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誓約の地/漂流編・111<断罪(1)>

誓約の地/漂流編・111<断罪(1)>


連載再開



コウジ向けて 

自分に向けて 

押さえていたヒョヌの怒りが爆発する―― 






================================================




「ふざけるな!」

 ヒョヌはコウジを何度も何度も殴った。

 普段優しく微笑んでいるヒョヌの姿はそこにはない。

 コウジの胸ぐらを掴み、きき腕で殴りつける。

 その拍子にコウジが後ろへ飛ぶように倒れこんだ。

 咳込むコウジを強引に引き上げ、今度は膝で蹴り上げる。

 うっと呻いて倒れ込んだ後も、まるで人形のように殴られるままコウジは抵抗しなかった。

 その場にいたリョウコとエリの短い悲鳴が上がる。

 しかし、怒りで我を忘れたかのようなヒョヌの暴行を誰も止めることが出来ない。


 ヒョヌの怒りが伝染していく――

 全員が息を飲んでその光景を見詰めたまま、ただ茫然と2人を取り囲んでいた。



「その辺にしとけよ」

 暫くして、それを止めに入ったのは修平だった。

「離せ!」

「いい加減にしろ。もう充分だ。それ以上やったら死ぬぞ」

 修平はヒョヌとコウジの間に身体を入れるようにして2人を引き離した。

 そしてヒョヌの身体を抱えるようにして、その暴行を止める。

「軍隊と格闘経験のある男が、一般人を殴るんじゃねぇよ」

 揶揄するような口調はいつもと変わらない。

 しかし怒りの矛先を遮られたヒョヌは、修平の胸ぐらを掴んで叫んだ。

「優奈は死ぬ目にあったんだぞ? こいつの……薄汚い欲望のせいで!」

「わかってる。いっそ殺してやりたいぐらいなんだろう?」

 修平の落ち着いた声に、ヒョヌは一瞬押し黙った。

 暗い目をしたまま、修平に向き直る。

「集団で暮らすってことは、ルールを作らなきゃならない。そしてそれを守るべきだ」

「そうだな」

「優奈は今まで僕らにルールを示していた。いつも……一生懸命だった」

「わかってる」

「この島には警察も裁判所もない。だからって自分の価値観で動いていいわけじゃない」

「そうだな」

「でもこいつは……自分の欲望に従ったんだ。勝手な理屈をつけて!」

「だから? 自分もそうするって言うのか?」

「…………」

「俺たちは野生動物じゃないだろう?」

 その言葉にヒョヌは口の端をあげた。

「加減はわかってるつもりだ。修平が心配しなくても――」

「心配はしてねぇよ」

「じゃあ――」

「手伝うさ」

 修平の発言に、そこにいた全員がぎょっとした。

 動じなかったのはヒョヌだけだ。

「手伝う?」

「ああ」

「…………」

「俺は……もし優奈がこいつを殺したいほど憎んでいるなら、ヒョヌさんを手伝う」
 
 ヒョヌを見据えたまま、修平は唸るように呟いた。

「でもそれを決めるのは、優奈だ」




 しんと静まり返った礼拝堂の中で、2人の会話だけが反響していた。

 ヒョヌは睨みつけるような視線のまま、口元に冷笑を浮かべる。

「お前、殺すなって言わないのか?」

 その一言で修平は小さく息を吐いた。

「殺していいと思ってるわけじゃない。他に何か方法があるかどうか……今は思いつかない」

「でもこいつのやった事が許される事じゃないのは確かだろう? いつ抜け出せるかわからないこの島で、これからも優奈はコウジと生活しなきゃならない」

「わかってるさ。それに優奈が耐えられないというなら、ヒョヌさんも黙ってられないだろう?」

「もうすでに、僕自身が耐えられないんだ」

「それは、ヒョヌさんの勝手だ」

「なに?」

「それこそ、コウジのしたことと変わらないんじゃねぇか?」

「……人としてのルールを破った奴は、それなりの報いを受けるもんだ」

「そうだよな。だからこそだろ?」

「…………」

「優奈の意識のない間は、まだジャッジの時じゃない」

「あの優しい人に、その先まで背負わせる気か?」

「だよな。優奈ならこんなことは望まない」

 その言葉にヒョヌはかっとなった。

「……コウジを、こいつを許せっていうのか? こいつのせいで優奈は――」

「コウジを庇うつもりはねぇよ」

「だったら!」

「ヒョヌさんに、それを望むと思うか?」

「なに?」

「あの優奈が、ヒョヌさんに、こんなことをさせたいと思うと? 惚れてる男に?」

「…………」

「そう思うのは俺だけか? ヒョヌさんがコウジを痛めつけることを、優奈の望むことだと本気で思ってるのか?」

「それは――」

「自分のためなら、もう充分だろうって言ってるんだよ」

 修平が突き放すように呟いた後、2人は暫く睨みあった。


 この先何が起こるのか――

 どうするべきか――


 傷ついて目覚めない優奈を見て、不安や憤りを感じているのは彼らだけではない。

 全員が優奈を案じていた。

 誰にでも優しく、いつも笑顔で過ごしていた優奈。

 遭難してからずっと、どんな時も変わらず一生懸命だった彼女を全員が知っている。

 だからこそ、誰も何も言うことが出来ずにいた。

 全員の心に浮かぶ斑点のようなシミが滲み、しだいに沈んだ闇へと広がっていく。




「――だったくせに」

 礼拝堂に、くぐもった嘲笑まじりの声がこだまする。




 その声にヒョヌと修平が振りかえった。















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Comment

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  • 2012/08/27 13:31
管理人のみ閲覧できます
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  • 2012/08/27 19:53
再開!(^^)!
小説の再開、嬉しく思います^^

ヒョヌと修平のやりとり、なかなかリアルでよかったです。
修平、どんどんかっこいい男になっていきますね。

続きが楽しみです(^^)
  • 2012/08/28 14:20
  • きたのくま
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鍵コメCさん
鍵コメCさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

本当にありがとうございます><。
とうとう新しい話に入りました。
以前のように頻繁更新はできないかもしれませんが、週一ぐらいは更新したいです^^
ふぁいと~~ですL(´▽`L )

わぁ~~~<断罪>
緊迫感がありましたか!嬉しいです!!><
ヒョヌはずっと抑えていましたからね~~
自分の大切な彼女が酷い目にあわされて、その相手が目の前にいるなら
ここらへんで、やっぱりこういう展開になると思うんです。

そして、そうですね。
少なくとも軍隊経験者(軍人ですね^^;;)
そしてキャラ紹介でも書きましたが、テコンドーもかじってるんですね。
ある意味「プロ」なわけです。
そういう人間が、むやみに手を出してはいけない――
ボクサーが一般人を殴るようなもの、と考えて頂ければ。
彼は外見が優男ですが、そういう意味ではおっかないです。
それを修平も感じているんです。なんせ、何度も色々な場面で対決してますから。
ま、殴り合いはないですが(笑)

その迫力に押されて、周りは手を出すどころか声も出ない感じです。
ここはやっぱり修平しかいませんでした。

もうもう、鍵コメさんのおっしゃる通りで
修平もヒョヌと同じ想いもあるんです。
ただ修平にはヒョヌヤ杏子とは違って、コウジに共感も出来てしまう――
それは彼がかつて、コウジと同じように優奈を好きだったからですね。


>「あの優しい人に、その先まで背負わせる気か?」

そうなんです><

修平の言葉は、ある意味優奈に決断させるということですね。
それは、あんな目にあった女の人にはかなりきつい決断です。
彼女の性格を考えればなおさら。。。
それでもあえて、修平は優奈の想いをきいてみたいと思っています。
そしてその想いが今のヒョヌと同じなら、本当にヒョヌを手伝う気もしてますが
たぶん彼なら、優奈もまとめて諭すでしょうね^^
このぐらい言えるような男でないと、杏子の相手は務まりません(笑)

<断罪>
さすが鍵コメさんです!!ニュアンスを汲み取ってくださってましたか――!!^^
そうです。
これはコウジに対しての断罪であると同時に、それぞれが自身に向けた断罪でもあるんです。
壊した者、守れなかった者――それぞれが自責の念を抱えています。
鍵コメさんがおっしゃる通り、彼もまた彼らを断罪しているんです。
そして実は、断罪されたいのかもしれません。
殴られても一切やり返さないコウジの態度は、そんな表れだったり~~^^

断罪したいのか、断罪されたいのか。

それがここでは微妙に混ざり合っている感じです。
そこを感じてくださって、本当に嬉しいです(*´∇`*)

最後のセリフは、その通りです><
彼の発言はまだまだ暴走します。。。
誰に対して、何に対しての断罪なのか、
明確にしてはいませんが、そんな事を考えながら書いています。
そして、杏子はこれからですね~~~

もう、漂流編は本当に佳境で^^
早く書きたいような、ゆっくり書きたいようなヘンな感覚です^^
いつもいつも優しい言葉と気遣いをありがとうございます><
コメントも本当にありがとうございました^^


  • 2012/08/28 23:02
  • YUKA
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  • Edit
きたのくまさん
きたのくまさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

お仕事もお忙しい中、読みに来てくださって本当にありがとうございます♪

おお!
2人の会話、リアルに感じてくださいましたか!^^
修平はどんどんカッコ良くなってますね~~^^
当初の嫌われものっぷりが嘘のようです(笑)

彼はかなりの重要登場人物になりました。
優奈のことになると暴走しそうになるヒョヌと杏子を
後ろから見ている感じの立ち位置です。

楽しみにしてくださいますか!^^それが何よりの励みです♪
読んで頂けて、コメントを頂けて嬉しかったです^^
また楽しんでもらえるように頑張ります!!^^

  • 2012/08/28 23:07
  • YUKA
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鍵コメGさん
鍵コメGさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

あわわ^^;;
誤字を修正しようとして、書いたコメントを消してしまいました――!!><。
何と言うことを><。
申し訳ありません!!お許しを~~~


読んでくださってありがとうございます!^^
やっと新章に入ることができました。
かなり難しい展開ですね~

ヒョヌはずっと創作のために感情を抑えてきていたので、
この展開は仕方がないかと思います。
書いて頂いた本は知りませんでした。なんとも凄い展開ですね^^;;
でもそれもあり得ることだと思います。
彼らも「優奈」がいなければ、もっと早くにそうなっていたんです。
知らぬ間に、彼女の良心に感化されていたというか。。。

皮肉なことに、初めての暴走は彼女絡みとなってしまいました><

この落とし所――
なかなか難しいですが、優奈らしく終われればと思っています^^
読んで頂けると嬉しいです。

コウジ。
もうその通りです!(苦笑)
彼はまだまだ暴走中です。
この断罪は彼を断罪するのであり、彼が断罪するのであり――
またそれぞれが、自身を断罪するようなニュアンスもあるというか。
誰が誰を断罪するのか。
誰が誰に断罪されたいのか。
そんな事を想いながら書いています^^

鍵コメさんもまだまだ落ち着かないご様子。身体の具合は大丈夫でしょうか。
気持ちが落ち着かないと、記事や訪問は難しいと思うので
もう、私も身をもって体験しているので^^;;
あまり無理せず、マイペースでいいと思います^^

私も仕事が色々立てこんでいて、なかなか時間がとれませんが
お互いに楽しみながら続けていきましょう♪

いつも優しい言葉をありがとうございます^^

  • 2012/08/29 22:17
  • YUKA
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