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誓約の地/漂流編・22<秘恋(2)>



胸に去来する様々な想いに翻弄されて、


踏み出せない男(ヒョヌ)と臆病になる女(優奈)のすれ違う想い。





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「もう無理だな――」

 辺りが少しオレンジ色に染まり始めている。

 日の色が変わると石や貝の色がわかりずらいなと呟いて、今日はここまでだと判断した。

 ヒョヌは木陰で涼みながら、少し離れてその様子を見守っている。

「また明日にします!」

 貝の器を大事そうに抱えた優奈の宣言を聞きながら、ヒョヌはちょっと呆れたように笑う。

 少し休憩したら? と声を掛けて、隣に腰を下ろした優奈と穏やかな海を眺めることにした。


「……まだ集めるの?」

「だって、楽しいんです。もっと集めたいけど……もう日の色が変わってしまったから。これでも厳選してるんですよ、よりいいのだけって!」

 得意気に笑う優奈を見て、ヒョヌは声をあげて笑った。

「ちっちゃい子みたいだ」

 そう言ってヒョヌは優奈を見つめた。

 何が楽しいのかはさっぱりわからなかったが、楽しそうな優奈を見ているのは楽しかった。

「どうせ、ヒョヌさんからすれば子供ですよ!」

「そういう意味じゃないんだけど」

「いいです。昔から杏子にも子供扱いされてますから」

「杏子さんは――大人っぽいからね」

「どうせ、私は子供っぽいです!」

 すねたように頬を膨らませて抗議する優奈が可愛くて噴出してしまう。

 いつも人のためにと奔走する、しっかり者の優奈ばかりみていたから、このギャップは新鮮だった。

 こんな風にはしゃぐ一面もあるんだな――それが何だか嬉しい。

「酷い、そんなに笑わなくても。私も杏子みたいに色っぽかったらな――」

 優奈は半分本気で呟いた。

 そうしたら、自分を女性として見てくれただろうか? 

――無意識に考えてしまった自分が何だか恥ずかしくて、赤くなる顔に気付かれないように、下を向いて足元の貝殻を捜すふりをする。

「なんで?」

 問いかける声に顔をあげると、呆れたような顔をして微笑んでいるヒョヌと目があった。

「優奈さんはそのままで充分可愛いのに。誰かになる必要なんてない」

 不思議そうに自分を見つめる優奈の瞳が、息をのむほど綺麗で目が離せなくなる。

「でも、男の人は杏子みたいな感じが好きですよ?」

「もちろんそうだけど。優奈さんがいいって言う人もいますよ」

 僕みたいに、とは言えなかった。


 そのままで充分なんだ。

 子供みたいにはしゃぐ様子も、花が咲くように微笑む笑顔も、大きく澄んだ瞳も。

 そういう優奈を、今では全部愛しく感じているから……そう思いながら言葉を呑みこむ。

 
「優奈さんは、どんな人が好きなの?」

「…………?」

「好きな……男性のタイプ?」

「ん―――」

 黙ってしまった優奈をそっと見つめた。

 急に陰りを帯びたその表情に慌てて、ワザとおどけたように言い訳をする。

「難しい質問、でしたか?」

「いえ……どんなだろうって思って」

「付き合った人は、どんな人?」

「優しい人でした。優しくてあったかくて大人で……たくさん愛してくれた人」

「…………」

「これじゃあ、好みのタイプになりませんか?」

 そう言って微笑む優奈の瞳が切なさと淋しさで揺れている。

 彼女を愛した、彼女に愛された昔の男。

 告げられた過去の想い人に嫉妬する自分に苦笑する。

 どうやら切ない過去を思い出させてしまったらしい――――そう感じた。

「今は好きな人、いないんですか?」

「…………」

「ごめん。余計な事だったね」

「………いえ」

 自分から聞いたのに、愛した人を懐かしむ様な彼女の表情を見て後悔する。

 彼女の心は今どこにあるんだろうかと、ただそれだけが気になって思わず問いかけてしまった。

 僕の事をどう思っているのか――

 それが聞きたいはずだった。


 座ったまま、夕日の沈む海に視線を移して、なんて切り出そうかと逡巡していると、彼女が微笑みながら問いかけてきた。

「ヒョヌさんは、女優さんと付き合ってるんですよね?」

「――――!!」

 ビックリして振り向いたヒョヌに優奈は慌てて弁解した。

「ごめんなさい! 噂があったから。てっきりそうだと思ってて」

「いや」

「違うんですか?」

「……本当だよ」

「…………」

「…………」

「きっと、心配してますね」

「そうかな? もう、次の恋に走ってるかもしれないよ」

「そんな! 彼女さんもファンの子も、きっと心配してますよ」

「そうかな」

「そうですよ! 悲しんでるに決まってます」

 無事だと伝えられると良いですよね――そう微笑む優奈の言葉が痛い。


 ファンだと言っていたから、自分の熱愛報道を知っていてもおかしくない。

 意図せずに報道された話だが、遭難するまで彼女との付き合いは続いていた。

 だから決して間違っていない。

 でもそれを優奈の口から聞くのは、自分の口で肯定するのは、なぜか非常に苦しかった。


 変な事言ってごめんなさいと俯きながら謝る彼女に、掛ける言葉が出てこないほど動揺している。

 今はもう、こんなに君が好きなのに。

 清算できない恋が、心に圧し掛かって叫びそうになった。

 修平の言葉が甦ってくる。


 『韓国スターが日本人女性と遭難先の島で、大スキャンダルに……』


 『いつか必ずそういう日がくる……中途半端な気持ちで……』


 優奈の知っている向こうでの恋人。

 清算できない恋を抱えたまま真実を打ち明けたとしたら、優奈は僕を受け入れてくれるだろうか。

 不実な男だと軽蔑するだろうか。

 中途半端な気持ちでかまうのことに、なるのだろうか。



「暗くなる前に戻りましょうか」

「……そうですね」

 お互いの心を掴めないまま、2人は寄り添うようにキャンプの場所へと戻っていった。


      















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Comment

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  • 2011/11/04 17:01
ヒョヌさんの恋人のことが優奈から
告げられるというのは、ヒョヌさん、かなり辛いですね。
この状況でヒョヌさんが『好きです!』とか言ったら・・・・・・うーん、やっぱり言えないですね。
お互い、気になるという状況なのに、お互いの気遣いで2人の関係がどんどん遠くなってる様があー!もどかしくって面白いです!
三角関係もどこまでもつれるのか、いやもう
不協和音ってのは、見ててめっちゃ怖いんですが、でも読んでみたくなっちゃう!
そんなYUKAさんの作品、好きですよー!
応援ぽちっと!
ペレさん
ペレさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます^^

もう~~!!
夜中に悶えるほど嬉しい感想をありがとうございます(笑)
じれじれする展開がまだまだ続きますけどね~~^^
踏み込めない2人を見守ってやってくださいまし。
作品を好きになってくださって、本当に嬉しいです*^^*
  • 2011/11/10 01:52
  • YUKA
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