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誓約の地/漂流編・99<懸念(3)>



誓約の地/漂流編・99<懸念(3)>




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 優奈が少し顔を傾けて窓の外へ目を向けると、草木が風に揺れていた。

 木枠に網を張り付けているので、その隙間から時折吹き抜ける風に乗って花の甘い香りが漂ってくる。

 額に宛てられた濡れたタオルを変えようと、ベッドわきの氷水に手を伸ばしたその時、ドアをノックする音が聞こえた。

「はい。どうぞ」

 返事をすると、遠慮がちに修平が顔を出した。

「入っても平気?」

「大丈夫」

 優奈がそう言うと修平がベッドわきまで歩いてきた。

「俺がやるよ」

 優奈の手にしたタオルを取り上げ、氷水に浸して絞る。

「ありがとう」

「調子は?」

「平気。杏子は大げさなのよ」

 修平は口を尖らせて抗議する優奈に笑いかけると、横になる優奈の額にタオルをのせてからベッドわきにあった丸椅子に腰かけた。

「大げさってことはないだろ? そもそもここで病気や怪我をしたら危ないんだから。優奈は自分のこととなるとビックリするぐらい遠慮するからな」

 あっさりお前が悪いと叱られてしまった。

「同じ」

 そう言って笑う優奈に修平が眉を寄せる。

「何が?」

「修平くんと杏子。言うことが一緒」

 片方の眉を少し上げるようにして諭すその口調は、言い方こそ男女の差はあるが杏子と同じ。

 何よりその口調がそっくりだと優奈は笑った。

 くすくすと笑う優奈の顔を見て、修平はぐっと言葉に詰まる。

「優奈、あのさ――」

「何?」

 熱のためか、いつも以上に潤んだ瞳で自分を見ている優奈から視線を外さず、修平は小さく息を吐き出すと一気に話しかけた。

「杏子から聞いてるかもしれないけど」

「うん」

「俺、杏子と付き合ってる」

「――うん」

 そのまま、暫く2人とも無言だった。

 頬笑みを浮かべる優奈に、修平が先に声をかける。

「聞いてた?」

「ううん。でもそうかな? って思ってた」

「そうなんだ」

「そう」

 2人は同時に小さく笑った。

 医務室の窓から、外の草木に和らげられた日の光が差し込んで白いシーツの上で踊っている。

 風に揺れる草木のざわめきと鳥の鳴き声だけが時折聞こえてくる穏やかな午後だった。


「少し、変わったかな」

 視線を外して自分の手元を覗いていた修平は、優奈のその声に反応して顔をあげた。

「何が?」

「杏子。肩の力が少し抜けてる気がする」

「そうか?」

「うん。私もそうだったけど、杏子もこの生活で色々気を張ってたと思うから。それに――私が心配ばっかりかけちゃうからね」

 修平は舌を出しておどける優奈に噴き出した。

「あれは、趣味だな」

 杏子が優奈にむける想い――最初は驚くことばかりだった。それに苛立ったことさえある。

 でも優奈を知る度にその想いが少し理解できた。

 あまりにも無防備に、誰に対しても優しさを傾ける優奈を放っておけなかった。

 いつか酷く傷つくんじゃないか――

 自分の想いと比例してその気持ちが強くなっていった。

 だからこそ、自分が守ってやりたいとも思った。


 だが、杏子の感情はその上をいく気がしていた。

 心配という名の、執着とも呼べる杏子の感情――それはどこからきているのか。

「泣かしたら承知しないわよ?」

 ふいにかけられた言葉に顔をあげて、何処か真剣な優奈の顔を見つめた。

「ああ」

「杏子は泣き虫だからね」

 優奈がくすりと笑う。

「泣き虫で寂しがりで甘えん坊」

 修平は目を剥いた。

 なんだか杏子を形容するのになじまない単語を聞いた気がする。

「誰が……泣き虫で、寂しがりで、甘えん坊だって?」

「杏子」

 あっさり告げる優奈に修平は絶句した。

「もちろんいつも颯爽としてるし、はっきりものを言うあの口調も大胆な態度も杏子だけどね。でも本質は――昔とちっとも変らない」

 修平はしばらく優奈の顔を見つめた。


――それが、お前から見た杏子なのか?


 優奈から聞く杏子がなんだか新鮮だった。














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Comment

こんばんはー^^
YUKAさんこんばんはー!!
更新、今回すごく頑張ったのではないでしょうか?
本当にYUKAさんは有限実行タイプの素敵な方ですね^^

わたしも、杏子さんの本質は優奈さんと同じ印象でした(笑)
何となく杏子さんは、強い光を自ら意識して発光していて、周りへの影響力も強い魅力的な女性なんですけど、光エネルギー補給の新陳代謝が悪くなるといきなり脆くなるといか、そんなイメージがあったんです。

修平さん、気付いてなかったの〜!?って思わず突っ込んじゃいました(笑)こういうのって、男の人より同性の友人の方が鋭いのかもしれませんね。長年の親友なら尚更・・・そしてむしろ杏子さんの優奈さんに対する気持ちは執着か、と・・・何となく、すごくすっと理解出来た気がしました。羨望でも何でもなく、うーん・・・でもあくまで今の時点での自分の感慨なので、正式な心理描写は今後で楽しみにお待ちしております♪

あっ、そういえばわたし、おとといくらいに朝からYUKAさんのブログにへばりついて過去記事から全部読破したんですよ〜(笑)どんだけストーキングwwって感じですが、とてもおもしろかったです。
そして連載を定期的に更新する事ってすごく大事だなーって思ったり、とか、YUKAさんのお人柄とか、訪問者様への配慮とか、とにかく全てがすごい、素敵、!!って感じですごく感銘受けました。
なのでわたしも連載を定期的に更新出来るスタイルに変更しようかなと模索中で!

そんな訳で(どんな訳だ?)本当にYUKAさんのブログスタイルやお人柄にメロメロなcanariaでした(笑)
資格の勉強との両立、ご無理されずに頑張って下さいね!ではでは〜^^
  • 2012/04/06 01:51
  • canaria
  • URL
canariaさん
canariaさん、こんばんは^^

コメントありがとうございます♪
そうなんです――!!先週末は体調を崩していたので
今週の更新は諦めようかと思いました(笑)
素敵じゃないんですよ~~^^;;
ただ、今「優芽の樹」での誓約の地掲載が今回ので99話。
次回が100話なので、なんだかせっかくの100話に水を差しそうで(自分でw)
ムリクリ更新です(笑)

今回の話は、実はプロットに無かったんです。
でも杏子×ヒョヌはあるのに、優奈×修平が最近ないなぁ~と思っていたので
優奈から見た杏子っていうのを書こうと。。。
だから余計、更新が大変だったという噂もありますがヾ(;´▽`A``

さすがの修平も、まだ泣いたところも甘えん坊のところも見てないんですね~(笑)
まだまだ、完全に気を許せているわけではないんです。

ただ――優奈から見ても、杏子が徐々に変わってきて見える。
そんな感じを醸し出したかったんです^^あくまで「醸し出す」ですが(笑)
優奈は人の気持ちがわからないバカな子ではないんですよ~~というか(爆)
今後、2人の関係性を明らかにするのは「追憶編」ですので
よろしかったら読んでみてくださいね^^


それから――

わぁ~~~お忙しいでしょうに、記事全読破してくださったんですか?!
うれしい~~~~(///∇//)テレテレ
連載の定期更新――なかなか、難しいですよね^^;;
ただ、見に来る方があまりにも不定期だと話を忘れそうですし(笑)
読者も離れていってしまうかな?と^^;;

あ。訪問者様への配慮~~~全て、ただの小心者なんですけど(〃'∇'〃)ゝ

それなのに、そんな風に過分に褒めて頂いて~~もうwwどうしましょう(*ノ▽ノ)イヤン
私はcanariaさんの美的センスと作品や登場人物への愛にメロメロですがWW


ありがとうございます^^
今のところ何とかなっているので、これからも無理しすぎないように頑張りますね^^
  • 2012/04/06 22:00
  • YUKA
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