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誓約の地/漂流編・11<哀悼(6)>



<哀悼>は、episode.0<黙祷>の(1)~(7)に掲載させて頂いた内容です。

改稿にあたり、本編に組み込みました。



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「これで何人目?」

 ぽそりと呟いたカズヤの言葉は、心なしか震えている。


「12人」

 その問いに厳かに答える優奈の声もまた、悲しみに彩られていた。

 こうして火を焚くのは何日目だろうか?

 辺り一面に、云いようもない匂いを放ちながら轟々と音を立て燃える炎は、くすんだ灰色の煙と小さく舞う火の粉を巻き上げていく。


 夕暮れの砂浜で赤々と燃える炎を見つめながら、全員が目を閉じ頭を垂れた――










    * * *







 初めて客船の捜索をした日から7日ほどで、必要と思われる物は運び出した。

 救助者の捜索で客室を1つずつ見て回るのは意外と大変な作業で、その上発見されるのは遺体ばかり。

 捜索してから、まだ1人として生存者の確認は出来なかった。

 毎日、遺体を搬送し火葬する。

 故人のためと言っても、それは過酷な作業だった。

 いつ救助が来るのかと不安を抱えるなかで、毎日遺体を通して死と向き合う。

 的にも精神的にも疲労していく。

 全員の精神状態を考えて、7日目以降は週に1度の捜索と火葬作業ということにした。



 当初、全員が早い救助を信じていた。

 目の前に横たわっている船が、捜索には目印になるだろうと思っていたのだ。

 少し時間が経ち、当座の食糧と一緒に救助の要請が出来るものはないか?

 それを探そうと客船の捜索に踏み切った。

 しかし操舵室《そうだしつ》の計器はおろか、救難の連絡もできない。

 パソコン・携帯電話……捜索で見つけたあらゆる通信機器が使用できなかった。

 この事実は、思いのほか全員に重くのしかかっていく。


 もしかするとこのまま救助が来ないのではないか?

 もう捜索が打ち切られているのではないか? 

 自分達はここで、このまま過ごすのか? 

 言葉にするのを躊躇ってしまうような疑問や不安が、全員の心に浮かんでは消えていく。


 そんな不安定な心理状態の中での、遺体の火葬――

 生存者が捜索しても見つからないという現実も、それに拍車をかけていた。

 不安が焦りになり、苛立ちから諦めへと変わっていけば、いつか絶望へと傾いてしまうかもしれない。

 自分の余計な感傷が全員を巻き込み、疲労させていると感じて、優奈はいつ打ち切るか悩んでいた。









    ***









「どうした? 暗い顔して」

 優奈が振り返ると、修平が近づいてきた。

「別に」

「嘘つけ! 手が止まってたぞ?」

「そ、そう?」

 砂浜にある荷物を整理しながら考え事をして、手が止まっていたらしい。

「凹んでんだろ?」

「そんなことないよ」

「ま、そう言うと思ったけどな」

 そう言って笑いながら、優奈の頭をクシャッとなでる。

「気にすんなよ?」

「……何を?」

「私が余計なことを考えたばっかりに、みんなに迷惑を掛けてしまった――」

「――――!」

「――って、どうせそんなこと考えて、凹んでんだろ?」

 驚いて見上げる優奈の傍に腰を降ろし、修平は口の端で笑った。

「なんで?」

「ん? なんでわかったか? 優奈の考えそうなことぐらいわかるって」

 修平は、当然だと言わんばかりに笑っている。

「――ごめんなさい」

「何が」

「辛いことを……」

「一番辛いのは亡くなったやつだろ?」

「…………」

「辛いとか悲しいとか感じられるのは、俺らが生きてるからだ。確かに――あんな遺体を見たら誰だって憂鬱になる。でもだからってそのままにしておけば益々酷くなるぞ?」

「うん」

「それでなくたって、捜索者を1回ごと分担制にして負担を軽くしてやってるじゃんか! それに、優奈は毎回携わってるだろ? 俺からしたら、優奈こそたまには外れろよって思ってるよ」

「それは、私が言い出したことだから。修平くんだって毎回じゃない」

「そりゃあ、女の子が毎回泣きそうになりながら頑張ってるのに、男の俺が音を上げてたらカッコ悪い」

「そんな。いいんだよ? カッコ悪くなんて無いよ?」

「それこそ、いいんだよ。好きでカッコつけてんだから」

 男なんてそんなもんだとにやりと笑う。

 思わず笑った優奈を見つめて、首を傾げながら問いかけた。

「何か探してんの?」

「ん? えっと、大きめのふた付きの容器を」

「……何個?」

「あと、10個ぐらいかな」

 なかなかいいのが無くて――そう言いながら微笑んでいる優奈の顔を見て、修平は優奈のしようとしていることを理解した。

 淋しそうに笑っている優奈の顔を見た修平は、一瞬真顔になって口の端で笑った。

「なるほど。今度捜索に行った時、船でもまた探してくるよ」

「え? あ、いいよ。自分で――」

「捜索は男の担当。骨壷がわり、なんだろ?」

「――――」

 そう言って優奈を見る修平のまなざしは優しかった。

 火葬していつか遺族へ返したい――

 そう言っていた彼女の想いはわかっていた。

 誰に対してもいつも優しく、一生懸命な彼女のために何でもしてやりたい――そう思っていた。

「包むのもいるよな? 布は白いシーツでいいか?」

「ありがとう。――こんな容器じゃ失礼だと思うんだけどね」

「まさか。あのまま放置されてたかもしれないんだ。優奈のおかげで骨だけは家族のところへ帰れるかもしれない。この状況で容器が嫌だなんて、そんな文句を言うやつはいないだろうさ」

 気にすんなと言いながら笑う修平の優しさに、優奈は瞳を潤ませて微笑んだ。

 軽口を叩くような話し方でも、自分を心配して気にかけてくれているのがわかる。

 何だかいつも助けて貰ってばっかりだなと、心の中で項垂れた。

「あんまり甘やかすと、自分で何もしない子になりそう」

 そう言って微笑む優奈の笑顔に、修平は一瞬見惚れてしまった。

 榛色《はしばみ》の綺麗な目が純粋に感謝してくれているのがわかる。

 俺が欲しいのは感謝じゃないんだけどなと内心苦笑した。

 しかしこの純粋な感謝に対して、自分の意図は随分と邪《よこしま》だなと反省した。



「優奈、1ついいこと教えてやる」

「ん? 何?」

「男は頼られるといつも以上にやる気になるもんだ。若くて可愛い女にも弱い。だから頼るのは特権だと思って、思いっきり甘えればいいんだよ」

 特に優奈は甘え過ぎだと感じるぐらいでちょうどいいんだと言って笑った。

 もっと言え! と言わんばかりの修平のセリフに、優奈は目を丸くして思わず噴き出した。

















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Comment

こんばんは!

うう、修平さん・・・(´;ω;`)!!
流石ですよあんたァ男の中の男だよっ!!
と思わずほろりと来る修平さんの言動に、ズッキューん☆って感じですね(*´∀`*)!!

修平さん・・・本編ではあんなことになってしまいましたが、この頃はまだ好青年そのものですね(*´∀`*)!

まぁ、今の修平さんも、もちろん大好きですが(笑)!!
  • 2011/12/15 19:31
  • なによし
  • URL
なによしさん
なによしさん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪
そうなんですよね~~この辺のエピを入れこまなかったために
修平の良さも半減で、私の失態です^^;;
ヒョヌより、修平の株が上がって貰っても困るなぁという親心?^^;;;

本当に、好成年ですよね(笑)
修平らしい優しさを感じるでしょうか?^^
だとしたら嬉しいです^^
ヒョヌも頑張らなきゃですね~~♪
  • 2011/12/15 19:46
  • YUKA
  • URL
意外に死体の処理というのは慣れるものです。
無意識に心を閉じる関係もあるかもしれませんけど。
私も、病院で働いていて死を毎日のように見ていたら何も感じなくなりましたね。もちろん、悲しみもしますし、疲労も感じますが。。。
その後には忘れてしまうんですよね。慣れとは怖いものです。
その後切り返して、自分が生きることに専念しているうちはまだ大丈夫です。
  • 2013/04/08 06:42
  • LandM
  • URL
LandM さん
LandM さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます♪

おお!そんな経験がおありなのですね!
それは大変なお仕事ですね^^;;

慣れてしまうというのはありますよね。
そこにいなければわからないこともまた、あるでしょうし。
この島でなら、麻痺してしまうこともあるかもしれません。

疲労と哀しみが蓄積して行けば、心が少し沈んでいく気がします。
こういう時、普段の生活の中で気分を変えられればいいのでしょうけど
ここではそれが生活の一部ですから、振り切って割り切れる要素が少ないかもなぁと感じたりしました。

経験談の貴重なお話、深いですね。
そういうことをお聞きして、作品に少し盛り込みたいなとちゃっかり考えてしまいました(・・。)ゞ
お聞きできて良かったなと思います^^
またよかったら、色々な考えを教えてください^^

  • 2013/04/08 18:59
  • YUKA
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