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誓約の地/漂流編・12<哀悼(7)>





<哀悼>は、episode.0<黙祷>の(1)~(7)に掲載させて頂いた内容です。


改稿にあたり、本編に組み込みました。







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 捜索を始めてから約2カ月が経とうとしていた。

 捜索で見つかった遺体は28体、遭難当初優奈が発見した遺体が2体。

 生存者ゼロ――――




 レストラン・ホール・遊技場と、客室の捜索。

 そろそろ捜索を終了する時が来ていると優奈は思った。

 それにしても、客船の規模からすれば遺体の数自体が非常に少ない。

 乗船時に見かけた人達だけでももっと多かった。乗務員も入れればこの人数のわけがない。

 では、他の人はどこへ――? 

 海に投げ出されたのだろうかと考えながら、優奈は浜辺で綺麗な夕焼けの色に染まる海をそっと見つめていた。

「優奈さん」

 物思いに耽っていた優奈はハッと顔をあげて振り返った。

「ヒョヌさん」

「どうしたの?」

「いえ、別に」

「…………」

「…………」

 ヒョヌが隣に腰を降ろすのを待って、優奈は小さな声で話し始める。

「……捜索、そろそろ終了かなって」

 そう言って思案する優奈に、ヒョヌはそっと微笑んだ。

「そうだな。一通り終わったし、そろそろ時期だと僕も思うよ」

「ヒョヌさんも、そう思います?」

 不安げに問いかける優奈に、ヒョヌは優しく声を掛ける。

「ここで切り上げても、見捨てることになるわけじゃない」

 穏やかに告げる声。

「もっと探せばいるかもしれない、生存者だってまだいるのかもしれない」

「…………」

「僕も、みんなもそう思ってる。その状況で打ち切るのは、勇気がいるね」


 そう言って微笑むヒョヌの横顔がなんだか淋しそうで――


「ヒョヌさん」

「ん?」

「――乗船の理由、仕事半分プライベート半分って言ってましたよね?」

「ああ」

「マネージャーさんは?」

「…………」

「もしかして――」

 ヒョヌは隣に腰かける優奈に視線を移して、スッと目を細める。

「ん。まだ、見つかってない」

 優奈は息を呑んだ。

「遭難前の記憶がある時点では、僕らは別行動だったんだ。僕は外の景色が見たくてデッキに上がった。彼は――彼の名前はキム・ヨンファンって言うんだけど、ヨンファンは疲れたからといって部屋に残った」

「――それで、ヨンファンさんのいた部屋は?」

「一応、その部屋と周辺も見て回った。けど、いなかったよ」

「…………」

「僕と別れた後、何処かに移動したのかもしれない。そう思って探してみたけど、やっぱりいなかったな。一緒にいた撮影スタッフは、撮影が終わって途中で下船したんだ。だから助かっているはず。ソンホさんとは前から一緒に仕事をしたことがあって、撮影の後はプライベートの通訳としてそのまま同行して貰ってた。男3人の旅だったんだよ」

「そう、だったんですか」

 海を眺めるヒョヌの横顔を、優奈はそっと見つめていた。


 誰もが大切な人を失っている。

 そんな思いを秘めたまま、気丈に振舞っているのかもしれないと思うと、苦しくて泣きたくなった。




「でも、優奈さん。それでも僕は、もう打ち切る時だと思ってるよ」

 ヒョヌは視線を海へ向けたまま、静かに話を続けた。

「随分捜索した。僕らが出来る範囲のところはね。いつか、しなければいけない決断だ」

「でも――」

「ん?」

「見つかった方の人数が、あまりにも少ないですよね?」

「そうだね。――ただ、必ずしも船にいるとは限らない」

「海に――ってことですか?」

「そう。むしろ、その可能性は高いと思うよ」

 それは、優奈もずっと思っていたことだった。

 どういう理由かはわからないけれど、私達は運よく島の方に流れ着いた。

 でももし――もしも、反対方向に転落していたら?

 島をぐるりと取り囲む岩の向こうに広がる、あの深い藍色の海に投げ出されていたとしたら?

 どんなに頑張っても捜索は出来ない。

 それはわかってる。けど――


「1人で決めたわけじゃない」

 静かに告げるその声に、俯いていた優奈が顔をあげた。

「ヒョヌさん?」

「僕が賛同した。だから1人で背負わなくていい」

「…………」

「全て1人で背負うことはない。この決断で後々何か起きたら半分僕が背負う」

「…………」

「優奈さんの気持ちはわかる。見つかっていない人達とその遺族の気持ちを考えれば、まだ2カ月――もっと捜したい、捜してほしいと思うかもしれない。僕自身も、ヨンファンが実はまだどこかで生きているんじゃないか、助けを求めているんじゃないか、そう思ったりもする。でも、本当に希望を持てることと願望を、一緒に考えちゃダメだとも思ってる」

「…………」

「確かに、優奈さんは僕らのリーダーってことになってる。僕もそれに賛同した。でもそれは決断した責任の全てを背負わせようとしたわけじゃない。話し合いで優奈さんと組んでから、今までも色んな事を一緒に考えてきたでしょ? 今回も同じ」

「そう、ですね」

「僕らなりに捜せる範囲は全て捜索した。その上で出す結論だから。それでもどうしても思いきれないなら、その決断の責任は僕が持つよ」


 だから決断しよう――そう言って、ヒョヌは静かに微笑んだ。

 全員の疲労も増してきている今、肉体的にというより精神的にそろそろ本当に限界だった。

 決断しなければいけない時期にきていることは、優奈にもわかっていた。 

 そう――決断しなければ。


『全て一人で背負うことはないんだ、優奈。半分僕が背負うから。――だから一人で決めるなよ』


 一瞬、懐かしい人の声が優奈の中でこだました。


『一緒に考えれていこう、2人で。1人で決めることじゃないだろう?  僕は何のためにいる?』


 少しでも自分の気持ちを軽くしようと、優しい声で語りかけてくれるヒョヌの想いが嬉しかった。

 そして同時に、なぜか酷く苦しい。

――あの時も、彼はそう言って手を差し伸べてくれた。

 優しく微笑んでくれるその瞳の色が、心にスッと沁み込むような中低音に響くその声音が、懐かしい記憶とダブる――

「――――!」 

 優奈の横顔を見つめていたヒョヌは、彼女の瞳から零れる涙に驚いた。 

「優奈、さん?」

 日の光を受けてきらりと光る雫しずくは綺麗な頬をゆっくりと伝って弧を描き、顎先へと零こぼれ落ちていく。

 思わず手を伸ばして指先でそれを拭ぬぐうと、優奈がハッと気がついてヒョヌを見上げた。

 ヒョヌは振り仰いだ優奈の頬を片手で包み込み、親指の腹で何度も頬を拭ぬぐってやる。

「ごめんなさい」

「いや……」

 その声に弾かれてヒョヌが反射的に手を放すと、優奈はまた海へ向き直った。

「大丈夫ですから。みんなと話し合うべきですね」

 微笑んだ優奈の瞳はまだ微かすかに濡れていているが、海を真っ直ぐに見つめる優奈の横顔に仄かな決意を感じて、ヒョヌは小さく微笑んだ。


 まだ探せばいるかもしれない――彼女がそう思い悩んでいることは分かっていた。

 捜索して2カ月。

 救助者も遺体も見つからなくなった。捜索の打ち切りを決断しなければならない。

 彼女がみんなに負担を掛けてしまったと考えていることもわかっていた。

 そんなことはないといくら言っても、この優しい人は思い悩むだろうということも。

 だったら、彼女が出来ることでみんなに返せばいい――


「語学教室、なんてどうかな?」

「――はい?」

 突然の問いかけに、優奈は驚いてちょっと声が裏返る。

「優奈さんなら、みんなが習得したいと思う言語を教えられるでしょう? 英語でも韓国語でもイタリア語でも」

「あ、はい。それは――」

「僕は日本語からがいいけど。それなら優奈さん自身がみんなの役に立つ。捜索が終われば時間が出来るし」

 ヒョヌはそう言うと、笑って優奈の顔を覗き込んだ。

「もちろん、私に出来ることだったら何でも! でもやりたいって人がいるでしょうか?」

「絶対いる。少なくとも僕は教わりたいな」

 ダメかな? と笑顔で問いかけるヒョヌの優しい声に、優奈にも思わず笑みが零こぼれた。

 落ち込んでいるばかりじゃなく、誰かの役に立つことが出来るなら嬉しい。

 それなら私の想いに賛同して、辛い作業を協力してくれたみんなに、少しはお返しが出来るかもしれない。

「みんなに聞いてみます! あ、ヒョヌさんの日本語学習も手伝わせてください!」

「ありがとう。よろしくお願いします、先生」

 無人島の青空学習だと笑いながら、2人は初日の授業予定を話合った。

















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Comment

こんばんはっ(*´∀`*)
まだくっついていない頃の二人のやりとりの間に、
優奈さんが忘れられないあの人の存在がチラついて・・・!!

一体どんな男性だったのか~~(@_@。
それほどまでにラブラブになったのは、優奈さんのハートを射止めた男性って一体~~~!!??

と、一人で悶々としています(*´∀`*)ww
この先のストーリーで明かされるのでしょうか??

そして、二人の微笑ましい会話にほのぼのします☆
こちらの話もあわせて、応援しています~(*´∀`*)!
  • 2011/12/22 19:07
  • なによし
  • URL
なによしさん
なによしさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪
初々しいですよね~~(笑)

どんな男性だったか、もう言いたくて公表したくてうずうずしてますが(笑)
優奈と杏子に怒られるので、まだできません^^;
もちろん、出てくるのですが~~~追憶編で(笑)

だから、もう少し先ですね^^しばし待ちを~~m(_ _"m)ペコリ
いつも本当にありがとうございます♪
コメントを頂けることが、何より嬉しいです♪
これからもよろしくお願いしますね♪
  • 2011/12/22 19:21
  • YUKA
  • URL
  • Edit
episode.シリーズが....終わった....
(始まりなんですけどね^^)

まだ付き合ってない2人が新鮮と言うか
懐かしいと言うか....
もうヒョヌのラブラブオーラが良いですね+゜。*゜+

優奈の前の彼氏...
これきっと番外編でYUKAさん書いてくれるよね??ね?ねね??
凄く気になるよ。
だって優奈が好きになった人。
初彼だよね?
どんな人だろ?きっと凄くいい人なんだろうな〜+゜。*゜+
そしてヒョヌに負けず劣らずのイケメンのはず!

物語は本編に続くけど謎な部分が多い。
同じ時間で止まった時計、あと生存者以外の人達は
本当に海にのまれてしまったのか...とか
YUKAさんどーなっちゃうの??
続きが楽しみだよ〜〜(●*>凵<pq)*゜・。+゜
チョコさん
チョコさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

読み終わりましたね~~ありがとうございます♪
そうですね!ここからが始まりでしたね~
このepisode.0が、予想以上に評判が良くて^^;;
今「MLN」で改稿した分は、本来の時系列にこのエピ0を入れこんでます。
初々しい感じの頃ですよね~~^^

優奈の初恋^^
もちろん書きますよ~~(≧∇≦)
というか、優奈と杏子の過去を描いたものが「追憶編」になります^^
その中で出てきますから、そちらも楽しんで頂ければなぁ*^^*
優奈と杏子のなぜ???と色々書いていきますよ~~

チョコさん!ちゃんと注目してくださって嬉しいです!
これは解明しなければ……ですね!
まだちょっと先ですが、これから描いていきますので
また読んでくださいね~ヽ(〃^・^〃)ノ
  • 2011/12/28 17:09
  • YUKA
  • URL
  • Edit
2ヶ月は長いな~~~。
結構な月日になりますね。私も生きれる限りは生きるつもりではいますが、2ヶ月生きれるということは相当なサバイバル能力があるということなんでしょうね。・・・なんてあまりそういう話ではないですね。しかし、授業や交流をするあたりはまだ心にゆとりがあって良いと思います。
  • 2013/04/09 19:39
  • LandM
  • URL
LandM さん
LandM さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます!^^

そうなんですよ。実はまだまだまだまだ続きます(笑)
かなりご都合主義な島ですが^^;
それでも彼らは頑張っていますね。
そろそろ、1人2人勝手な行動をしてもおかしくはない時期。
それを何とか踏み留めている優奈です。

恋愛に呆けている心の余裕がありますからね^^

この先、「遭難中?」といいたくなるほど呑気な面々です^^;

  • 2013/04/10 22:57
  • YUKA
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