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誓約の地/漂流編・8<哀悼(3)>


<哀悼>は、episode.0<黙祷>の(1)~(7)に掲載させて頂いた内容です。

改稿にあたり、本編に組み込みました。




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 いつもいる浜辺より少し離れた場所に女性陣で穴を掘った。

 優奈が客船に乗船して脱出用ボートで遺体を運んできた後、集めた薪になる木片を敷き詰めて遺体と共に穴に入れる。その上から更に薪を重ねていく。

 捜索が終わり、発見した遺体は初日だけで6人。

 どれもすでに腐敗が始まっていて、異様な臭いを放っていた。

 一日で全部は無理だからと、帰ってきた男性陣と共に穴だけ堀る。

 数日に分けて運び、一人ずつ探してきたジッポオイルや食用油を振りかけて火葬した。

 立ち込める煙と共に立ち上る独特の焦げる匂い――

 その場に立ち会ったものが全員声にならない声をあげていた。









    * * *








「これは、どういう意味っすか?」

 カズヤが掠れた声で問いかける。

 目の前に並べられたのは、客船や散乱した荷物からかき集めた時計や携帯――

 それは全て同じ時刻を示して止まっていた。

「遭難した時間――ってことかな?」

「何があると、みんながみんな同じ時間で止んだよ!」

「それは――わかんないっすけど」

 中心にいた優奈も、なんと言っていいのかわからなかった。

 みんなが疲労しているのはわかっている。ただでさえ過酷な状況の中で、突きつけられた人の死。なかなか来ない救助に通信手段の断絶。

 その上、同じ時刻で止まっている時計――

 わからないことだらけで、不安と焦りが増幅していく。

 何とかしなきゃと思うのに、何をどうすればいいのかわからない。

「優奈さん」

 掛けられた声にビクッと反応して優奈が後ろを振り返ると、ヒョヌが心配そうに見つめていた。

「大丈夫?」

「え? あ、はい」

「泣きそうな顔をしてる」

「あ、すみません。大丈夫です」

 こんなことじゃダメだ。

 起こっていることに不安はいっぱいあるけど、どれもこれも今考えても答えは出ない。

 今何をするべきか、何をしなきゃいけないか考えなくっちゃ。

 今、一番必要なこと――



「とりあえず、食事にしようか」

 その声に優奈は顔をあげる。

 今日の夕食は何かなと笑っているヒョヌを見上げていると、ヒョヌは優奈の瞳を覗きこんだ。

「いくら考えても、今すぐに答えが出るわけじゃない。今日はみんな疲れているからね。このくらいにして食事にしよう。食べて寝て、疲れを取ってからまた話し合えばいい」

 そう言うと、ヒョヌは優奈の頭にポンと手をのせた。

 心臓がどくんと動く。

 のせられた手と微笑んでいる彼の顔が優しくて温かくて、大丈夫だと笑いたいのに泣きそうになる。

 優奈は一度静かに深呼吸すると、微笑みながら小さく頷いた。

「そうですね」


 優奈とソンホは、その意見をみんなに訳して全員の賛同を得ていった。

 ぎこちないながらも動き始めたみんなを見つめる優奈の傍で、ヒョヌがもう一度呟いた。

「こういう時は甘いものが食べたいくない?」

「……ヒョヌさん、甘いもの好きなんですか?」

「けっこう好き。今はコッテコテに甘いものが食べたい」

「コッテコテ?」

「――あ、ホワイトチョコレ―トモカとか、飲みたいかも」

「――スタバの?」

「そう、スタバの」

 それは随分コテコテだなと目を丸くしていると、「意外?」と声を掛けられた。

「ちょっと。コーヒーはブラックでって言われるのかと思ってました」

「それも好きだけどね。こういう時は甘いもの――って、そんなに笑うな」

「え? あ、別にバカにしたわけじゃ――」

「女の子みたいだって、顔に書いてある」

「あ、すみません! 顔に出てますか?」

「やっぱり思ってたのか……」

 男だって甘いもの好きな奴もいるんだよと憤慨しているヒョヌが可笑しくて、優奈は思わず噴き出した。

 ひとしきり笑ったら、随分気持が軽くなった気がする。

 そんな優奈を見つめながら、ヒョヌはも一度彼女の頭に手をのせた。


 無理するな。傍にいるから――


 そう言ってくれた気がして、なんだか凄く安心した。

「…………」

 修平はそんな二人の様子を一瞥すると、すぐに視線を外して小さく息を吐いた。







     ***






 初めて遺体を降ろし埋葬した晩から、リョウコは日に日に元気をなくしていた。

「リョウコ、食べないと身体がもたないわよ?」

 杏子は食欲がないと言って、食事に手をつけないリョウコを心配して声を掛けた。

 硬い顔をして俯くリョウコを見ながらため息をつく。

 無理もない――

 リョウコどころか、ここにいる男性陣も口数が少ない。

 遺体自体はすでに毛布でくるまれ、運びやすいようにと紐で括られていた。

 もうすでに何体かは荼毘に付している。


 遺体と共に戻ってきた優奈が、無理に笑顔を作りながら真っ青な顔をしていたのを思い出す。

 直接見ていないリョウコでさえこうなのだ。

 捜索していた男性陣はもちろん、女性である優奈はきっとリョウコ以上にショックを受けたんじゃないか?

――そう思っていた杏子は、やっぱり自分が行けば良かったかと考えていた。

 黙々と食事をしていた優奈がリョウコの傍に移動して声を掛ける。

「リョウコちゃん、食べないともたないよ? 身体が資本! ね」

 そう言って笑いかける優奈にも反応せず、リョウコは硬い顔をして項垂れていた。

 誰もがしかたない――

 そう思っていると、優奈はキ然とした声で話しかける。

「それなら――食べるのは義務って思うことにしない?」

 その言葉にリョウコがハッと顔をあげる。

「……義務?」

「そう」

「…………」

 訝しんでいるリョウコに微笑んで、優奈は静かに語りはじめた。

「あそこで亡くなるのは、私だったかもしれない」

「――――!」

「私もね、そう思ってた。だからそのままには出来なかったの」

「…………」

「誰もが楽しい航海のはずだったと思ってる。彼らの中には、誇りを持って仕事に当たっていた人もいたと思う。行き先や帰る場所には、大切な人が待っていたかもしれない……」

「…………」

「でも彼らは亡くなった。――そして私達は生きてる」

「…………」

「その違いが何だったのかはわからない。偶然かもしれない、奇跡かもしれない。――でも私が助かったことに何か意味があるなら、私は生き残って彼らを彼らの居場所に連れ帰ってあげたいと思う」

「優奈さん……」

「そのためにはどんなに哀しくても苦しくても、生きなきゃいけないでしょう?」

「…………」

「落ち込むことは、彼らの死を本当に悼んでることにはならないと思ってるの。救助はいつ来るかわからない。ここには佐伯先生と杏子が居るけど、基本的には身体の異変全てに対応できる病院も施設も無い。だから、最低限出来ることは自分で自分を守ること。そのために、生き残った私達はちゃんと食べて寝て生き残る義務がある――そう思ってるの」

「…………」

「亡くなった人は帰ってこない、どんなに悲しんでも。でも、帰りを待っている大切な人達に伝えてあげなきゃ。せめて、残された人達が彼らの死を悼むことが出来るように。そして彼らの大切な人達が、乗り越えて昇華して、前に進むことが出来るように」

「…………」

「だから、食べて寝て――救助されるまで元気でいるのは、助かった者の義務」

 そう思わない? 

――そう言って微笑む優奈の顔を見つめながら、リョウコはほろりと泣いた。

 そして微笑みながら、ちゃんと食べます――そう言って笑った。


 ソンホと佐伯が手分けして通訳し、誰もが優奈の語りに共感していた。

 優奈の語りを聞いて押し黙っていた男性陣も、いつものように食事し始める。
 



「リョウコちゃん。明日、一緒にお菓子を作らない?」

「お菓子、ですか?」

 キョトンとしたリョウコに、優奈が微笑んだ。

「そう」

「卵も牛乳もないですよ?」

「大丈夫。それが無くても出来るものもあるから」

「本当ですか?」

「本当。一緒にやらない?」

「はい」

「あ、私もやりたい!」

 話を聞いていたエリもそこに加わる。

「うん、一緒にやろう」

「じゃあ、俺は食べます!」

 カズヤが勢いよく手をあげた。

「それは宣言することなのか?」

「あ、修平さんは食べたくないんっすか?」

「食べるに決まってるだろう!」

「まだ、食べる? って聞いてないけどね」

 エリの一言に声を詰まらせたカズヤと修平を見て、優奈とリョウコは顔を見合せて笑った。

「杏子も一緒にやる?」

 声を掛けてきた優奈にそうねと答えて、杏子はくすりと笑った。




 今できることを精一杯やる。

 どこにいても、どんな状態でも優奈は優奈だった。


 それが嬉しくて、なんだかとても誇らしかった。

















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Comment

こんばんは!


うう・・・(´;ω;`)このシーンはいつ読んでもスゴク・・・優奈さんの大人な一面と、努力している姿勢が描かれていて素敵ですね!
そして気になるのはやはり修平さんとヒョヌさんのバトルがもう始まっていること・・・いや、ヒョヌさんは無自覚だけど、修平さんは思い切りイラっときてますね(*´∀`*)
お菓子作りのシーン&YUKAさんのドーナツが無性に食べたい深夜0時でした(笑)
応援してます!
なによしさん
なによしさん、こんにちは^^
コメントありがとうございます^^
お返事が遅くなりました~~^^;
<黙祷>は、優奈の一生懸命さ、まじめさなんかを
描きたかったと言うのもあったので、そう言って頂けると嬉しいです*^^*
ドーナツ~~
お届けできたらいいのですけど^^
――とりあえず、気持だけ送ります♪(ノ^▽^)ノ~~~~『愛』
  • 2011/11/26 12:17
  • YUKA
  • URL
YUKAさん、こんばんは。

災害時にはこういう場面も避けては通れないですよね。
私の住んでいる地域も近くの体育館が震災で亡くなった
方の遺体安置所になっていて、近辺は死の匂いがした
という話でした。
体育館は匂いが取れず、建て直しを検討している
という話を聞きましたが、その後どうなったか
わかりません。
精神的に相当きつい作業をされている方(主に自衛隊員
の方と思うのですが)には本当に頭が下がります。
それが実は自分のすぐそばにあるという事実を少しは
頭に入れておかなくてはいけませんね。
  • 2011/11/26 23:00
  • gimonia
  • URL
gimonia さん
gimonia さん、おはようございます^^
コメントありがとうございます^^

そうですね。
このシーンは、本来入るべきところでは書くか迷って
それでも、彼らの体験を理解するのに必要かなとUPしたところです。
恋愛小説なので、どうかな~~と思ったんですけどね^^
まだまだ、完全な復興には至ってませんから。
そういうことに想いを馳せることが出来るgimoniaさんは、素敵な方ですね^^
私の友人知人も被災していますので
まだまだ心を痛めている方も多いかもしれませんが
一日も早く平穏な生活を送れるように祈ってます^^
  • 2011/11/27 06:53
  • YUKA
  • URL
チョコです^^
episode.シリーズ本日ここまでにしますね。
取りあえずキリが良い所で+゜。*゜+

優奈の中に彼女のお母さんが見えた気がしたお話です。
優しく、厳しく、厳しさの中に愛情がある。
これは女の私でも彼女に惹かれちゃいますね。
惹かれてしまう理由が本当に分かるよ+゜。*゜+
私が男だったら「嫁に下さい」って
コメントしに来てるよ、絶対。

そして....
同じ時間で止まった時計。
鳥肌たっちゃった。
何でしょう?何か「怖い」と思ったチョコです。

そして最近ちょっと気になるジェントルマン佐伯+゜。*゜+
また最初から読みたくなって来た〜〜+゜。*゜+
チョコさん
チョコさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

そうですね^^
柔らかい女性ですが、芯はしっかりしている――
そんな風に感じて頂けたなら凄く嬉しいです*^^*
実はとっても頑固だったり(笑)

嫁にくださいって言って頂けますか?^^
チョコさんの所なら大事にして頂けそうなのでいいですね(笑)
……もれなく、ヒョヌがついていきますけど~

同じ時間で止まった時計……
この謎はまたいづれ^^
佐伯先生は、この中でもかなりの紳士です^^
モデルの方が密かにいるんです(笑)内緒ですけどね~

年明けには、ブログの方にも改稿版を再掲載する予定なので
御時間があったら、気になるところを読んでみてください*^^*
また、いつでもお待ちしてます♪

  • 2011/12/27 17:01
  • YUKA
  • URL
  • Edit
無人島に義務はないような気がしますけどね。
はっちゃけて言うと、生きる権利も死ぬ権利もありますからね。
だから自殺未遂は罪にならないですからね。
しかし、無人島だと余計にそういうことを考えますよね。
  • 2013/03/31 13:09
  • LandM
  • URL
LandM さん
LandM さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます!^^

そうなんですよね。
無人島に義務も法も無いんですよね~。全てが無いんです。
そう考えると、倫理とか権利とか義務とかを作り上げているのって人間なんですよね。
しかも、その国独自の考え方があって、こんな風に色んな国の人が集まれば
根本のところで色々食い違いも出てきますし。

2人以上の人間が集まれば、ルールや規律がないと上手くいかない気もしています。
何をしても自由ですが、自由というのは本来とても難しい。
人間は動物ですが、理性と規律を失った人間は動物ですらないですから。
野生の動物には、彼らなりの本能と自然と共存する掟がありますが
人間はともすると、その掟すら見失いがちですし。

私ね。無人島ってその人の本質が出ると思うのですよ^^
その人の「素」が出る気がしてます。
――って、無人島生活、したことないんですけど(笑)

  • 2013/03/31 22:31
  • YUKA
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