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誓約の地/漂流編・104<迷走(2)>

誓約の地/漂流編・104<迷走(2)>

前話103話<迷走(1)>はコチラ→ 103話<迷走(1)>






優芽の樹の掲載はかなり間が空いたので、簡単に前話の話を掲載しますね。



<103話あらすじ>


 ゆっくりと視線を落とす優奈の目に、ナイフを握るコウジの手が映る。

「――え?」

 優奈は一瞬、何が起こっているのかわからなかった。

 無意識に後ずさった優奈の背に岩肌が当たる。コウジは目を見張っている優奈の腕を掴むと、強引にその腕を引き寄せた。

 大きくうねるような風が2人の間を通り抜けていく。

 薄暗い森の木々がその風に煽られて騒ぎ出すと、いっせいに飛び立つ鳥の羽音が混ざり合って空へと舞い上がった。

「……なにを、するの?」

 優奈の心臓の鼓動は警鐘のように鳴り響き、驚きと恐怖で声が震えた。

 鈍く光るその先端から目が離せない。

「一度でいい」

 コウジの低く呻くような声に反応するかのように、ざわめいていた木々の葉音がいっせいに止んだ。




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※R18はMNの131話、132話になります。追記はその後の話。

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続きは追記へ。
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 その時、森で捜索中のヒョヌは後ろを振り返った。

 誰かに呼ばれた気がしたのだ。

「……優奈?」

 ヒョヌは無意識に足を踏み出して駆けつけようとするが、陽が暮れた森の中では既に方向がわからない。

 漆黒に暮れていく森を睨みつけるようにして、ヒョヌの口から呪詛《じゅそ》の言葉が洩《も》れた。


 この島の森は恵みの森だった。

 一見鬱蒼《うっそう》とした森も、中に踏み入れば水も食料も豊富で綺麗な場所も多く、島での生活が長くなればなるほど想い出の場所もできた。

 だが今日は違う顔をのぞかせている。

 漆黒の闇は森をすっぽりと包みこみ、重なり合った木々が影絵のように風に煽られて音を立てながら揺れていた。
 
 不気味に感じるその森の何処かに連れ出された優奈を想って、ヒョヌの中で不安と焦りが増幅する。

「優奈、返事をしてくれ」

 呻《うめ》くように呟いた言葉は、強くなってきた風に流されて宙に舞っていく。




 ふいに、ヒョヌは誰かの気配が近づいてくるのを感じた。

「陽が暮れたわ。このままじゃ私たちが迷う」

 振り返ったヒョヌの眼にはシルエットしか映らなかったが、その声で相手が杏子だとわかる。

「灯りを持ってきましょう」

 硬い声だった。彼女もいつになく緊張していると感じる。

「……わかった」



 気のせいだったのだろうか?

 呼ばれた声の方向に後ろ髪を引かれながら、ヒョヌは杏子に促されて一旦教会に戻った。










     ***











「とりあえず、盛大に火を起こそう」

 ヒョヌは集まっていた全員に声をかけた。

「表の焚火ですか?」

 ソンホの問いかけに小さく頷く。

「今日は月が出てない」

 そう言って空を見上げたヒョヌにつられて、全員が上を向いた。

「迷っているとしたら、焚火の炎が目印になる」

 その言葉で全員が足早に動き始めた。

 いつもの倍以上の薪を使って炎を大きく立ち上げる。

 炎はバチバチと大きな音を立て、金色の火の粉が舞いあがった。

「どのくらいの薪を使う?」

「全部」

 カズヤの質問にヒョヌが声を張った。

「薪は後からいくらでも集めればいい! ストックしてるのも全部出そう! 人命救助は最優先だ」

 自らも大量の薪を抱えながら、ヒョヌはそう言い放つ。

 一足先に戻ったソンホが捜索を男性陣に頼んでいた。

 優奈とコウジの捜索を全員に伝えたが、その理由は明らかにしていない。

 ただ2人が森で迷っていることだけを伝えていた。

 この島は昼と夜では見せる顔が違う。

 男性陣の島の探索でも、陽が完全に暮れてからはおこなったことがない。

 夜間の焚火を欠かさない教会や月明かりで辺りが見渡せる海岸と違い、森の中はあまりにも暗い。

 島の地理を把握してきたとはいえ、その中には大きな岩が転がる岩場や崖も多い。

 視界を奪われた状態で出歩くのはかなり危険だったからだ。

 この時間からの捜索と聞いて全員が不安そうな顔をしているのは、無理もないことだった。



 そんな中、杏子は黙々と松明の用意をして、その準備を終わらせていく。

「修平は?」

 そう杏子が声をあげた時、修平がコウジを連れて帰ってきた。

 足元のおぼつかないコウジの腕を強引に引きずるように歩かせている。

「優奈はどこなの!」

「何があった? 優奈をどうした!」

 ヒョヌと杏子が矢継ぎ早にコウジを詰問する。

 ヒョヌはTシャツの胸元をねじり上げるように掴み、コウジの身体を揺さぶった。


 コウジは黙っていた。

 ガタガタと音がするかと思うほど身体を震わせ、真っ青な顔をしている。

「コウジ、お前……優奈に何をした?」

 コウジの尋常ではない様子にヒョヌも動揺した。

 何も話さない、いや何も話せないコウジの様子を全員が固唾を飲んで見守っている。

「とにかくもう一度探そう。こいつを見つけた場所に印をつけておいた。灯りがあれば大体はわかると思う」

 そう声をかけたのは修平だった。

 ヒョヌがあらためて視線を移すと、修平は上半身裸だった。

 手持ちのものがなかったために、目印代わりにTシャツを木にくくりつけてきたらしい。

 佐伯にコウジを預けた修平はヒョヌに大まかな位置を教え、一度服を取りに部屋に戻った。

「崖側だから女の子は残って。佐伯先生も残ってください。この暗がりだ。万が一、どこか怪我して戻ってきた時に医者が必要になるかもしれない。杏子ちゃんもいるけど、こいつを見てる男がいた方がいいので」

 ヒョヌの指示に佐伯はわかったと頷くと、戻ってきた修平が更に指示を出す。

「皆が迷ったらシャレにならない。あまりバラバラにならず、2人1組で行こう。松明が消える前には戻ること」

 ヒョヌは修平が以前作った手製の地図を広げて捜索の位置と方向を説明している間、黙ってそれを聞いていた。

 その途中、窓から空を眺めて気付かれないようにため息をつく。

 せめて月が出ていてくれれば――そう思うほどの闇。

 落ちついた顔を装っていたが、内心は怒りと焦燥で気が狂いそうだった。

 修平は説明を終えてヒョヌの肩をポンと叩いた。

「大丈夫、絶対無事だ。早く見つけてやろう。あいつ、きっと腹をすかせてるぞ」

 そう言って小さく笑った。

 軽口を叩いていても、その眼を見れば修平の心配が伝わってくる。

 ヒョヌは無言のまま、それに応えて小さく頷いた。



「私も行くわ!」

 杏子が真っ蒼な顔をしてそう叫んだ。

 予想通りだと思いながら、修平は軽くため息をついて首を振る。

「ダメだ、お前は残れ」













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