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誓約の地/漂流編・23<秘恋(3)>


胸に去来する様々な想いに翻弄されて、

踏み出せない男(ヒョヌ)と臆病になる女(優奈)のすれ違う想い。



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 いつものように、浜辺には夜の帳が下りていた。



 この島のまわりに広がる遠浅な海の先――

 ちょうど深い海溝との境を囲むようにして切り立つ磐に、船体をひっかけるようにして留まっている客船が月明かりに照らされている。

 静かに打ち寄せる波の音が、かすかに聞こえる程度の静かな晩。

 月明かりに照らされて、白く輝くように広がる砂浜の一角に、煌々と燃える炎を囲む人の姿――


 遭難してから数カ月が経っていた。

 今では焚火を囲みながら全員でとる夕食も恒例となっている。

 遭難者全員が1日も早い救助を待ち望みながら、暗澹たる日々を過ごしていた。

 遭難に気付いてから10回目の夜が明ける頃――

 優奈は遭難生活が長期に及ぶことを覚悟して、食料や飲料水などを客船から引き揚げた。

 常温で放置されていたため、生鮮食材は完全に使い物にならなかったが、保存のきく食材が厨房や売店に残されていたため、全員が最優先でそれを確保する。

 そして、このままではいずれ底をつく食材を確保するため、島の捜索を検討する。


 幸い、島の中心にある森は、実りの多いところだった。

 深入りするのは危険が伴うと考え、まずは浜辺からそれほど遠くない場所だけの捜索だったが、それでも何人かで、いくつかの木の実を見つけることが出来た。

 それでも、若い男性を多く含む16名分の食材確保と調理はかなりの重労働だ。

 遭難者である料理人のジャンとミラを中心に分担していたが、彼らにとっても一仕事である。



 そんな負担を少しでも緩和しようと、この日の夕食は優奈が担当した。

 船から下ろした缶詰や根菜を合わせて作った即席のクリームシチューと果物を配る。

 器に盛られたアツアツのシチューを食べていたリョウコが、目を輝かせて優奈に声を掛けた。

「優奈さん、凄くおいしい!」

「ホント?」

「ホント!」

「よかった」

 遭難生活での楽しみはどうしても食事に集中する。

 そうでなくても美味しい食事は人を落ち着かせ、幸せな気持ちになることが多い。

 美味しいと感じられるのはいいことだと、何度も賞讃してくれるリョウコに微笑んだ。

 仲良く隣に腰かけて座っているエリとカズヤの賞讃がそれに続く。

「料理も得意なんだ」

「美人でスタイルが良くて優しくて。その上料理も得意って……天はなん物与えるんだろう!」

「だよな――! 優奈さんの弱点って何だろうって、俺でも思うよ」

「2人とも、何言ってるの!」

 オーバーな感嘆の声に苦笑いした。

「エリちゃん、妬いてんの――?」

「妬いてませんよー! 凄過ぎて、そういうレベルじゃないもの。ね!リョウコ」

「確かに! 私なんて、憧れるだけでもおこがましい気がする」

 次々に声を掛けられて優奈は顔を赤くした。

 褒められるのは嬉しいが、いき過ぎると恥ずかしい。

「みんなして! これ以上は何も出ませんよ!」

 頬を膨らませて赤くなる優奈を見て、全員の笑い声が浜辺にこだまする。

 全員に食事を配り終えた優奈に、修平が声を掛けた。

「優奈。座れば?」

 自分の席の隣をポンポンと叩いて、ここに座れと促す修平に慌てて首を振った。

「いいよ。ここで」

「そんなとこ座って。冷えるぞ?」

 呆れたように笑っている修平になんて答えようかと逡巡して、一瞬ヒョヌと目があった。

「そうよ。座ったら?」

 杏子が声を掛ける。

 それを合図に修平は持っていた器を一旦砂浜に置き、優奈の手をとって自分の隣に座らせた。

 ヒョヌは食事に集中するフリをして、優奈と修平を見ないように視線を落としていく。

 俯いて黙々とシチューを食べる優奈に、修平が小声で話しかけていた。

 無視していた優奈も、時々修平の話に吹き出してしまい、笑いながら修平を睨んでいる。

 そんなやりとりに反応するまいと、意識するヒョヌの瞳が揺れているのを杏子は見逃さなかった。

 平静を装う彼が、全身で2人を意識している事にも気付いていた。



 そんな様子を感じた杏子は目を細め、誰にもわからないようにため息をつく。


――全く、しっかりしなさい!


















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