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誓約の地/漂流編・97<懸念(1)>

誓約の地/漂流編・97<懸念(1)>
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 ヒョヌは小さく笑った。

 杏子との会話の9割は優奈の話。自分以上に優奈を気にかけている杏子を知っている。

 今更特に驚くことではなかった。

「それで?」

「心に留めておく――ぐらいでいいんだけど。コウジが優奈を好きなのは知ってる?」

 ヒョヌはその問いに答えずに肩をすくめてみせた。

 あえて言葉にしなかったが、それは同意したのと同じ意志表示だ。

 杏子はそれを受け取って、ヒョヌに小さく笑いかける。

「最近ちょっと、様子がおかしいのよ」

「おかしい?」

「確証はないんだけど。なんて言ったらいいかな?  思いつめてる感じ」

 杏子の言葉に、ヒョヌは一瞬どきりとした。

「何もなければ別にいいんだけど。普段はヒョヌさんが傍にいるから。でもなるべく優奈を1人にしない方がいい気がして。ヒョヌさんも1人にならない方がいいかもね」

「それは――優奈に何かするってこと?」

「嫌な予感がね。考えすぎかもしれないけど。体格差を考えても、あなたに立ち向かえるとは思えないから、ヒョヌさんの場合は心に留めておいてもらえれば大丈夫だと思って」

 コウジの様子――杏子の心配はヒョヌにも心当たりがあった。

 さすがに優奈に対しては平静を装っているように見えたので、あえて刺激しないように近づかなかったが――部屋割を変更してから特にひどい。

 原因としてはそれしかないと、ヒョヌは小さくため息をついた。

「……優奈はそうはいかないな」

「ええ。注意したけど、基本的にあの子お人好しだからね。こんな漠然としたこと言ってもわかったって笑うだけで――あれは、絶対わかってない」

「……そうだろうね」

 2人は同時にため息をついた。考えていることは同じだ。

 それは優奈の性格を考えれば当然だった。

 まして彼女はこの島で一番多く全員と交流しているのだ。

 置かれている立場からいってもそれはできないだろう。

 思案し始めたヒョヌに杏子は再び語りかける。

「変な言い方だけど、慣れてるのよ。昔、何度断っても告白する子もいたしね。あなたを好きみたいだから気を付けてって言っても、同じ感覚になると思う。色々危ない目にも遭ったくせにね」

「危ない目?」

「ええ。まぁその時はいくらでも抑止があるからね。接近禁止? そう言うことも出来るでしょう?」

 穏やかじゃない単語にヒョヌの眉が少し上がる。

 そんなヒョヌの視線を軽く受け流して、杏子は話し続けた。

「でも、今までとは状況が違う。相手の気持ちも生活する場所も逃げ場がない。気を紛らわせるものが他にない上に共同生活だから、思い詰めやすい環境よね」

「確かに」

「だから……私の言いたいことわかる?」

「それじゃあ、今も危なくない? 2人してここにいたら」

「修平に言ってきたから大丈夫」

「……そうか」
 
 杏子は海に視線を向けて黙ってしまったヒョヌの顔を覗きこんだ。
 
「修平が心配?」

 杏子の視線に苦笑を浮かべ、ヒョヌは首を振る。

「いや――彼はもう大丈夫でしょ? 杏子ちゃんがいるしね」

「あの馬鹿がなんかしたら、ただじゃおかないわ!」

「おっかないなぁ」

「でも、修平とコウジはタイプが違う。私から見たコウジは気が小さくてとても繊細なタイプ。もしかすると最年少で女のリョウコなんかよりずっとね。男だからって踏ん張っているみたいだけど」

「ああ」

 それはなんとなくわかる気がする。

 客船が沈んだあの日、それを眺めていたみんなの中でコウジは小さく震えていた。

 大丈夫――そう励まされてかろうじて踏みとどまったようにも見えた。

「あれは――修平だった」

「何が?」

「いや、なんでもない」

 思わず声に出てしまった心情に、ヒョヌは小さく笑った。

 あの時、俯くコウジを励ましたのは修平だった。ヒョヌが声をかけるよりも早く。

 修平とコウジ。2人とも、さほど年は違わないはずなのに。

 救助の目印を失って動揺したコウジと、今まで通りでいいと励ました修平。

 当り前のように声を掛けた修平の言葉は、あの時の優奈の言葉と同じように全員に届いたはずだ。

「確かにタイプが違うと思ってね」

「そうね。まぁ、あれが普通というのかも。ここにいる人達は案外神経が図太い人が多いから、パニックにならなかったんでしょうけど。その中でも修平は1、2を争うほど図太いと思うわ。少しばかり鈍いけどね」

 そう言いながら少し微笑んでいるように見える杏子に、ヒョヌはあらたまって声を掛ける。

 一度きちんと聞こうと思っていたことだ。

 確認すべきか一瞬ためらってから、おもむろに口を開いた。

「杏子ちゃんさ。もしかして修平と付き合ってる?」













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