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〈連作短編〉終わりと始まり(5)

【登場人物】

何森 好美(いずもり よしみ)

苦瀬 一吾(くぜ いちご)

前話はこちらから➡ (1) (2) (3) (4)


お話の内容・設定・性別も含めて
実在のブロガ―様とは一切関係がございません(*´∇`*)


次話、最終話
すみません。長くなったので、今回で終わりませんでした^^;;
飾り12



ベンチ2





 全学部の後期試験が終わり、大学は春休みに入っていた。

 既に授業のない大学に来る学生はサークル活動のためぐらいで、中庭のカフェも閑散としてる。新学期が始まるまで閉店になるからだ。

 それでも色んな理由で学校に来る学生のために、テラスの一部だけは解放されている。
 
 私は自販機でミルクティーを買うと、それを持って『長老』の傍のベンチに腰を下ろした。

 風邪を引くといけないから、せめてカフェの中で待つようにと日和ちゃんに言われていたけど、あれから時間を見つけては毎日ここに来ている。

 それでもまだ一度も先輩の姿を見掛けない。


 ただ待つだけ――それがこんなに辛いなんてはじめて知った。

 先輩もこんな風に、何かを待っていたんだろうか。

 何年も、何年も。

 どんな想いで、『長老』を見上げていたんだろう。

 どれだけ、想っていたんだろうか。







冬の樹1





「久しぶり」

 声を掛けられて慌てて顔をあげると、日和ちゃんが目の前に立っていた。

 先輩じゃ、なかった。



「……久しぶり。ごめんね、サボってばかりで」

 サークルの活動をサボっている私の代わりを、日和ちゃんは笑って代わってくれている。迷惑をかけっぱなしだ。

「それはいいけど、今日も来てない?」

 私が「うん」と頷くと、日和ちゃんは「そっか」と言って肩をすくめている。

 ここに来れば先輩には会える――そう思ってた。

 会えなくなって初めて、それが当り前じゃないことに気付いた。

 そしてここ以外で会ったことがないことにも、電話番号やメアドさえ知らなかったことにも、あらためて気付いた。

 なんとなく聞くことを躊躇って、そのままだったから。

「フューシャに行った?」

「え?」

 聞き返すと、日和ちゃんが隣に腰掛けながら私を見ている。

「連絡先、知ってるんじゃない? だって、オーナーって苦瀬さんの彼女さんのお姉さんなんでしょ? 何か知ってるかも」

 そうか、その手があった。

 そんなことにも気が回らないなんて、私もどうかしてる。

「一緒に行こうか?」

 心配そうに声をかけてくれる日和ちゃんに、大丈夫と声をかけて別れた。



 詮索することになるんだろうか。

 休学中の先輩は、大学に来る義務はない。だから試験日程中に来なくても何も不思議じゃなかった。

 それどころか、今までの全ての日がそうだった。

 先輩は、自分の意志でここにいただけだ。



 行く前にもう一度『長老』を見上げる。

 3月も半ばを過ぎて、ずいぶん暖かくなった。

 枝の間から見える空は眩しいほど澄んで、綺麗なその青空になぜか泣きたくなる。

「……あ」

 今まで見上げていたのに、気付かなかった。

 私は何を見ていたんだろう。




 硬い蕾ばかりだと思っていた『長老』の枝の先――

 そこにひと房分だけ、まるで隠れるように蕾がほころんでいた。







ほころぶ








 商店街を抜けてフューシャの前に来たけれど、入り口のドアには鍵が掛り、人の気配はない。

「こんな早くからは開いてないか」

 時間を潰そうとして引き返すために振り返ると、荷物を持ったオーナーさんとばったり出くわした。

「あら。何森さん、でしたよね?」

「はい」

「どうしたの?」と声を掛けてくれたのに、咄嗟に声が出ない。

「とりあえず、中へどうぞ」

 ドアを開けようとするオーナーさんに場所を譲り、鍵を開けるのを見ながら息を吸った。


「苦瀬先輩の居場所、知りませんか?」








 
BAR.jpg 







「出ない、ですか?」

 小声で確認すると、ケイタイを耳に当てながらオーナーさんは頷いた。

「留守電に切り替わっちゃうから、電源を切ってるか、電波が届かないか――」

 届かない――その言葉に反応して、なぜか胸の奥がきゅうと鳴った。

「すみません」

 事情を説明するうちに、色んな感情がこみあげてきて泣いてしまった。

 ずっと泣けなかったのに。



 業務前の忙しい時に物凄い迷惑だと思う。

 いきなり訪ねてきて、わけのわからないことを話して、しまいには泣き出すなんて。

 それなのに、オーナーさんはずっと黙って話を聞いてくれた。

 背中をそっとさすりながら。

 その手が暖かくて余計泣けて、そんな気持ちが落ち着いた頃、コトンと音を立てて目の前にホットレモネードが置かれた。

 お礼を言いながらそれに口をつけると、甘酸っぱい味が口の中に広がる。




「何森さんも苦瀬くんも、まだ終わってないでしょう?」

 その声にどきりとした。

 ふいにかけられた言葉に顔をあげると、オーナーさんの優しげな眼が私を見ている。

「もし新しくはじめたいなら、まず終わらせなくちゃいけないんじゃないかな。そのためには、動かなくちゃいけないと思うの。新しい関係を作りたいなら、今までの関係を終わらせなきゃ。そのためには待ってるだけじゃだめなのよ、きっと」


 はじめたいなら、終わらせる?


 ただベンチに座って、他愛もない話しをして――それは居心地が良くて。

 でも曖昧で不確かな関係。


 変わりたいと思ってた。上京して何かが変わる気がしてた。

 でもいつの間にか、変わらないでほしいと思ってた。居心地がよかったから。

 そしてまた、同じことを繰り返してる。

 繰り返してたのは同じような毎日じゃなく、同じように臆病で怖がってばかりだった私の心。


「変化って凄く勇気がいると思う。何の保証もないしね。迷って躊躇って、不安で――怖いのは凄くわかる。後悔するかもしれない。でも何かがはじまるかもしれないでしょう? 終わってしまったら苦しいし哀しいけど、そこで終わりじゃない。終わったことで何かが新しく始まるのよ。それが望んだ結果でなかったとしてもね。何森さんが生きている限り、必ず何かが始まる。始まりのない終わりなんて無いと思うから」


 始まりのない終わりなんて、無い――。


「去年からだったかな? 人を避けるようにしていた彼が、ここに来てある新入生の話をするようになったのは。時々ね。ポツリポツリと話題に出てた。ちょっとした冗談もまともにとって、すぐ反応する面白い子がいるって。智香が亡くなってから、彼が他の人の話をするのはその子のことだけだった。だからどんな子だろうと思ってたんだけど……」

 オーナーさんは、私の顔を見つめて優しく微笑んでいた。


「あれはきっと、何森さんのことね」






大学の空 (2)





 店を出て、その足で教えて貰った先輩のアパートに向かう。

 気持ちばかりが焦って足がもつれそうになりながら、可能な限り走った。

 頭の中で、オーナーさんの声がリフレインする。


『彼はもう充分苦しんだと思う。彼が不幸になることを智香も望んでないと思う。あの子の人生は終わってしまった。だからもう、何かが始まることはない。でも彼は生きてる。だから――』


 なんでもっと早く、先輩を探しに出なかったんだろう。

 長老の下で待っていても来ないなら、私が探しに行けばよかったんだ。

 あの日感じた罪悪感と後悔、それ以上の想いを先輩はずっと抱えていたんだと思う。

 苦しんで、哀しんで、心を閉ざしてた。

 私はあんなに傍にいたのに、その事に気付かなかった。

 ただ、自分が傷つくのが怖くて。

 このままでいいと思ってた。このまま何も変わらなければいいって。



『彼を、動かして』



 先輩も私も、このままでいいわけない。

 前に進まなければ、踏み出さなければ変わらない。






sora514_convert_20120317031415.jpg 






 先輩のアパートに着いて呼び鈴を鳴らしても反応がなかった。電気メーターも止まっているから留守みたいだ。もう一度教わった番号に電話しても留守電になってしまう。

 何処かに出かけてるんだろうか?

 切れる息を必死に整えながら、精一杯頭を回転させて考えてみる。

 今まで先輩と交わした会話を可能な限り思い出して、先輩の興味のある場所、気になった言葉、それを頼りに探そう。

 先輩と何を話してた? 先輩はどんなことを言ってた?

 思いだして! 思いだせ、自分!



 よく立ち寄る本屋、たまに歩くと言っていた河川敷、珈琲の美味しいと言っていた喫茶店――

 そこには居ないかもしれない。でも、そのどこかに居るかもしれない。



 傷つけたり怒らせたりしているなら、もう一度ちゃんと謝りたい。

 自分の気持ちを伝えて、ちゃんと説明して、話がしたい。

 できればもう一度、あの日みたいな笑顔が見たい。

 先輩に、会いたい。



 もう一度、会いたい――
















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Comment

なんだろう

こううゆうときって

やっぱり女性の方が行動力がありますね

男は 引きずるばかりでww
  • 2012/03/17 05:29
  • D.Matter
  • URL
D.Matter さん
D.Matter さん、おはようございます^^
コメントありがとうございます♪

そう言いますよね!!^^
きっと、男性の方が繊細でロマンチストなんですよ~~^^

割り切るまでは、女性は執念深いですけどね!(笑)
お気おつけ遊ばせ~~(´0ノ`*)
  • 2012/03/17 06:22
  • YUKA
  • URL
  • Edit
おはようございます☆
おお、なによしさんが動きだした!
今まで破れなかった殻を、なによしさんもようやく破ったという感じですね。
脱皮のときが来た!
こうなったら行動あるのみ! わたしも応援しまっせ~☆
そして先輩、早く出てきなさーい!笑
  • 2012/03/17 07:01
  • ハコモリ
  • URL
おはようございます。
YUKAさん、おはようございます。

今日も読ませていただきました。
引っ張りますね(笑)
居なくなった人を探し出すというのは容易なことではないと思うのですが、
若さと恋が不可能を可能にしてしまうのでしょうか?
今回はモデル様をもとにした短編というよりは普通の作品として読めました。
最終話楽しみにしています。
無理のない範囲で執筆頑張ってくださいね。
  • 2012/03/17 09:56
  • gimonia
  • URL
こんにちは(≧∇≦)
おおっ、ついに動き出しましたかー☆
gimoniaさんも仰っていましたが、文章がとてもお上手なので自分の夢小説というよりも普通の小説として読んでいるようで、一読者として物語の行方が気になっています☆
この付け辛いことこの上ない名前をもじっていただいて小説を描くのは大変だったと思いますが><;
そして・・・・とうとう恋に決着が(≧∇≦)!?
潔く玉砕するのかそれとも・・・・(*≧m≦*)
気になりますね~~~(〃▽〃)!!
次回の結末も楽しみにしています♪
ありがとうございました~~~☆
ハコモリさん
ハコモリさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

そうなんです!やっと動いてくれた(笑)
このままだと先に進まないんですよね~~ヾ(;´▽`A``
もう、どうなることかと(笑)

脱皮ですね!春ですから~~~(*´∇`*)
おお!応援ありがとうございます!
先輩~~~次回は出るはず(笑)
  • 2012/03/17 16:05
  • YUKA
  • URL
  • Edit
gimonia さん
gimonia さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

あはは~~引っ張ってますね。
そのつもりではなく、納まらなかっただけなのですが(笑)
恋の奇跡で何とかなるのが恋愛です( ´艸`)
だから……たぶん^^;;

おお!作品として読んで頂ける――有り難くて泣けるお言葉です(TwT。)
出来れば、明日UP目標~~
この話に随分時間を取られました^^;;
後何人だっけ?と考えたら、ちょっと眼が回ってきました(笑)
でも楽しいです♪
  • 2012/03/17 16:18
  • YUKA
  • URL
  • Edit
なによしさん
なによしさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

そうなんです!!内気で繊細な子にしたので、
動くのに時間がかかってしまいました(笑)
そうしたら長くなってしまいました~~(〃'∇'〃)ゝエヘヘ

楽しんで頂けてますか?^^よかった~~(///∇//)テレテレ

そう言って頂けるのが一番です^^
なんだか、お礼なんだかよくわからない作品になってしまって
申し訳ないぐらいです(;´▽`A`

名前~~苦しくも楽しい作業でしたよ^^
もうここ何カ月も、なによしさんがぐるぐるぐるぐる私の中で回ってました~
思い入れがあり過ぎて全6話。

・・・・・あと何人?Σ(・ω・ノ)ノ!

あはははは~~~
でも私自身が凄く楽しんでいるので^^
実はなによしさんのところでは、伏線も色々張っているので(笑)
この後に続く方は「あ!」と思いだす話になっている!

・・・・・はずです(*´∇`*)

結末、頑張ります♪
  • 2012/03/17 16:42
  • YUKA
  • URL
  • Edit
そろそろクライマックスですね!アドレナリンがバンバン奔出されてる何森さんがどのような思いっきりを見せるのか・・ドキドキの待ち時間。
HIZAKI
  • 2012/03/17 17:38
  • HIZAKI
  • URL
こんばんは〜o(●´ω`●)o

胸がきゅぅってなります。・:*+((((*o・ω・)o)))゜。・:*+・
切ない!切なくてなによしさんが可愛い!
♪───O(≧∇≦)O────♪
そして動き出したなによしさん!!
次でなしよしさん編終わっちゃうの?どーなるの?
どーなっちゃうの、YUKAさん!!

あと
はじめたいなら、終わらせる
この言葉が私の心に響いたよ
きっと今リアルに自分がこーゆー状況に
あるって事なんだろうね。
私の場合恋愛じゃないけど(; ̄ェ ̄)

次でラストって聞いちゃうと
何だか淋しい気もするけど
素敵なラストでありますよう

なによしさんが幸せに包まれますようにo .。.:*☆
HIZAKI さん
HIZAKIさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

いよいよ明日最終話です!やっとここまで来ました~~(TwT。)
とにかく完結させられて良かった(笑)

ラストは凄く迷ったのですが、これにしようと最終的に決めて予約済です^^
わぁ~~ドキドキしてくださって嬉しいです♪
私も、明日の皆さんの反応がドッキドキの待ち時間です^^;
見届けてくださると嬉しい(*"ー"*)フフッ♪
  • 2012/03/17 21:16
  • YUKA
  • URL
  • Edit
チョコさん
チョコさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

わぁ~~~切なくなってくださいましたか!^^
私も書いてて切なくて可愛い子だわ♪と思ってました(笑)
そうそう!
動きだしましたよ~~とうとうね!^^
「なによしさん編」は次話で最終話です!^^
ただし、これは2弾の「先輩編」を読んで頂けると続きがわかるかと^^

――と言って、2弾も読ませる戦法(笑)

はじめたいなら終わらせる――響いてくれて嬉しいです。
どんなことでも同じですよね。恋愛に限らず。

この「終わらせる」は「捨てる」ということではなく
区切りをつけるというような意味で使ってます。
なんとなくは、結局引きずるんですよね。

ここでは、片想いのことを言ってますが、例えば告白。
結果はどうあれ、告白するということはそれまでとは違う関係になる――
相手に自分の気持ちが伝わりますから^^

そこからその人と新たな関係を築けるかもしれない
でも、その事でダメになってしまうかもしれない。
それでも、伝えなければ今ままで変わらないんです。
変わらないということは気が楽ですが、前には進まない。


小さな変化でもいいから前に進めば、新しい何かが待っているよ~~という
春先、新しい環境に向けて踏み出すメッセージでもあるんです^^

最後の結末――気に入って頂けるといいんですけど^^

  • 2012/03/17 21:46
  • YUKA
  • URL
  • Edit
こんばんは
オーナーさん、重要な役回りですね。うまく主人公を導く役をさせてますね。

次回で最終回ですか。もう出来ているとのことですので、結末を楽しみにしてます。

総括的に良かった点、気になった点なども、そこでの感想で書かせてもらいます。
  • 2012/03/17 21:49
  • バカッパ
  • URL
バカッパさん
バカッパさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

オーナーさん、かなり重要ですね^^
実はここまで重要になるとは^^;;
結末――出来ました(*´∇`*)ただ、皆さんの反応が気になるラストですが^^;
次回で総括――ドキドキしながらお待ちしてますね^^
イラストを頂いたことへのお礼短編なので、
お手柔らかにお願いします(笑)
  • 2012/03/17 22:34
  • YUKA
  • URL
  • Edit
YUKAさんこんばんは!
うはぁ。。。なんか今回のお話泣けました゚(゚´Д`゚)゚
なんか、フィクションなのに自分のことのようで。。
リアルすぎて、なによしさんが泣く場面で私もつられてほろっ(´;ω;`)そのままラストまでぽろぽろっ゚(゚´Д`゚)゚
さすがですYUKAさん!涙腺破壊の女神様!←嬉しくないww

最終話もほんとに楽しみにしてます!



  • 2012/03/18 01:58
  • ちーずふぉんでゅ*
  • URL
ちーずふぉんでゅ* さん
ちーずふぉんでゅ* さん、こんにちは^^
コメントありがとうございます♪

わぁ~~そんな風に言って頂けて嬉しいです(≧∇≦)
こんな経験されたことがあったんですね。
何森さんの設定は20歳、ちょうどちーずふぉんでゅ* さんと同じ^^
そのちーずふぉんでゅ* さんにリアルだと思って貰えるなんて~~
これ以上の褒め言葉はありません゜(*/□\*) '゜゚゚・。 ウワァーン!!

ラスト、頑張ってますので^^
  • 2012/03/18 14:02
  • YUKA
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