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誓約の地/漂流編・36<告白(2)>



優奈への想いが、日に日に強くなっていくヒョヌ。

彼女の気持ちを掴めず、煮え切らない自分に耐えきれなくなった彼は……










森5





 はぁはぁはぁ……





 森の中は思ったより涼しい。

 しかし森深くに進むにつれて、急斜面を登ることが多かった。

 優奈は意外と体力がある方だったが、やはり男性にはかなわない。

 まして、ヒョヌとのコンパスの差は歴然である。

 彼は優奈を気にしてゆっくり進んでいたが、そろそろ優奈が限界の様だ。


「大丈夫? 少し休もう」

 かなり小まめに休憩をはさんでくれているのがわかるので、なんだかすごく申し訳ない。

 足手まといな気がして、情けなくなってくる。

――ヒョヌさんのせいではないのに。

 彼の傍にいられる喜びと切なさで勝手に鼓動が速くなり、興奮と緊張で余計疲れてしまった。

「ごめんなさい」

「何?」

「ゆっくり過ぎて逆に疲れるでしょう?」

「気にしなくていいよ」

「…………」

 優しい言葉と笑顔にいちいち心が反応する。

 彼と2人でいられることが嬉しくて、前半はしゃぎ過ぎたようだ。


 優しい彼の笑顔を今は独り占めしている――

 そんなことを考えながら夢中でヒョヌの後姿を追った。

 急斜面での登り降りに危ないからと、差し出してくれるヒョヌの手をとるたび、彼を好きになっていく気がする。

 自分とは違う世界の人、いつかホントの世界に戻る人。

 だから勝手に勘違いしてはいけない―――

 心が揺れるたびに、そう自分に言い聞かせる。



「……水の音がしない?」

 ヒョヌが急に声をあげた。

「あ、する!」

「ちょっと待ってて! 見てくる!」

「はい」

しばらくして、とびっきりの笑顔で戻ってきた。

「動ける?」

「はい」









     ***









 そこから大きな岩を迂回するようにして回り込み、岩の切れた先にあったのは、木漏れ日が差し込み水面がキラキラ光っている小さい泉だった。

 水の透明度は高く、かなりの深さまで見渡せる。

 そこには小さな淡水魚が泳いでいた。

 斜め向かいには小さな滝があり、この泉の水量を保っている。



「綺麗――――!」

 疲れもどこかへ飛んでいった。

 まるでおとぎ話に出てくる絵のように、穏やかで美しい光景だった。

「すっごく、素敵」

 木漏れ日を浴びて瞳をキラキラ輝かせて嬉しそうに笑う、その笑顔の方が何倍も素敵だとヒョヌは思っていた。


――優奈マジックか。


 杏子はかからないと言っていたが、どうも遅かったらしい。

 自嘲気味に笑いながら優奈の方へ近づいていった。



 ふと視線を流すと、反対側にゆらゆらと登る気流が見える。

「……あれ、何かな?」

 額に手を翳しながらその気流を眺める。

「……温泉だったりして!」

「えぇ?」

「行ってみる!」

「あ、待って! もしかしてガスとか出てるんじゃ……」

 慌てて声を掛けてきた優奈を、半ば無視するようにヒョヌは歩きだした。

 優奈の所からでは分かりづらいが、ヒョヌはその辺りに小動物をみつけていた。

 小動物が平気なら、人間は大丈夫だろう――

 そう思ってずんずん進んで行く。




「ちょっと待って! ヒョヌさん!」

 するとヒョヌは立ち止ってゆっくり振り返った。

 その顔は少し怒ってるような、拗ねているような、呆れているような顔だった。

 きょとんとしてヒョヌの顔を見上げる優奈に、ヒョヌはため息一つ吐く。

「オッパって呼ぶって言ってたのに」

「――――!」

「もう、いいよ」

 今日一日何度か呼ぼうとして躊躇いながら、結局あの――とか、えっとなどと誤魔化していたのはわかっていた。

 別に怒っているわけじゃない。

 寂しいのは事実だが、呼び名にこだわってるわけでもない。

 ただ、優奈と親しくなった――そう感じたかっただけだ。


 ファンの中には、それこそ年齢に関係なくオッパと呼びたがる人が多いのに、そんなに呼びずらいのか? などと考えていた。

「ちょっと失敗だったな」

 かえって落胆している自分が情けなくて、独り言のように呟いた時だった。

「……オッパ、待って!」

 不意打ちで、ちょっとびっくりした。

 あわてて振り向くと、顔を赤くした優奈が頬を膨らませて追いついてくる。


 照れくさいような、嬉しいような変な気分だった。

 たかが呼び名で、しかももう何人にも呼ばれ慣れてるはずなのに。

 彼女が呼ぶとちょっと特別で、少し距離が近づいたように感じる。


 初めて感じたくすぐったいような感覚。

 嬉しくなって、ちょっと得意げに彼女の顔を覗き込んだ。

 横目ですねたように睨む顔がかわいくて、頬をムニュッと摘まむ。



「――――!」

 優奈の大きな目からポロポロと大粒の涙が零れた。

「えっ? 何? どうした?!」

 慌てたのはヒョヌである。

「ごめん、ごめん。そんなに呼びづらかったらいいよ」

 優奈は、大きく首を振った。


――それじゃないのか……?


「何、どうしたの?」

 顔を覗き込み、優しく聞いてみる。

「頼むから、わけを教えてくれないかな?」

「……違うの、ごめんなさい」

 お手上げだった。ヒョヌは天を仰ぎみるようにしてため息をつく。

 何が違って、何がごめんなさいなのかがわからない。

 黙ったまま俯いている彼女に視線を移して自重気味に笑った。


 彼女を好きになる自分が止められなかった。

 意識しないようにしようとすればするほど、気になって仕方がない。

 そんな僕の感情が彼女を困らせているのだろうか?

 迷惑になるだろうか?



――迷惑?

 その瞬間、ヒョヌの心臓はどくりと動いた。

 耳の奥で心臓の鼓動がやけに大きく聞こえて、震えそうになる両手を握り締めた。

 迷惑など、かけるに決まっている。

 それでも――


 彼女の中の自分に対する好意。森の中で見てしまった優奈と修平。

 男としての僕を好きかも知れない、違うかも知れない。

 毎日気持ちが揺れて、大きくなっていく彼女への想い。

 僕を本気で好きになってほしいという願い。


 君のことを考えるなら、修平の言うように近づかない方がいいのかもしれない。

 僕の想いは君を困らせるだけかもしれない。
 
 でも、優奈。

 僕はやっぱり何も伝えず、何もしないまま君を諦めるなんて出来ないみたいだ。

 だから――




「優奈……」



















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Comment

誤字を一つだけおいていきます。

>「ごめん、ごめん。そんなに呼び【ずら】かったらいいよ」

呼びづらかったら、かと思います。

ちなみに、前からやたらと指摘していますが、国語は苦手分野なので、いろいろと間違ったことを言っていると思います。
すみません。

ではではっ
Re: Re: タイトルなし
> grho 様、こんにちは^^
>
> はい、修正しました。
>
> 私はとてもありがたいですよ。いつもすみません^^;
  • 2011/10/09 15:08
  • YUKA
  • URL
温泉っ!

どれだけ恵まれたリゾートなんだこの島はっ!(笑)

ということはラストシーンは火山が噴火して、もうなにもかもうやむやになって終わり、という……(ジョークです(^^;))
ポール・ブリッツさん、こんにちは^^
ポール・ブリッツさん、こんにちは^^
はい、そうです。
ご都合よく出来ております(苦笑)
でないと、恋愛小説ではなく冒険ものになっちゃうので(言い訳)
まだ、終わらせません(爆)
  • 2011/10/26 12:10
  • YUKA
  • URL
う~~む、この辺の機敏な乙女心の描写は流石ですね。
このあたりは完成されているものでいいですね。
優奈の気持ちが叶うのか・・・この場合は叶ってからの方が問題が多そうですが。
1700記事突破いたしました!!いつもYUKA様のご愛読誠にありがとうございます!!何か小説のリクエストがありましたら、またどうぞ。これからもがんばります!!
  • 2013/06/22 07:01
  • LandM
  • URL
LandM さん
LandM さん、こんばんは~^^
コメントありがとうございます!

乙女心の描写~~ありがとうございます!
そうですね。この2人の場合、叶ってからがまだまだ(笑)

って1700記事突破!!
すごい!おめでとうございます!!
はい^^毎回楽しく読ませて頂いています^^
リクエストいいんですか?!
わぁ~~~~考えておきますです!(*´∇`*)


  • 2013/06/22 20:16
  • YUKA
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