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誓約の地/漂流編・86<特別(9)>



誓約の地/漂流編・86<特別(9)>






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 暮れはじめた浜辺は少しずつオレンジに染まり、杏子の頬を照らしていく。

 意志の強さを表すような口元に心を見透かすようなまなざし――。

 彼女を形作る様々な要素。

 修平はそれを純粋に美しいと感じていた。


「そんなことはわかってる」

「わかってないと思うわ」

 杏子はきっぱり言い放つ。修平は笑みを消して真顔で宣言した。

「それの何が悪い? 俺がお前の全てをわかってないように、お前も俺を全て分かっているわけじゃない。優奈と杏子は違う。当り前だ。杏子は杏子だろう?」

 杏子はちょっと考え込んだ。なにか迷っている顔だった。

「なぜ、そんなに付き合いたいの?」

「なぜ?」

「あなたの好みは、優奈みたいなタイプじゃないの?」

 杏子は口の端をあげた。

「自分でいうのもなんだけど、言いたいことを言うし、やりたいようにする。自分のことを優先する可愛げのない女を、ワザワザ彼女にしなくてもいいんじゃない?」

 寝ないと言ったのは撤回したわよ? と肩をすくめる杏子に修平は笑った。


 杏子は医者だ。

 ベテラン医師の佐伯と共に毎朝全員の健康チェックを行って、全員に気を配っている。

 男性陣を集めて避妊具の話をした時もそうだった。面倒なことは嫌い――

 そういう態度で臨みながら、実は意外と面倒見がいい。


 なんだかんだと言いながら、年下のエリとリョウコも可愛がっているし、忙しい優奈をさり気なくフォローしているのもわかっていた。

 自分のことだけ優先しているわけじゃないのは知っている。

「少なくとも、優奈のことは自分以上に優先してないか?」

「それも含めて私よ」

 杏子はきっぱりと断言した。

「男よりも親友を優先するような女、彼女にするのは面倒だと思うけど?」

 確かに、普通ならそうかもしれない。杏子の優奈への関心はちょっと首を傾げてしまう。

 それこそ母のようだ。

 まるで親鳥が雛を庇うような優奈への庇護には思わず苦笑することも多い。

「それも含めて杏子なんだろう? なら、それでいい」

「束縛されるのは困るの」

「俺もだ」

「付き合ったからといって、従順な可愛い彼女にはならないと思うけど?」

「そんなことは杏子に望んでない」

「言いたいこと言うわよ?」

「そんなもの、つき合わなくたって言うだろう?」

 杏子の瞳がきらりと光った。

「私の傍にいるってことは、優奈の傍にいることになるわよ? それどころか応援することになりかねない。あなたはそれで辛くないの?」

 修平は笑うのをやめて、不思議そうに杏子を眺めた。

「俺を心配してるのか?」

「あの子の幸せを邪魔はさせないって言ってるの」

 真面目な口調だった。
 暫く考えこんでいた修平は慎重に口を開いた。

「俺はこの島に来て優奈を見てきた。
 今はヒョヌさんがいるけど、それでも優奈がお前を頼りにして信頼しているのは変わってない。
 杏子が優奈のことを自分のことのように心配したり、気にかけてるのもわかってる。

 今まで2人がどんな風に過ごしてきたのかは知らない。
 でも普通の友人以上に結びつきが強いってことはわかってるつもりだ。
 ――優奈のことも含めてお前なんだろう? そんな友情の間に入り込もうなんて思ってない。

 杏子は美人で勘もいいし頭も切れる。
 普通の女だったら嫌味に聞こえるような言動も、お前なら納得できたりする。
 俺が出会った女の中でも、とびきりいい女だとは思う。でもそれだけじゃないだろう? 
 お前がどんな女でどんな風に生きてきたのか、本当のところは知らないんだと思ってる。

 それと同じように、俺が本当はどんな奴なのか……
 どんな考えを持ってどんな風に生きてきたのか、お前だってまだ全部を知ってるわけじゃない。
 俺はお前を知りたいと思った。知って貰いたいとも思ってる。
 それはお前を好きだからだ。付き合いたいと思う理由は――それじゃダメか?」


 修平の真摯な告白を杏子は静かに聞いていた。

 さっきまでの挑むような目の光が影を潜め、ほんの少し視線を伏せた瞳が小さく揺れていた。


 修平はそれを見逃さなかった。

 かなり長い時間沈黙が続き、痺れを切らした修平が話しかけようと口を開いた瞬間、杏子が視線をあげる。

 今のは何だったのかと思うほど暗い影を一掃して、杏子はどこかおもしろそうに言った。

「知ったら……逃げ出したくなるかもよ?」

 杏子が目の端で笑いながらそう告げると、修平も小さく笑った。

「杏子、お前は何を怖がってる?」
















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