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誓約の地/漂流編・82<特別(5)>



誓約の地/漂流編・82<特別(5)>






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「さてと、どうしたものかしらねぇ」

 杏子は浜辺で腰かけ、海を眺めながら久しぶりに思案していた。

 部屋割の件をコウジに話すと、彼は笑いながら了解してくれた。

 ただ、それに伴って優奈とヒョヌも同室になると聞いた時のあの顔、あの目――。

「数ヶ月前の誰かさんみたいだわ」

 コウジが優奈に好意を持っているのは気付いていた。

 しかし最初は憧れに似た羨望《せんぼう》だったはずだ。

 それが激しい恋心に変化したのはいつからだろうか?


 普段、優奈とヒョヌはそれほどベタベタしていない。

 時々いつの間にか姿が見えなくなることがあっても、自然に戻ってくるので気づかれないことが多い。

 それだけヒョヌが優奈に対して気を使ってるのだと思う。

 だから特に問題ないと思っていたが。


 コウジのあの目――

 あれはちょっと昔の修平と同じだ。

 狂おしいほどの感情、やり場のない想い。

 幾ら‘そういう’気配がなくても、あれだけあからさまな優奈のヒョヌへの気持ちを気づかないはずがない。

 恋しい相手なら尚更。

 ともすると本人以上に敏感にその変化に気づくものだ。

「血の巡りの悪い男には困ったもんだわ。身の程を知れ! って感じ」

 吐き捨てるようにそう呟くと、ウェーブのとれかかった髪を掻きあげて盛大にため息をついた。





「それ、誰のこと?」

 不意打ちで声を掛けられて驚いた杏子が、睨みつけるような視線のまま振り返る。

 その視線の先には、修平が小さなカゴを片手に持って立っていた。
 
 修平が手にしているカゴにはプラムに似た味がするイチゴぐらいの大きさの果実が入っている。

 残されていた手帳で知ったものの1つで、この島の森の奥に自生している大きな木に鈴なりになっているものだ。

 手頃なところは取りつくしたので、採るのに少々手間がかかるはずだった。

 しかもよく冷えている。

 冷蔵庫代わりの洞窟の奥で冷やしたようだ。

「どうしたの、これ?」

「早朝、採って冷やしといた」

「御苦労さま。――食べていいの?」

 既にひとつ食べ終わった後で、礼儀的に聞いてくる杏子に修平は呆れて笑った。

「もう食べてるじゃん。いいんだよ、食べさせようと思って採ったんだから」

「――そう、ありがと」

 実はこの果実――島での杏子のお気に入りである。

 ありがたく頂戴することにして、その実を1つ口に放り込んだ。

 杏子の隣を指さして「いい?」と問いかけながら腰かけた修平に、杏子は無言のまま肩をすくめる仕草だけで応える。

 杏子が口に放り込まれた果実を飲み込むのを見計らって、修平はもう一度問いかけた。

「で、誰のこと?」

「コウジ」

「ああ。確かに……あぶねぇな、今のあいつ」

「気付いてた? 昔の自分みたいだから?」

 その問いかけに修平はピクリと反応し、視線だけを杏子に投げて小さく笑った。














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