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誓約の地/漂流編・84<特別(7)>


誓約の地/漂流編・84<特別(7)>





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「どういう意味?」

「……俺ん時も、優奈のためだったんだろ? 今度はコウジを慰めてやるのか? そうやって、優奈のためにどこまでする気だ?」

 そう言ってから、修平はハッとして杏子の顔を見て息をのんだ。

 華やかで美しい顔から一切の表情を消し、杏子が無言で修平を見つめている。

 謝罪しようと口を開いた修平に向かって、杏子は口の端で笑った。

「……ひどい言われようね」

「わりぃ……言い過ぎた」

 なぜそんな言い方をしてしまったのか。そんなことが言いたいわけではない。

 なぜあの時、杏子は自分を慰めたのか?

 それはずっと、修平の心に引っかかっていた疑問だった。

 暗澹《あんたん》たる気持ちのまま、俯いていく心の感情に流されるようにして身体を重ねた。

 その後も――

 わずかに月日が流れてもその関係を続けてきたのは、自分の弱さだ。

『人は人で癒される』

 そう言った杏子に縋《すが》っていた。

 自分の中で優奈への想いが消化できたと感じた時、同時に杏子との関係が酷く気になった。


 身体だけの関係――そう割り切れたら良かったのかもしれない。

 実際そう思っていたはずなのに、破れた恋が終わった恋だと感じられるほどには時間が経過する頃、自分の中に見つけた感情に驚いた。

 そして、その感情の名前が咄嗟に出てこないことに戸惑っていた。

「それは考えなかったわ。私は自分が気に入らない男とは寝ない。どんな理由でも」

 修平の謝罪を聞いてもなお、ひんやりと笑う杏子の瞳は鋭かった。

「そんなに安くないわ」

「ごめん。悪かった」

 修平は少し顔をしかめるようにしてもう一度謝罪した。

 手についた砂を払いながら、杏子は修平の目を見据えて更に薄く笑う。

「これだけ寝ても、そんなこともわからない男はいらない」

「――――!」

「おいしかった、御馳走さま」

 言うのが早いか、杏子はすっと立ち上がる。

 話は終わりとばかりに、さっさと行こうとする杏子の腕を修平が掴んだ。

「何するの?」

「……どういう意味?」

「そのままの意味だけど」

「もう寝たくないってこと?」

「そうね。誰とでも寝るような女は趣味じゃないでしょう?」

「ごめん、言いすぎた。本当に……悪かった」

 杏子の唇がゆっくりと吊り上がった。
 
「そんなに下手に出ることないわ。本音でしょう? それとも――まだセフレが必要?」

 修平は戸惑った。
 
「違う」

 修平はため息をついて首を振った。

「何が?」

 杏子は片方の眉を吊り上げて、疑問をぶつける。

 修平は言葉に詰まった。

 優奈の時は素直に恋をしていると自覚できたのだ。

 これ以上無理だと思うほど好きになって、毎日彼女を気にしていた。

 優奈に抱いていた想いと杏子に対して感じる感情が、同じ名前だと気付くのに随分かかってしまった。

 我ながら間抜けだと思う。

 それに気付いてしまった時――抱えていた疑問をあらためて思い返す。


 杏子の綺麗な涅色《くりいろ》をした2つの目が修平を見つめている。

 しかしそこに笑みはなかった。

 浮かんでいるのは失望と暗晦《あんかい》、そして少しばかりの寂寥《せきりょう》――


「そんなものがほしいんじゃない」

「じゃあ、何?」

 振り払うようにして外そうとする杏子の腕を握り締めたまま、修平は口の端を歪める。


「杏子がほしい」

















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