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誓約の地/漂流編・92<微熱(5)>



誓約の地/漂流編・92<微熱(5)>





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トクトクと心臓の音が聞こえる――。


 規則正しいその音と共に、あたたかい肌に触れている頬が上下していく。

 心地いい音にまどろみながら、なんとなく息苦しさを覚えて優奈は目を覚ました。


 一瞬、優奈は自分がどこにいるのかわからなかった。

 段々と覚醒する自分の意識を総動員して、ヒョヌの腕の中で抱きくるめられている状況を確認する。


 そうだった。

 今日から一緒の部屋で生活してたんだった。

 目が覚めて、大好きな人の腕の中で目覚める――

 何だか凄く安心して、同時に嬉しさで頬が弛む。

 ヒョヌを起こしてしまうのではないかと思ほど、心臓がどくどくと音を立てて鼓動を速めていていく。

 ただ――

「……苦しい」

 息苦しいと感じていたのは、抱え込むようにして自分を抱えている彼の腕の重みだった。

 自分のスペースを確保しよう体をくねらせてみるが、ヒョヌの腕ははしっかりと優奈を抱え込み、少しばかり動いてもびくともしない。

「……オッパ?」

 小さく呼んでみるが、かえってくるのは規則正しい寝息だけだった。

「――だめだ」

 優奈はふぅと小さく息を吐いた。

 起こさないようにと注意しながら、なんとか自分のスペースを確保したあと、少し顔をあげて彼の顔を見つめる。

 おやすみと声をかけて別々の部屋へ入っていく今までから一転して、これからは眠りにつく前に隣でおやすみと言える。

 彼の腕の中で眠って、その腕の中で目を覚ます。

 ずっとそんな風に傍にいられる――それが嬉しかった。

 優奈は無意識に手を伸ばし、指先でヒョヌの頬に触れた。


 目を閉じているヒョヌの顔は肌がつるりと滑らかで、いつもより幼く見える。

 思っていたよりまつ毛が長い――

 そんな小さな発見が嬉しくて、また顔がニヤケてしまう。

 声を出して笑いそうになって、優奈はヒョヌの胸に顔を埋めていく。

「何笑ってんの?」

 優奈は急に掛けられた声に驚いた。

 顔をあげると、眠そうにうっすらと目を開けたヒョヌと目があった。

「あ、オッパの寝顔が可愛かったから」

 そう言って笑う優奈にヒョヌも小さく笑った。

「おはよう。ごめんね。起こしちゃった」

「いや。――起きるにはまだ早いか」

 そう言われて優奈は首をひねり窓を覗いた。

 外はまだ漆黒の闇に包まれたままで、ほんのりと月明かりが辺りを照らしている。

 日の出と共に起きるのが習慣になっていたが、月の傾きを見れば確かにまだ時間がありそうだ。

「寝れなかったの?」

 問いかけるヒョヌに、優奈は小さく首を振った。

「ううん、なんとなく起きちゃっただけ」

「そっか」

 ヒョヌは少し伸びをしながらあくびを噛み殺した。

 その後少し身体をずらして、もう一度優奈を抱え直す。
 
「ねぇオッパ。汗臭かったり、しない?」

「僕が?」

「ううん、私が」

 そうだったらどうしようと優奈がどぎまぎしながら問いかると、ヒョヌは大丈夫だよと笑いながらまた優奈の髪に顔を埋める。

「温泉に行きたいところだろうけど、まださすがに暗くて危ないからな」


 先に言われてしまった。

 愛しあった後、そのまま落ちるように眠りについた。

 いつもなら暫くしてシャワー代わりに温泉で汗を流すが、夜明け前の温泉は暗くて今日はさすがにそうはいかなそうだ。

 優奈はヒョヌを見上げて、仕方ないよねと苦笑する。

「混浴露天風呂だな」

「え? 混浴?」

 ぎょっとして自分を見つめる優奈の顔を覗きこんで、ヒョヌは嬉しそうに笑った。

「誘ってくれてるんでしょ?」


――誘う? 一緒に入るってこと?


「そ、それは……」

 声を上げた優奈の口を、ヒョヌが慌てて手で覆った。

「し――! 声が大きい」

 口を手で覆ったままヒョヌが苦笑している。

 優奈が小さく頷くと、ヒョヌはそっと手を放した。

「ご、ごめんなさい」

 謝る優奈にヒョヌは「冗談だよ」といって苦笑する。

「残念だけど、ちゃんと外で見張りしてあげるよ。みんなが起き出す前に行くか」

「行けるかな?」

「少し明けてくればなんとか。出ていけば、外の見張りには見つかるけどね」

 そう言ってヒョヌはもう一度伸びをする。

 今日の教会の見張りはマークとキャシー。

 交代で仮眠をとっているはずだったが、今も教会の外で焚火をしている。


 マークとキャシーは遭難前から婚約している恋人同士だ。

 あの2人ならヒョヌと温泉へ出て行っても変に突っ込んだりしないだろうと考えて、優奈はもう一度窓を見上げる。


 やはり傾き始めた月が沈むには、まだ時間がありそうだった。
 



 すると、急にどさっと物の落ちる音がした。

 ヒョヌはとっさに上体を起こして優奈を庇うように抱える。

 2人が顔を見合わせていると、エリとカズヤの部屋の方から微かに「痛ぇ」という声が聞こえてきた。

「カズヤ、かな?」

 ヒョヌが壁を振り返って呟いた。

「カズヤくん、寝ぞう悪いからね」

 そういって優奈が苦笑すると、それにつられてヒョヌも笑った。

 教会に来る前にキャンプしていた浜辺でも、カズヤの寝ぞうの悪さは話題に上がっていた。

 もしかするとベッドから落ちたのかも――優奈がそう考えていると、ヒョヌがまた小さく笑った。

「ベッドから落ちるほど激しかったりして」

「――――!」

「気になる?」

「え? 気になるって何が?」

 優奈の問いに答えず小さく笑うと、ヒョヌは少し身体を起こして優奈にゆっくりとのしかかった。

 口に含むように深く口づけた後、優奈の首筋に顔を埋めていく。

「オッパ、寝なくていいの?」

「ん――、さっきの音で完全に目が覚めた。明けてくるまで時間がありそうだから、もう一回」

「あ、え? もう一回?」

 思わずヒョヌの顔をまじまじと見てしまった。

 するとヒョヌは噴き出すように笑って、優奈の額にかかる髪を除けながら彼女の瞳を覗きこむ。

「試してみる?」

「何を?」

「ベッドから落ちるようなへまはしないから」

「――――!」

 だから何を? と聞こうとして開きかけた唇を塞がれた。

 優しく甘い口付けを何度か交わした後、ヒョヌは優奈の首の後ろに回した腕で彼女の頭を抱え、徐々に上体を起こして覆いかぶさる。


 再び愛される気配に、優奈の体が自然に反応していく――




 東の空がうっすらと輝き始めるまで、2人はそのまま眠らなかった。


















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Comment

YUKAさんこんにちは♪

始まったばかりの2人の時間が新鮮ですね。
寝顔やまつ毛の長さ…これまで
見れなかった新しい発見に幸せを感じる優奈
が愛おしいです。

温泉もあったんですね♪
もぅこれは混浴でしょう*^^*
  • 2012/02/26 11:16
  • 奏響
  • URL
奏響さん
奏響さんこんにちは^^
コメントありがとうございます♪

そうなんです!!気分は同棲生活ですね!(笑)
ちょっとしたことに幸せを感じている優奈の頭の中は今、春爛漫(笑)

混浴は優奈が拒絶してるんですよ~~(笑)
みんなにばれると恥ずかしいからという理由で( ´艸`)
これから先はどうですかね~~^^
  • 2012/02/26 16:15
  • YUKA
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