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誓約の地/漂流編・16<錯綜(1)>

胸に去来する様々な想いに翻弄されて、
踏み出せない男(ヒョヌ)と臆病になる女(優奈)のすれ違う想い。
*錯綜(さくそう)――物事が複雑に入り組んでいること。入りまじっていること。

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「優奈!」

「…………?」

「これ、食べてみな?」

 息を切らし走ってきた修平は果物を優奈に差し出した。紅と黄色のミニトマトのような実。
 優奈はビックリして修平を見上げた。

「どうしたの? これ」

「さっき取ってきた。小っちゃいリスみたいなのが食ってたから安全だぞ?」

 かわいらしい果物を小さな籠に入れて差し出しながら得意げな顔をする。そしてその中の紅い実を1つ口に放り込むのを見て、優奈も籠から1つ手に取った。

「えっ? 冷たい!」

「だろ? 実はさ――昨日、洞窟を見つけたんだよ。その中が冷蔵庫みたいなんだ。そこで冷やしてきた。ほら! 食べてみな!」

「おいしい!」

 綺麗な瞳を大きく見開いて驚く優奈に、今度は小声で話しかける。

「……そこ、実は奥に氷もあった」

「嘘!?」

「ホント」

 目を輝かせて嬉しそうに驚く優奈を見て、修平は満足そうに微笑んだ。

 氷が手に入る――――考えてもみなかった幸運だった。

 南の島のように見えるこの島は、ほとんど雨も降らず日差しも強かったが、時折吹く風が心地よく、思っていたよりは過ごしやすい。夜ともなれば気温が下がり、比較的寝苦しいことも無く休めるのだ。それでも、さすがに日中の気温はかなり高い。

 通常でも常温で保存できる食料は限られているから、どうやって保存するか悩みだったのだ。冷蔵庫のようだというなら、食料も保管できるかもしれない。クーラー代わりに時々涼めるかもしれないなんて、夢のようだと思った。

「凄い! みんな暑いから喜ぶね!」

 どうだと言わんばかりに反り返る修平に優奈は感嘆の声をあげた。しかし修平は口の端をあげて、わざとらしく肩をすくめる。

「そうだな。……ま、俺は優奈を喜ばせたかっただけ、なんだけどな」

 ガシガシと頭を掻くようにして照れている修平に、優奈は困った顔をして笑った。

 この間は、抱きしめられた後なかなか離して貰えなかった。暫くしてから慌てて離れたが、まだ修平の顔を見るのがなんだか恥ずかしい。

 付き合う事は出来ない――そう断った。寂しそうにしながらも、それでもいいと修平は笑っていた。
 あの後も屈託なく話しかけてくる修平に、優奈は苦笑いする。

 優奈も今はヒョヌを見ないように、心を動かさないようにするのが精一杯だった。気が付くとヒョヌを目で追ってしまう自分がいて、必要以上に傍に近寄らないようにしていた。


     ***


「全く、何をやってるのかしらね」

 少し離れた木陰で優奈の様子を伺いながら、杏子はため息をついた。

 急激に近づいた優奈と修平――――
 ヒョヌを含めた、3人の微妙な関係に気付かない杏子ではなかった。修平が優奈を気に入っていることはわかっている。

 ただ、優奈とヒョヌは互いを意識し、この間までかなり仲良く過ごしていたはず。そう思っていただけに不思議だった。優奈に確認してもただ笑うばかりで、今は少し様子を見ようと決めた。



     ***



「こっちも食べてみる?」

 修平に勧められるまま、今度は黄色い実を口にして優奈は顔をしかめた。

「――――?」

「スゲー酸っぱいくね?」

「ちょっと! 知ってたなら先に言ってよ!」

「ビックリするぐらい、上手く引っかかった! もう大満足!」

 あまりの酸っぱさに目を白黒させている優奈を見て、修平はお腹を抱えて爆笑する。イタズラが成功したことを喜ぶ子供みたいだ――そう思って優奈も笑った。

「酷い」

 優奈は修平の腕を叩こうとしてかわされた。逆におでこをコツンと叩かれる。頬を膨らませる優奈に、修平は得意げな顔をして笑いかけた。優奈の頬を片手でムニュッと挟む。口を尖らせるようにされた優奈は思わず笑ってしまった。

「もう!」

「やっぱ、いつ見ても可愛いな」

「…………」

「そうだ! 洞窟見に行く?」

 顔を覗き込むようにして問いかける修平の言葉に、優奈は一瞬びくっとした。

「そうね。じゃあ、杏子も誘って」

「優奈と俺と2人で!」

「ん――」

「何にもしないって! 俺、第一発見者だぞ?それぐらいのご褒美は許されるだろ!」

「ご褒美?」

「鍾乳洞みたいだった。水を冷やしたらうまそ―だぞ? 行きたくない?」

「行きたい」

「よし、決まり!」

「そこ、危なくない? 皆で行く?」

 修平は腰に手を当てながら、優奈の顔をすねたように覗き込んだ。

「そうとう俺を警戒してるな? 優奈の許可なしで、もう抱きしめたりしないよ」

「――――!」

「いいじゃん、洞窟までちょっと付き合ってくれるぐらい」

 そう言って不貞腐れている修平が、あんまりしょんぼりして見えて思わず笑ってしまった。

「わかったから」

「よっし! 初デート!」

「えぇ――? 初デー…」








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Comment

ああ、そうですね。洞窟はある意味保存がききますからね。
それの管理はしやすいと思います。まあ、諸事情の問題はありますが、洞窟で化石が見つかるのは食料保存に適しているのと、暖炉の保温効果が高いことが特筆されるべきものですからね。
  • 2013/04/25 18:59
  • LandM
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LandM さん
LandM さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

そうなんですよ。
天然冷蔵庫。奥には氷も……って、どんだけご都合主義?って感じですが^^;;

話は変わりますが。。。
以前LandM さんのブログで上がっていた深い森の絵が物凄く好みでした♪
実は朝靄の中の誓約の地は、あんな感じをイメージしております^m^

  • 2013/04/26 20:45
  • YUKA
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