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誓約の地/漂流編76<濫觴(6)>



動きだした想いと抱える心。


それぞれの決意が、新たな時間を紡ぎ出す。









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 夕暮れの海辺で一人くつろいでいた杏子のもとへ、修平が近づいてきた。

「あら、人恋しくなったの?」

「少し、話をしに」

 真顔で呟いた修平に、杏子は肩をすくめる。

「あらそ、どうぞ」

 修平は杏子の隣に腰を掛けた。

 彼にしては珍しく少し言い淀《よど》んでいる。

 ふぅと小さく息を吐くと、呟くように語りかけた。

「なぜ、あんなことした?」

「あんなことって?」

「キス」

「したそうだったから」

「人恋しくなったらって、どういう意味?」

「そのままの意味だけど?」

「それ以外に何があるの?」と逆に問われて言葉に詰まる。

 淡々と、しかも端的に言い放つ杏子の発言を、どう受け止めるべきか悩んでいた。

「誘ってるの?」

「したそうだったから」

 修平は、もう一度ため息をつく。

 彼女のこういう語り口はいつものことだった。

 要点を端的に前置きや説明はしない。

 彼女の性格そのままだった。


――いや、だからってだな。


 修平はガシガシと頭を掻いて次の言葉を探していると、杏子がくすりと笑った。

「結局は生存本能だと思うの」

「――――?」

「この人しかいない、この人じゃなきゃって」

 海を眺めながら微笑む杏子に、修平は視線だけでその話の先を促《うなが》した。

「本能的に、この優秀な遺伝子が自分の遺伝子と組めばより優秀な子孫を残せる。未来に自分の優秀な遺伝子を残したい。――まあ、快楽というより種《しゅ》の保存としてね」

「…………」

「生き物が持ってる本能でしょ? そのために生きて、死んでいく」

「そう、だな」

「人は他の動物より複雑だから、愛とか恋とか倫理とか縛るものが多いけど。本能的なら、遭難してこの島に閉じ込められている環境は、充分危機的状況よね」


――そういうことか。


「なるほどね」

「1匹のメスに2匹のオス。種《しゅ》を残すなら戦うしかない。そして残念ながらあなたは負けたの」

「優奈はヒョヌを選んだってわけか」

「そうね。この場合、選択権はメスにあったから。――ただ、発情したらそう簡単には治まらないでしょ?」

 杏子がくすりと笑って、修平は脱力する。

「ホント、身も蓋《ふた》もないな」

「そうね」

 2人は暫く黙って海を眺めていた。

 夕日に照らされてオレンジ色に染まる海は 静かに浜辺へと打ち寄せている。

 森の木の葉が時折り潮風に揺らされて、微かな音を奏《かな》でているだけの穏やかな午後だった。

「なんで杏子は俺なの?」

「なんで? 一番いい男だからよ」

「ヒョヌじゃなくて?」

「彼は優奈の男。優奈が好きな男は、私にとって男じゃないの」

 苦笑する修平に、杏子は呆れた顔を隠さずに小さく笑った。

「そんなに卑屈にならなくても、あなたは十分いい男だと思うわよ?」

「――そりゃぁどうも」

「だって、今まで相手に困ったことないでしょう?」

「…………」

「私もよ」

「――じゃあ、なんで?」

「言ったでしょ? 私にも人肌の恋しい夜があるのよ」

「…………」

「生理的に嫌いっていうなら無理だけど」

「俺が杏子を受け入れるって自信があんのか?」

「生理的に嫌われてはいないと思うわね」

「…………」

「まぁ、ホントのところは1度してみないとわからないけどね」

 修平は思わず笑った。

「自信があるんだな」

「だからキスしたじゃない。ダメならそれでわかるわ」

 修平は杏子の発言に、思わず頷きそうになった。

 他の人が言えばものすごく傲慢に聞こえる言葉の数々。

 杏子が言うと受け入れてしまうから不思議だ。優奈とは、違う魅力のある女。


――そういう問題じゃねぇよな。
 

 杏子は視線を海へ向けたまま、背中を丸めて俯《うつむ》く修平に語りかける。

「あなたの望む人はもう手に入らない」

「…………」

「でも一人で耐えることはないわ。肌を合わせて癒されることもあるのよ? 人は人で癒されるものなの」

 静かに語る杏子の言葉を受け止めながら、修平が呟く。

「余計虚しいかもしれないだろ?」

「してみなきゃ分からないでしょう?」

「…………」

「いつもならこんなことは言わない。さっさと次の女に行きなさいって、お尻を叩いて終わり。――でもここは、逃げ場がないからね」


――何故こいつはこんなことを言うんだ?


 考えてみても答えは出ない。

 色んな感情に振り回されて、今日はいつも以上に疲れいた。

 マヒしたような心では杏子の言葉を上手く咀嚼《そしゃく》できない。

 修平は端正な顔にうっすらと微笑を浮かべて、突き放すように声を掛けた。

「杏子を、逃げ場にしろって?」














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Comment

こんばんは!なによしでっす!

おおおおお・・・・修平さんと杏子さんの組み合わせにワクワク!杏子さんの知的で、本能の話を始める辺りになんだかドキドキしました!ひょっとして、しなくても杏子さんの本能は修平さんを求めているがゆえの前置きとかでしょうか!?
だったら、きゃあああ!すごい告白ですよねえさん!「本能でアナタを求めてる」とかなんでしょうか!ひゃあああああ!激しい告白ですよねえさん!ってひとしきり妄想の世界に入り浸りつつも最後の言葉が、気になりますね・・・・!
男らしい性格の修平さんにとって、他の誰か・・・別の人を、発情したはけ口にする、っていうのが気に入らない感じでしょうか?
だとしたら結構な男前ですが、修平さんのプライドが杏子さんとの仲を阻んでしまう気が・・・うう、修平さんってば!ホントは辛いくせにー!誰かにすがって泣いてもいいのですぜぃ・・・?
なのに信念がそれを許さない・・・嗚呼、男らしさゆえ、孤高の狼になっちまうよ・・・!

この先、どういう方向へ進むのか、妄想しつつ楽しみに待っています!杏子さんだったら、上手く行くと思うのに(´・ω・`)!

毎回楽しく悶えながら読んでいます!そして応援しています!
お早うございます
いつも続きを楽しみにしておりますw

ボクは杏子さんの様な方が好みなのですけど(性格とかもちろん容姿も)

女々しくて三枚目のボクなんかでは
たぶん相手にもされないことでしょうねww
  • 2011/11/13 05:20
  • いちごはニガテ
  • URL
なによしさん
なによしさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
修平と杏子、喜んで頂けて嬉しいです^^
杏子姐さんは、もし優奈が修平を選んだら手を出さなかったでしょうから^^
杏子の誘惑に修平は勝てるのか?!――ってそこ?^^;
ありがとうございます^^頑張りますね^^
  • 2011/11/13 05:45
  • YUKA
  • URL
いちごはニガテさん
いちごはニガテさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
楽しみにしてくださっていたんですか?嬉しいです*^^*
私も、いちごはニガテさんは杏子だと思ってました(笑)
押してみないとわかりませんよ~^^
  • 2011/11/13 05:49
  • YUKA
  • URL
こんにちは。ちょっと続きを読もうかと思ったら、杏子ちゃんの胆の据わり方と、修平とヒョヌとのどこか心の通じ合ったやりとりに、クリックする手ももどかしくなってここまで読んでしまいました。

これだけの質を保ったまま毎日更新を続けていくのはさぞやたいへんだったろうと思います。

これからどうなるのか、ものすごく楽しみなのですが、身体を壊したら元も子もありません。

どうかご自分のペースで、ご自分に合った「疲れないやりかた」でブログをお続けになってください。ここまで読んだ以上は、無事に優奈とヒョヌが現実世界に戻ってきて幸せをつかむまで読みたいですので……。
ポール・ブリッツさん
ポール・ブリッツさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^
本当ですか!
杏子の胆が据わった感じ、修平とヒョヌの繋がり……
まさに、そこが描きたかったのであります。
まだまだ本当に未熟者ですが、そんな風に言って頂けて嬉しいです。

ありがとうございます^^
連載小説が未完なのは、本当に哀しいことなので
最後まで頑張りたいと思います^^
毎日更新をずっと続けているポール・ブリッツさんを尊敬してます!
色々反省して、楽しく続けていきたいと思います^^
私も幸せになって貰わないと気持ち悪いので(笑)
  • 2011/11/13 20:29
  • YUKA
  • URL
おはようございます。

杏子さんのような女性、実際にはいるんですかね。
どこかにはいるんでしょうね。
あまりにも肝が据わってて、恐ろしいほどです。
いたとしても私の姿は目に入らないのだろうなあ。

どういうおばあちゃんになるんだろう?
かくしゃくとした感じなんでしょうね。
ボケたりはしなさそうです。
あとは杏子さんの成長期が気になります。
聡明な方は思春期の葛藤をどうやって
やり過ごすものなんでしょうか?
  • 2011/11/23 09:14
  • gimonia
  • URL
gimonia さん
gimoniaさん、こんにちは^^
コメントありがとうございます^^
杏子のような女性……胆が据わり過ぎていて確かに怖いですね^^;;
ここまで凄い女性がいるかはわかりませんが
杏子には何人かモデルがおります^^
その中でも、私の大事な友人の一人は
姐御肌で情に熱くて頭が良くて、はっきりものを言う大人の女性で
私の敬愛する人でもあります^^
なにかあると、まるで知っていたかのように連絡をくれる人です^^
――彼女に頭は上がりません(笑)

かくしゃくとしたおばあちゃんになりそうですね^^
おお!杏子のスピンオフも面白そうです^^
少し案もあるんですが、いつか披露できたらいいなぁ~~♪
彼女は彼女なりの悩みも葛藤もありますね。
少し先になりますが、「追憶編」でその一端をお見せしますので、
良かったら、このまま読んでくださいませ^^
  • 2011/11/23 11:58
  • YUKA
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