獣のように爛々と輝いていた。

「それはここにいる誰よりも私が知っているわ」



 その時、リョウコとエリは救いを求めるような眼で杏子を見た。

 しかしその姿を目にした途端、無意識に身体がぶるっと震える。

 彼女たちには、杏子の周りを青白い炎が立ち登っているように見えた。

「ああ見えて頑固だからね。自分に背くようなことはしない」

 杏子は絶対に視線を外さないようにして、コウジに近づいていく。

「あの子は、好きな男がいるのに他の男に抱かれるほど器用じゃない」

 杏子の全身から立ち上る殺気に満ちたオーラを感じて、全員が無意識に後ずさった。

 言い争っていたヒョヌと修平でさえ、無言のまま道を譲る。

「あの子が自分の意思を曲げてでも意に染まない事をする時は……本当に大切にしている人のためだけよ」

「彼女は理解してくれたんだ。俺の愛を。だから俺を受け入れようと……」

 コウジの声は震えていた。

 次の言葉が喉の奥で絡んで出てこない。

 俯いたままの彼の表情は誰にもわからなかったが、そんなコウジを杏子は冷めた目で見降ろしていた。

 彼女の形のいい唇の端が徐々に持ち上がり、奇妙に歪められていく。

 それは微笑と呼ぶものに違いなかったが、頬笑みと呼ぶにはふさわしくない。

 嘲りと侮蔑が彼女の口の端を持ち上げている――そんな感じだ。

 真冬の湖のような厳しい冷たさを湛えた瞳がきらりと光り、その瞳はコウジから逸らさない。

 杏子から発せられる言葉を待ち、全員が息をのんで見つめている。



「あなた、ヒョヌさんを使ったわね?」

 杏子の問いかけに、目を背けていたコウジの身体が微かに揺れた。

「自分の言う事を聞かないと彼を殺すとでも言ったんでしょう? 殺さなくても深手を与えれば命取りよ。ここに手術設備はないから。自分に一度抱かれるか、彼を殺されるか……優奈に選ばせたわね?」

 その時、礼拝堂の中から物音が消えていった。

 生きものの気配を消したかのように、身じろぐ人間は一人もいない。

 空気が流れる気配でさえ感じられない。

 窓から見える夕暮れが全てを紅く染め上げ、木々が礼拝堂の中まで影を落としている。

 いつもなら吹く風に大きく揺れている木々も凪ぎ、その影さえも時を止めていた。


 ピンと張りつめた恐ろしいほどの静寂の中で、一番早く口を開いたのは修平だった。

「……優奈の意識が戻ったのか?」

 問いかける修平に、杏子は静かに首を振った。

「完全にはまだ。でも時々うなされてるわ。うわ言のようにヒョヌさんを心配してる」

 小さく呟くような杏子の声が、礼拝堂に響いていた。

「それをずっと聞いててね、わかったのよ。コウジに何を言われ、何をさせられようとしていたか」

 ヒョヌは目を大きく見開いたまま、暫く杏子を見つめていた。

 彼女が何を言っているか咄嗟に理解できなかったのだ。

 思案するヒョヌの瞳が揺れる。

 茫然としたまま、ヒョヌは独り言のように呟いた。



「……僕を庇った……?」




















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  • 2012/09/12 20:56
鍵コメCさん

鍵コメCさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

鍵コメさんの前おきのコメントは、ブロともメールで送りますね^^

杏子の怒り、感じてくださいましたか!嬉しいです^^
そうなのです。
ヒョヌの怒りが、目の前を真っ赤に染め上げるような怒りだとすると
杏子のそれは青白い炎のような感じです!
爆発するようなものではなく、ふつふつと沸き上がるような感じでしょうか^^
冷笑、嘲笑――
コウジを蔑むような怒り。
それは彼の行為に対するものではありますが、それ以上にそれを「優奈へ向けたこと」に対してです。

杏子のそれとコウジの行いは、一見関係がないのですが
彼のやった行為に対する嫌悪感は、杏子が自分自身に感じている嫌悪感に繋がっているんです。
そしてまた杏子は、こういう事態に優奈が取る行動と思考が誰よりもわかっている――
そんな感じです。


お、そして!!
「救ってほしい」
憶えていてくださいましたか!!!!!

あえて何を――と書かなかったのですが、さすが鍵コメさん!!
そこに込めた「何か」を感じ取ってくださっているのですね><。
作者である私の伏線のような意図を!^^

鍵コメさんはいつもそうして気付いてくださり、嬉しくて本当にビックリします^^
有り難い読者様でございます――!!><。

コウジの想いを一旦は飲み込もうとした優奈も
やはり杏子と同じ、彼女の最大の後悔ともいえる出来ごとと繋がっています。
優奈が救いたいと思っているもの。
鍵コメさんのおっしゃる通り、色々な意味を含んでいます^^
漂流編だけでなく、その先を読んで頂くことで色々解明できる……はず(笑)

実は追憶編は数話で終わるお話だったのですが、構想を練り直し…
もう少し(?)、案の定(?)長くなる予定です(笑)

そして、情景描写!
ありがとうございます!!
ここは「無音」にちょっと拘ったところです^^
短い文章でこういう描写を書くのは難しく、毎回試行錯誤なんですが
後で読み返すと、なんであんなに悩んだんだ???というほどの文章だったりするのですが^^;;

誓約の地には時刻が出てきません。
情景の移り変わりで「時」の流れや時間帯を書くことが多いのですが
情景描写は心情も込めたいと思っているので、ホント難しいです(笑)

杏子の推測は、ヒョヌにとって考えたくないものですね。
守れなかったという罪悪感と無力感に憤ってもいるのに
実は自分を庇ったからこそのことだったとは。
そしてこの出来事は、ヒョヌのこれから先――
「守る」という庇護欲的本能に強く残ります。

仕方がないのですが、私はヒョヌを追い詰めているようで^^;;
浮かれるとたたき落とし、楽しい後には絶望感(爆)
もう完全に気のせいではないんですが~~~~
きっと4人の裏話的座談会が開催されたら、確実に私は吊るし上げを喰らうでしょう(笑)

コウジを嫌わないでくださるのは嬉しいです^^
彼は加害者ですが、それはもう崩しようがないのですが、同時に被害者でもあると思ってます。
ある方は、彼が一番「人間らしい」と評してくださいました。
私もそう思っています。

こちらこそ、お忙しい中でこのつたない小説を
大事に丁寧に読んで頂き、いつも本当に感謝しています^^






  • 2012/09/13 23:02
  • YUKA
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  • 2012/09/14 05:23
音を立ててはいけない様な
緊張した空気が伝わって来ます。
息すらも出来ない様な
杏子様の怒りがその空間に伝わってる。
今この瞬間を支配しているのは間違いなく杏子様。
美しさの中には想像も出来ないくらいの激しい怒りがあるのですね、杏子様。
怒りでしょうか?それとも後悔なのでしょうか?
きっコウジだけに対しての怒りだけではない様な気もします。
どうか自分を責めないでくださいませ、杏子様。


〜チョコの別の視点・メイドの目〜
美し過ぎて終始悶えっぱなしでした。
はぁぁぁぁ〜♡杏子様ぁぁぁぁ〜♡
みたいな感じで別の目で見ていたチョコがいます(汗)
もう腰砕けですな!
チョコはなんて美しい女王様にお使え出来たんでしょう!!
今回はチョコ得の会だったと思います( ´ ▽ ` )ノ


いやいや、お怒りの杏子様がいらっしゃるというのに
傍で腰砕けで悶えててメイドが務まりますか!!
もっと精神を強くしないとメイド失格だわ…(>人<;)
  • 2012/09/16 11:35
  • チョコ
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鍵コメGさん
鍵コメGさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪
そして、お返事が遅くなりました。すみません^^;;

そうですね。
杏子の内なる怒り――
淡々とそして冷静に追い詰めていくような描写を目指したのですが
その感じが出ていますでしょうか?^^
ありがとうございます♪

鍵コメさんのおっしゃる通り、ここでコウジにはヒョヌのように怒りをぶつけても
肉体的には痛めつけることができますが、彼の心にはなかなか届かないかもしれません。
杏子はコウジの苦手な相手でもありました。
彼女の存在自体がニガテ。
これは生理的なものですね^^;;
彼はプライドが高く、勝気な女性が非常にニガテなのです。

実はコウジは、あの出来事以来みんなとまともに目を合わせることができていません。
それは彼の中に、何かが生まれているからですね。
ただそれを認めてしまうと、自分がそれこそ壊れてしまう――
そのことを本能的に恐れているのです。
それが体の震えになったり、暴言に変わったり。
自己防衛の1つなんです。

ただ、彼のしたことに怒りを感じている全員には、それを汲み取る余裕はありません。
修平が言ったように、それを優奈がどう断罪するのか――
彼の本当の断罪は、そこで下ると思ってます。
彼がどんな沙汰を受けるのか、彼がそれをどう受け止めるのか。
もう少し待っていてください^^

そして!
練習~~~^^もしかして本番で披露ですか?^^
すっごく素敵です♪
何だか私までワクワクドキドキしてきました――!!^^

仕事はボチボチです。
いいこともあれば、ん~~~~ということもありますが
少しずつでも頑張ろうと思います^^

私も暑いのと寒いのが苦手で^^;;
秋は私の季節~~~♪と勝手に決めています^^

鍵コメさんも、どうか体調に気をつけてくださいね^^
週末が終わってホッとして、体調を崩しませんように♪

  • 2012/09/16 21:36
  • YUKA
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チョコさん
チョコさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

>音を立ててはいけない様な
>緊張した空気が伝わって来ます。

おお!何と言うか、本当に嬉しいです!!
そうなんです。
ここは杏子の青白く燃えるような怒り、そして冷たいまでの嘲笑――
そんな事を考えて書いていました。

>今この瞬間を支配しているのは間違いなく杏子様。

そうなんです!そうなんです!
杏子の怒りは、その場の空気まで止めてしまったかのような
息をするのさえ躊躇ってしまうような、そのぐらいの迫力です。

普段の杏子は本当の感情を表には出しません。
激しく見えても、実はいつも計算し、余裕があるんですね。
それは彼女が持っている、その勘の良さに繋がります。
勘が鋭いだけに、予測も対処も出来る――
そのぐらい頭も度胸も良く、冷静な女性です。

その彼女がとり乱すほどのこと。それは杏子の過去に繋がります。

>怒りでしょうか?それとも後悔なのでしょうか?

さすが、チョコさん!!^^
そうなのです。
彼女は確かに怒っています。
しかしそれは、コウジに対してとともに自分自身に対してでもあるのです。

彼女の最大の禁忌と後悔の過去。
それに縛られている杏子は、コウジの罪でフラッシュバックしたようになりました。
取り返しのつかないことになるのではないか――
それが彼女から冷静さを奪ったんです。
これは「追憶編」で書かせて頂こうと思うので、待っていてくださいね!!^^

そしてチョコさん目線♪
楽しくて悶えちゃいました~~^^
チョコさんのメイドバージョンのお話。
実はどんどん妄想が膨らんでるんです^^
杏子姐さんとみっちり絡んだお話にします♪

早くお礼短編も再開したいのですが、本編が一区切りしないとですね^^;;
花魁もこれから少しずつUPします^^
必ず完結させますので、こちらものんびり待っていてくださると嬉しいです♪

ええ~~失格なんて事ないですよ♪
メイド・チョコさんは、杏子姐さんのお気に入りになるんです!^^
早く書きたくてうずうずします(笑)


  • 2012/09/16 21:51
  • YUKA
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すごい迫力あるシーンが続きますね!
思わず引き込まれました。
コウジの振りまく異様な空気と、ヒョヌさんの怒り。
そのようすを見ている女の子たちの恐怖と不安。
そして、ひどい怪我を負いながらも変わらず美しい印象の優奈。
非常なコントラストを感じます。

修平もだけど、杏子姐さんも、かっこいい!
た、頼もしいなあ・・・
  • 2012/10/12 17:58
  • 西幻響子
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西幻響子さん
西幻響子さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

わぁ~!
西幻さんに迫力があるなんて言って頂けると嬉しくて舞い上がりそうです^^
先ほど、銀次の乱闘シーンを読んだばかりで
スゲー!銀次カッコいい~~と思っていたので^^

>思わず引き込まれました。

ありがとうございます!ヾ(*ΦωΦ)ノ ヒャッホゥ

ヒョヌさんは韓国人なので(?)実はかなり感情の起伏がある方です(笑)
理性で抑えているのですが、激昂すると手がつけられない?^^;
そういう意味では修平の方が理性的……でもないな。
先に酔っぱらった友人がいると酔えないっていうのと同じ感じです(違うか(笑))

素敵な感じで形容して頂けて嬉しいです><。
杏子姐さんはカッコいいですね~~
強気で勝気^^
ホント、頼もしい姐さんです(笑)

対照的に優奈が穏やかなので、杏子姐さんが色々語りますね^^
優奈は理想、杏子が語り部的な感じがどうしても多いです。
役割のせいなのですが^^

もう、最新話に追いついちゃいますね^^
読んで頂けたら嬉しいです^^
ありがとうございました~♪


  • 2012/10/12 23:08
  • YUKA
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