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誓約の地/漂流編・106<迷走(4)>


本日はMNの135話<迷走(6)>の再掲載です。




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 男性陣が捜索に出た後、杏子はキャシーに医務室で必要になると思われる準備の指示を出した。

 他のメンバーは交替で焚火の番をするようにしながら大量の湯を沸かす。



 手を休めると人はよけいな事を考える。

 それを回避しようと、替えの松明作りも指導した。それこそどれだけ必要になるかわからないのだ。


 佐伯はコウジを診察したが、特に身体に異常はないようだった。

 身体の震えもおさまっている。

 佐伯はコウジを医務室で休ませることを杏子に提案したが、杏子は首を縦に振らなかった。

 万が一優奈が戻ってきた時に、医務室はいつでも使えるようにしておきたかったからだ。

 コウジは相変わらず黙ったまま項垂れている。

 残った女性陣はコウジを心配そうに見ていたが、杏子はコウジを信用していなかった。

 優奈に何にかあったのは、そしてそれがコウジが原因であることはわかっている。

 既にそれは確信に変わっていた。


――どうせ、今は何も話さない。


 そう判断して、コウジへの尋問は後回しにした。

 視界に入れるのも嫌だと感じていたが、彼を見張るためには人の目が多い方がいい。

 そう考えて食堂のすみに席を作り、佐伯に付き添ってもらう。

 合間を見て杏子はミラに食事の準備を頼んでいた。

 簡単なシチューのようなものだったが、準備の合間に女性陣は食事を済ませ、松明を替えに戻ってきた男性陣にもそれを出した。

 一旦全員がそろった状態で捜索の状況を報告し、一呼吸置いて再び捜索を開始する。

 暗闇の中での捜索はかなり困難だった。

 足元の悪さからなかなか進むことができず、更に時折吹く強風に阻まれてもいた。

 松明の灯りが視界に入る程度の距離を保ちながらの捜索のはずなのに、それぞれの声も途切れ途切れにしか聞こえてこないのだ。

 それでも全員が不満の声をあげることなく、捜索中は懸命に声を張り上げる。

 そうして捜索を続けていたが、相変わらず優奈を見つけることはできなかった。


 








     ***











 何度目かの松明交換で、教会に戻ったヒョヌに修平が声をかける。

「捜索を一旦休止しよう。このまま夜明けを待つ」

 修平の一言で、全員の手が止まった。

「これだけ探していないんだ。今度は崖下を見に行こう」

「転落したって言うのか?」

「可能性だ。あの辺は坂も多い。少し範囲を広げよう」

 ぐっと息を飲み、頷いたヒョヌがすぐにでも飛びだそうとするのを修平が止めた。

「落ち着け。この真っ暗な中を下に降りるのは危険だろ? もう少しで夜が明ける。そうしたらすぐ出発しよう」

 修平が顎でしゃくるよう合図すると、ヒョヌは周りを見渡した。

 夕方から捜索し続けている全員の疲労もピークに来ているのがみてとれる。

 それでなくても暗闇の捜索は緊張を伴っていた。

 疲労は思わぬ事故を招く危険もある――

 修平の眼からその意を汲み取ったヒョヌは何かを言いかけたが、少し思案した後小さく頷いた。



 するとそこにソンホとジャンが駆け戻ってきた。

 ヒョヌに近づいたソンホは眉間にしわを寄せ、無言で手に持っていたものを差し出した。

「どうした?」

 ヒョヌは問いかけながら、差し出された彼の手に視線を移す。

 ソンホの手には女性ものの衣類があった。

 Tシャツにズボンーーそして下着。


「それ、優奈さんが今日着ていた服……」

 エリが茫然と呟いた。

 全員が押し黙ったまま、思わずヒョヌを振り返る。

「かなり北西に進んだところで見つけたんです」

 苦いものを吐き出すようなソンホの口調。

 それを杏子が奪い取るようにして確認する。

 そのままそれを握り締め、無言でコウジを振り返った。

 ヒョヌは両手をテーブルに着いたまま下を向いている。

 握りしめた拳が微かに震えていた。



 コウジが優奈に何をしたか、この時全員が理解した。

 そして修平が危惧した可能性が現実味を帯びたことを感じていた。

 泉から北西に進むと岩場や崖が多くなるのだ。

 逃げる途中で転落した可能性が全員の頭をよぎる。

「お前――優奈さんをどうした?」

 青い顔をしたカズヤがコウジに詰め寄った。

「どこに行ったのか言えよ! お前は知ってんだろ?」

 全員の視線がコウジに突き刺さる。

「よせ!」

 コウジに殴りかかろうとするカズヤを、ツヨシが止めた。

「こいつを殴っても、優奈ちゃんが見つかるわけじゃない!」

 カズヤを止めたツヨシもまた、苦しそうな顔をする。

「ツヨシくんの言うとおりだ。まだ捜索は続く」

 コウジの隣にいた佐伯がカズヤに声をかけた。

「でも――」

「優奈ちゃんのために、体力を温存しなさい」

 佐伯の忠告に、カズヤはふり上げた拳を止めた。

 いき場のない憤りが宙に浮いたままどうすることも出来ず、憤る感情に任せて傍にあった椅子を思いっきり蹴り飛ばした。

 椅子が物凄い音を立てて転がり、その後に沈黙が続く――。



 重苦しい空気の中でヒョヌはその様子をじっと見ていた。

 少し伸びた前髪から覗く黒い眼はコウジに照準をあてたまま爛々と光り、今にも挑みかかりそうな形相をしている。

 優しげな笑みを浮かべるいつもの彼はいない。

 誰もがたじろぐほどの怒気を纏《まと》った、何とも不気味な沈黙だった。















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