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誓約の地/漂流編・93<微熱(6)>




誓約の地/漂流編・93<微熱(6)>







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 翌朝――いつものように一日が始まる。


 朝一番で女性陣が医務室に、男性陣は食堂に集まってきた。

 佐伯が男性の、杏子が女性の簡単なメディカルチェックを行ってから朝食が出来るまでの間、それぞれの部屋の掃除を行う。

 全員で朝食を取り、更にそれぞれの朝の分担作業に取り掛かった。


 一番大変なのは飲料水の確保。

 気温の高めな島での水分補給は単に喉を潤す目的だけでない。

 健康維持のために医師の佐伯から指示されている義務だった。

 前日の夕食中に、客船から確保してきた大きな寸胴鍋2つに水を入れ沸かした。

 一晩覚ましておいた飲料水を空いたペットボトルに小分けにして詰め替え、洞窟へ運ぶ。

 洞窟の奥には氷が張るほど冷えているので、暑い島での冷蔵庫代わりだ。

 また新たに汲んだ水を寸胴鍋に入れ、焚火の薪を拾い集め、半分を教会に半分を浜辺の監視場所に備える。

 力仕事と重労働を男性陣がこなしている間、女性陣は長足の食器を洗い、泉のそばで洗濯を行い、教会近くの木々に渡したロープに干していく。

 礼拝堂と食堂、医務室を掃除した後、島で取れる食材を確保して一日の作業を終え、昼食を取った後にそれぞれの時間を過ごしていた。



 優奈は森の中に咲いている花を摘むと、バケツに泉の水を汲んで礼拝堂に運んだ。

 礼拝堂の正面、壁にかかる十字架の下に小さなマリア像の置かれた祭壇がある。

 その祭壇を挟むようにして、部屋の幅いっぱいまで渡した、奥行き30cmほどの棚を掃除し始めた。

 この棚は教会に来て間もなく、建築家であるマークに頼んで廃材で作って貰ったものだ。

 綺麗に拭き掃除をした後、白い布に包んだ器を置いてあった通りに戻していく。


 遭難して間もなくの頃――

 遺体で発見された人々を全員で荼毘に付し、骨壷代わりの容器に入れて白いシーツで包んでいた。


 彼らの信仰していたものはわからない。

 宗教にはそれぞれの流儀があることもわかってはいた。

 しかし今はそれを確認する術もない――。


 優奈は少し迷ったが、悩んでも仕方ないと思い返して自分の出来る範囲で礼を尽くすことに決めた。

 1人ずつに花を供え、頭を下げる――それは誰にも任せずに自分で行う。

 遭難者を遺骨にしてから、それが優奈の日課になった。




 半分ほど花を供えたあと、優奈は小さくため息をついた。

 身体が重い――

 昨日はほとんど眠れなかった。

 寝不足の身体は思った以上にだるく、昼を過ぎる頃にはいつもよりも疲れを感じていた。

「やっぱり、寝不足かなぁ」

 膝をついて花を供えていた優奈は、少なくなった水を汲みに行こうと気力を総動員して一旦立ち上がった。

 左手の甲を額に当てる。

 水に濡れた手がひんやりと気持ちいい。

「優奈さん、これどこに置く?」

 急に声をかけられて優奈が振り返ると、バケツに水を汲んだコウジが立っていた。

「いつも2回水を汲んでたから、1つ持ってきたんだ」

 そう言って照れくさそうに笑うコウジに、優奈は微笑んだ。

 もう一度泉に行って水を汲むのは少ししんどい――そう思っていたので、とてもありがたい。

「ありがとう。凄く助かる」

 そう言ってコウジを見上げると、コウジが怪訝そうな顔で優奈を見つめていた。

「優奈さん、もしかして具合悪い?」

「え?」

「なんだか、顔が紅いよ? 熱があるんじゃ――」

 そう言われて、優奈はとっさに自分の頬に手をあてた。

 確かにいつもより熱い気がする。

 しかし、朝のメディカルチェックでは何ともなかったのだ。

 やっぱり寝不足かな? と考えていると、すっとコウジの手が目の前に伸びてきた。

 無意識に優奈の身体がビクッと反応し、コウジを見上げる。


 そんな優奈の反応に、行き場を失ったコウジの手が所在なく宙に浮いた。

「あ、熱があるのかな……って、思って」

 そう言いながら差し出された指先は、優奈に触れるのを躊躇っていた。

「ご、ごめんね。ちょっとビックリして」

 苦笑するコウジに、優奈は慌てて謝った。

「いや、ごめん」

 そう言ってそのまま手を降ろしたコウジに優奈がもう一度謝っていると、不意に後ろから足音が聞こえた。

「どうした?」

 視線を流すと、ヒョヌが大股で近寄ってくる。

「ちょっとね。オッパ、終わったの?」

「こっちはね」

 向き合った優奈とコウジの様子を素早く一瞥すると、ヒョヌは無言のままコウジに視線だけで問いかけた。

「あ……優奈さんの顔が紅いから、熱でもあるんじゃないかって」

 コウジの言葉にヒョヌは少し目を見張る。

「どれ?」

 そう声をかけると同時にヒョヌはすっと手を伸ばし、優奈の額に手のひらをあてた。


 流れるようなその動作に、コウジは微かに唇を歪める。

 いつの間にか、無造作に降ろされた手を握り締めていた。

「少し熱いな」

 心配そうなヒョヌの視線を感じて、優奈は小さく微笑むと「大丈夫だよ」と声をかける。

 ヒョヌは少し眉間にしわを寄せた。

「それは優奈が決めることじゃない。杏子ちゃんに見て貰おう」

「朝は何ともなかったんだけどね……」

「時間が経って具合が悪くなることもあるさ。とりあえず、医務室にいこうか」

「でも……」

 ヒョヌは優奈の次の言葉をさえぎるようにして、優奈の背中に手をあてて促した。

 残された花を見つめたあと、優奈が戸惑いながらヒョヌを見上げる。


 コウジの奥歯がぎしリと音を立てた。















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