QLOOKアクセス解析

誓約の地/漂流編・95<微熱(8)>


誓約の地/漂流編・95<微熱(8)>





================================================




 真面目な学生生活を送っていたコウジは、成績優秀な優等生だった。

 中学から水泳部に属していたが、文武両道を基本理念に抱える進学校に進んだため、高校でも部活に励んでいく。

 現役で有名大学に進学し、就職難といわれる中で一流企業に就職もした。

 
 入社してから開かれた飲み会で、一人の女性と出会う。

 短大を卒業した彼女はコウジより一つ年下で、小柄で可愛らしくよく笑う子だった。

 何度か食事をするうちに自然と付き合うようになり、コウジはいつの間にか夢中になっていく。


 しかし、楽しい時間は長く続かなかった。

 日を追うにつれ忙しくなっていく仕事。

 もともと真面目なコウジは少しでも早く仕事を憶えようと、残業もいとわず働いた。

 そのためどうしても彼女とすれ違う日が続き、彼女の不満はたまっていく。


 寂しい想いをしている彼女のために、少ない時間をひねり出して会いに行った。

 だがいくら若くても体力の限界はくるもので、寝坊して休日のデートに遅れることも増えていく。

「バカみたいだよな」

 想いだしたくもない過去の自分が、コウジの心に浮かんでは消える。

 熱に浮かされたようにフラフラと歩きながら、コウジは自分の想いに沈んでいった。





 付き合って1年が経つ頃、何となく意見の食い違いが増えた。

 結婚をほのめかし始めた彼女の気持ちは分かっていたが、頷くことはできなかったからだ。


 でもそれは遊びたかったからじゃない。

 どんなに大変なのか――そんなことは彼女に関係ないと思っていた。でも分かってほしかった。

 もう少し落ち着くまでは、仕事に集中したい。

 でもいつかは――そんな風にちゃんと考えていたんだ、自分なりに。

「お前の彼女、浮気してるぞ」

 ある日先輩にそう告げられた時、一瞬頭の中が真っ白になった。

 まさか――そんな言葉が頭の中を駆け巡る。


 だがそれは事実だった。





 その相手とは合コンで出会ったという。

 一流と言われる企業に勤める独身男性が主催する合コンは、女性陣も目の色を変える。

 将来が透けて見えるからだろう。

 より条件のいい男を捕まえようとしているのがありありとわかる。


 合コンといえども、その世界は意外と狭い。

 女性が目の色を変える男たちは、取引先や同じ会社が多いからだ。

 そうなると自然に顔を合わせる機会も増える。

 男だけで飲みに行けば「この間の女が――」そんな話にもなる。

 だから俺は彼女が出来てから参加しなかった。

 彼女がいれば充分――そう思っていたから。

 彼女は覚えていなかったらしいが、合コンを主催したその先輩は俺の彼女を知っていた。

 友人のピンチヒッターで参加だと言った彼女は、彼氏はいないと言っていたそうだ。

 そんな中、問題の男と意気投合してその後も連絡を取り合っているらしい。

 最悪なことに、その相手と自分は面識もあったのだ。

 最近途切れがちな彼女からの連絡。自分の彼女の浮気相手から聞かされた真実。

 自分より幾つも年上のその男は、明らかに条件のいい男。


 それで何となく覚めた。

 ああ、そういうことか――そう思った。
 





 鬱々とした日が続き、それでも振り切らなければと何とか仕事に向かっていたある日、彼女の親友と名乗る女性から連絡があった。

 指定された喫茶店に出向くと、彼女と彼女の親友とが待ち構えている。

 それから延々と責められた。

 責められていると感じていた。

 彼女は寂しかっただの、彼氏としての自覚だの、そのほとんどを友人と名乗る女性がしゃべっている。


 なぜ俺が責められるのか。

 なぜ2人の問題に友人が絡んでくるのか。


 そんなことを想いながら、気持ちは更に萎えていく。

 もうどうでもいい――そんな心情が読みとれたのだろう。

 今度はどれだけ好きかを切々と訴えて泣き始めた。

 愛しいと感じていたその瞳にもその声にも、もう何の感慨も沸かなかった。


 正直うんざりだった。

 もう知っているんだ。知らないふりをしてやっただけ。

 条件のいい男を物色していたことも、その男に本命がいるとわかって戻ってきたことも。

 
 帰ろうとする俺を無駄に引きとめる2人に、半ば強引に別れを告げて帰宅した。
 



 彼女と別れた――そう広まるのに時間はかからなかった。

 するとどういうわけか今まで以上に女性社員に話しかけられることが増えた。

 飲み会の誘いも増えていく。


 別に悪い気はしない。

 あまりにもあからさまなその変化に、嬉しいというより呆れてしまっただけで。


 気晴らししろと先輩に誘われた飲み会で出会う女は、どれも似たようなものだった。

 社名を言えば、知りたくも理解する気もない仕事の内容を聞いてくる。

 興味があるのは仕事でも俺自身でもなく、一流と言われる会社に勤める独身の男なだけだろうに。


 情けなさと面倒くささから、暫く飲み会の誘いを断り続けた。

 何度も断るうちに誘いも減っていく。

 深夜まで残業して真っ暗な家へ一人帰宅する――そんなことを繰り返す日々。



 だが暫くして仕事に没頭していたせいか、会社の重要なプロジェクトの一員として参加することが認められた。

 自分は末端だったが、それでもその事が誇らしく懸命に仕事をした。

 プロジェクトは成功し、思ったよりも多い報奨金に浮かれ、溜まっていた有休を消化しようと同じメンバーだったカズヤと船の旅に参加することにした。

 
 そして彼女を見かけた。

 一目で好きになるほど好みだったのは確かだ。

 でもそれでもどんな人なのか――そればかりが気になった。



 彼女は違うんじゃないか。

 いや違っていてほしい。


 祈るような気持ちだった。







 普段接する彼女は子供みたいに無邪気に笑う。

 からかわれて頬を染めながら抗議する姿は、年上とは思えないほど可愛いらしい。

 話すうちにどんどん彼女に惹かれていく。

 仕事の話、学生の頃の話――

 断片的に聞く彼女は、真面目で優しく思いやりがあって、非の打ちどころがないように思えた。

 理想の女性――そんな言葉を何度も噛み締める。
 
 


 ア イ シ テ ホ シ イ




 気がついた時にはどうしようもないくらい夢中になっていた。

 自分の中に沸き上がる欲望を夢想する彼女にぶつけていく。

 思い描く彼女を何度犯したかわからない。

 そこにいる彼女はどんなことにも従順で思い通りで――

 優しく微笑んでくれる彼女を見るたびに、自分の邪な空想が堪らなく卑わいに感じて酷く興奮する。

 俺がそんなことを考えてるなんて想像もしてないだろうと思うと、そんな想像に少し罪の意識さえ感じて、彼女が微笑んでくれるたびに心の中でごめんと謝ったりした。

 せめて一度だけでも――そんな風に考えることさえ罪かもしれない。
 
「わかってるんだ。叶わない想いだってことぐらい――」

 肩書きの通用しないこの島で、彼女に認められたら何かが変わるような気さえした。


 だけど、選ばれるはずがない。

 浅ましい想いを抱える、卑屈に歪んだ自分では。


 そんな風に思い始めた頃、偶然見てしまった。





 そこで繰り広げられていたもの。

 まるで思い描く欲望そのままの情事。









 悪夢だった。
















関連記事

Comment

こんばんは^^
いつも執筆お疲れ様です。
YUKAさんこんばんは!

今回は・・・コウジの心情がありありと綴られてる回でしたね。
自分がまるでコウジになったかのように、過去の彼女に嫌悪感を抱き、別れた後も相変わらず肩書きばかりを見る女性にうんざりし、優奈さんを理想化し空想の中で思いをぶつける・・・。
そうか、その矢先に見たあの行為は、そういう意味で「悪夢」だったのですね。優奈さん自身に幻滅とかというよりも、自分の邪な思いと錯綜して・・・みたいな・・・続きを見届けなきゃですね!!

今回は文の書方が今迄と違って、コウジの一人称ですが、アクセントとしていい意味でのメリハリを感じたので、個人的にはグッジョブな展開だと思いましたです(^○^)
最近YUKAさんに触発されて恋愛小説の、しかも大人なシーンをピックアップして書きたい欲がムラムラと・・・!!どうしましょ///

今後のブログの展開も楽しみにしております。
今日もありがとうございました^^
canaria さん
canaria さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

コウジの一人称、大丈夫でしたか?よかったです(*´∇`*)
グッジョブ頂きました~~ヾ(≧∇≦*)〃ヾ(*≧∇≦)〃

ちょっと書き方が違うので、もうタブーを犯しまくりで^^;;
MNの方の読者様はどう反応するだろうかと思っていましたが
今のところ「お気に入り登録」も解除されていないので(笑)

以前修平のエピをはしょったことがありまして、
思わぬ方向に皆さんの感情が流れていったので、今回は同じ轍を踏まないようにと^^

そうなんです!!
実は過去の苦い経験から一人を選んだ彼ですが、その事で淋しさや侘しさを感じていて――
無意識にもがいていた時に、優奈に出会ったんです。
仕事での成功が、ある意味自信を取り戻していたせいもあります。



コウジにとって、社会人になった頃につきあった女性との想い出は苦いものです。
それから、自分に近寄ってくる女性が信じられなくなったという。。。

ですがこの島は、ある意味地位や名誉――そう言った付属物が一切通用しないところで
人間性や、その人の本来持っているもので勝負ですから
そういう状況で優奈に認められるなら、苦い想い出が昇華できると考えていたんだと思います。

あまりにも理想的な女性として、神格化させ始めてしまったのは
優奈が理想なのではなく、優奈に理想を投影していたという感じでしょうか。

そんな優奈に対して、邪まな感情が罪とさえ感じていたのに
それがあの日の出来事で、結局「人」だった(当り前ですが)
彼の中では地に落ちた気がしたと思います。

そして、邪まな感情を持つ自分ではふさわしくないと思っていたのに
ヒョヌの欲望は受け入れている――その事実が彼を苦しめます。
自分と彼の違いは、たいしてないのではないか
ではなぜ、自分ではないのか――

心の闇に落ちていく彼を目の当たりにした時、島の女神とその守護騎士はどう対処するのか――
よろしければ見届けてくださいませ^^

そして――canariaさんの大人描写~~~~~!!!(///∇//)テレテレ
それは是非とも拝見したいです><。。
せんせ~~~勉強させて頂きますので、是非ともUPしてくださいませ~O(≧▽≦)O
  • 2012/03/09 22:02
  • YUKA
  • URL
  • Edit
Comment Form
公開設定


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。