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誓約の地/漂流編・13<牽制(1)>





胸に去来する様々な想いに翻弄されて、踏み出せないヒョヌ。


優奈に思いを寄せる修平が取った行動。



2人は更にすれ違っていく――






夕焼け3






 その日も、穏やかな夕暮れを迎えていた。

 もう何日になるだろうか。

 人気のない砂浜でオレンジに染まった海を見ながら、ヒョヌは優奈のことを考えていた。

 いつも微笑んでいる彼女が見せた綺麗な涙――

 それがヒョヌの心にいくつものシミを描いていき、彼女がみせる輝くような笑顔と榛《はしばみ》色の瞳が頭から離れない。

 心の中に落とされたその雫は、ヒョヌの心に小さな波紋を起こしていく。

 それはゆっくりと広がり、いつの間にか幾つもの波紋で心が揺れて、気がつくと優奈のことばかり考えている。

 彼女に救助されたあの日――

 あの時の涙も、炎の光を映してこの海のような色をしていた。




 ふと視線を流すと、修平がソンホとともにヒョヌのいる場所へ向かって歩いているのが見えた。

「ちょっといいですか?」

「何?」

 ヒョヌはちょっと戸惑ったように修平を見上げる。

 修平の日に焼けた顔は整っていて、ヒョヌと比べても見劣りしない美形である。

 181cmある精悍な体つきはモデルのようで、手足が長く顔が小さい。

 いつも屈託なく笑っている彼は何かと優奈を助け、みんなからの信頼も厚かった。

 しかし――。

 ヒョヌに対する態度だけはどこか違う。

 笑い合うことも無ければ、めったに言葉を交わすこともない。

 それどころか、意識して視界に入れまいとしてるようだった。

 理由はわかっていた。

 だからヒョヌもあえて近づかない。

 お互いを意識しながら、互いの存在に触れないようにしていた。

 そんな修平から、あらたまって声を掛けられる理由が見当たらない。



 怪訝《けげん》な表情を浮かべるヒョヌの隣に並んで座り、修平はソンホに通訳を頼んだ。

「ヒョヌさんて、結構有名な俳優さんなんでしょ?」

「…………」

 韓国で人気のあるスター俳優であることをソンホが説明する。

「じゃあ、助かったらまた役者やるんですか?」

「そうですね」

 意図はなんだ?

 ヒョヌは修平を見た。こんな世間話をしに来たとは思えない。

 視線を感じた修平は意を決したように話し始めた。

「優奈が、気になってるんですか?」

「…………」

「美人だしスタイルもいいし、性格もいいし。誰でも気になるとは思うんですけどね」

「……そうだね」

「優奈はずっとヒョヌさんのファンだったらしいです。だから思いがけずこんなに近くで話したり、行動したりして浮かれて、すごく楽しそうで。たとえ現実の世界に戻ったら、こんな風に会ったり話したりできないってわかってても、この島の思い出としてヒョヌさんの記憶に残れれば嬉しいのかもしれません。ヒョヌさんが言えば、きっとどこにでもついて行くし何でもすると思う。それがファン心理ってもんでしょう?」

「…………」

「……元の暮らしに戻ったら、ヒョヌさんは俺達とは住む世界が違う人になる。たまたま同じ船で遭難して、こうやって話したりしてるけど」

「…………」

「ただ――」

「ただ?」

「危なっかしいなと思ってます」

 言葉の意味を理解できず、ヒョヌは眉間にしわを寄せる。

「危なっかしい? ――何が?」

 修平はヒョヌの方に向き直ることもなく、視線を海へ注ぎながら静かに告げた。

「俺、優奈が好きなんです」

 唐突な告白に、ヒョヌは目を見張って修平を見た。

「この島で出会ってからずっと。出来ることなら、この島から出て日本に帰っても、ずっと付き合っていきたい。これからもっと優奈のことを知って、優奈に俺を知ってもらって…………ちゃんと向き合いたいと思ってるんです」

「…………」

「あなたがこの島を出て戻れば、俺たち以上に韓国は大騒ぎでしょう? 彼女もいるって聞きました。――女優さんなんですよね?」

「…………」

「芸能人同士の恋愛が、普通より騒がれるってことは俺でもわかります。韓国スターが遭難先の島で――ゴシップ記事のタイトルがいくつでも浮かびますから。まして相手が日本人だなんて、マスコミが放っておかないのは目に見えてます。俺はアイツを大事にしたい。――だから嫌なんです。そんなスキャンダルに巻き込まれて、傷つく優奈を見たくないんですよ」

「…………」

「ヒョヌさんが優奈を受け入れれば、いつか必ずそういう日がきます。だから、中途半端な気持ちで優奈をかまうのはやめてほしいんです」

 修平は真剣だった。

 彼の言葉の数々が彼の軋むような心を表していて、ヒョヌにもソンホにもそれが痛いほど伝わってきた。

 ヒョヌは修平から海へと視線を移す。

 暮れかかった夕日を浴びて彼の澄んだ瞳がきらりと光る美しい横顔だった。

 修平は深く息を吐くと、ヒョヌから目を逸らさずに話し続ける。

「優奈は俺が守ります。通訳として一緒にいるのは仕方ない。仕事だと思えばいい。でも一時的な感情で、男として近づくのはやめてもらえませんか?」

 ヒョヌは奥歯を噛み締めて視線を海に向けたまま、黙って修平の言葉を聞いていた。

「旅先の火遊びみたいな、現地のラバーのような――この島での出来事で片付けるような扱いをしてほしくない」

 ヒョヌは驚いて修平を振り返った。彼には珍しく叫ぶように言い放つ。

「僕は、優奈さんをそんな風に扱ったことはない!」

「でも、結果的にそうなる!」

「――――!」

「俺も仕事で係わって、韓国人の知り合いはいます。悪い奴らばかりじゃない。――でも、必ずしもいい感情だけをもっているとは限らない。韓国と日本の難しい関係、それはヒョヌさんの方がご存知でしょう? でもヒョヌさんは芸能人で、相手は一般大衆になる。マスコミも不特定多数の一般人も無視できる立場にいない」

「…………」

「同じ有名人の女優さんを振って、日本女性を恋人に持つ――本当に出来ますか? アイツは、優奈は遊びで寝ていいタイプの女じゃないんです」

 瞬間、ヒョヌは身体の血が逆流したかのようにかっとなった。

 修平の一言に即座に反応する。

「僕は優奈さんを――そういう風な女性として見たことも扱ったこともない」

 修平はヒョヌの目を真っ直ぐ見つめ返し、通訳を聞いて噛み締めるように言い放った。

「そうですか。だったら尚更、必要以上に近づかないでほしい」

「…………」

「お願いします」

 それだけ言うと、修平は去って行く。ヒョヌは修平の後姿をただじっと見つめていた。




「優奈さんをホントに好きなんですね、彼」 

 ソンホから見てもヒョヌと優奈の2人はいい雰囲気だった。

 ファンである優奈さんに好意があるのはもちろんだが、彼も一定以上の好意を持っていると思う。

 軽い衝撃を受けて押し黙っている彼を見れば、その好意が恋愛感情だという事も察しが付く。

 修平くんの言う通り、現実に戻れば大スキャンダルだ。

 確か、相手もかなり人気のある女優だった。

 芸能人にスキャンダルはつきものだが、今まで彼の悪評を聞いた事がない。

 女優の彼女との報道後かなり騒がれたが、彼女を大切に扱う彼の姿を見てファンは好意的に受け入れていた気がする。

 そしてマスコミも――。


 だからこそ破局は仕方ないとしても、その理由によっては相当なダメージになるだろう。

 下手をすると俳優業に支障が出る。

 俳優を続けるつもりかと聞いたのは、そういうことか。


 ソンホはヒョヌを見た。

 彼の澄んだ目に、今受け取った言葉の数々が影を落としている。

 自分の知る彼は女性をそんな風に扱う人ではない。

 むしろ韓国芸能界でも礼儀正しい事で有名だし、幼少期から厳しく育ったと聞いている。ファンに対しても優しい。

 普段の彼を見れば、そんなことをするはずはないとわかる。

 今時、日本女性と付き合って結婚している人なんて大勢いる。

 仲良くやっている友人も知っている。

 でも彼は有名人で、いわば公人と同じ。

 あえて日本女性を選んだと憶測が飛ぶかもしれない。

 そうなれば確かに、彼以上に優奈さんが巻き込まれるのは目に見えている。

 それに彼女の父親は確か……。
 

 あれは、修平くんからの牽制――

 そんな扱いをするなと言いながら、逆に本気なら尚更手を引けということか。

 なかなか頭のいい男だし、事情を良く分かっているんだと思う。

 そして当然ヒョヌさんも。



 ソンホはヒョヌにわからないように、小さくため息をついた。
















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Comment

てっきり80日も経てば人間社会に戻れるものと(^^;)

そこからのラブストーリーだとばかり(^^;)

甘かったです(^^;)

もしかしたらみんな事故で死んでいて、ここは天国かリンボ(天国でも地獄でもない、それでいて現世でもない世界)かなあ、という考えがいまちらりと頭を……。
ポール・ブリッツ さん、こんにちは^^

あははははははははは。

そうですよね~~~普通。
そこが、これは本当に恋愛小説なのか? と私が悩むところです^^;;;
でも、彼らの日常はまだまだ続きます(笑)

ふふふ、内緒です!

それにしても、137日目はどれだけ濃いんでしょうかね~
――――書いてるの、私ですけど(爆)
  • 2011/10/16 15:58
  • YUKA
  • URL
おお~。ヒョヌさんには女優の恋人がいたんですね。
まあ、いてもおかしくないか。。。
でも今は優奈に気持ちが傾いてきてるみたいで…どうなるんだろう!?

修平くん、本気…!?
優奈ちゃん、モテモテ(笑)
西幻響子さん、こんばんは^^

来てくださったんですね^^ありがとうございます^^

そうなんですよ~~いるんです、彼女。。。
彼は……ヘタレ街道まっしぐらです(笑)

ふふふ。優奈はモッテモテです*^^*
  • 2011/10/21 16:29
  • YUKA
  • URL
脱帽!
修平の焦るような言動、ヒョヌの優位な立場にたった言動、
男心をよくわかってらっしゃりますねぇ。

脱帽!
  • 2011/10/27 13:32
  • 北のくまから
  • URL
北のくまからさん、こんばんは^^
北のくまからさん、こんばんは^^
読んでくださってありがとうございます^^
もう、なんと嬉しいお言葉(感涙)
本当にわかっていたら、もっとモテ期が来ると思うのですが^^;;
杏子姐さん並の勘か、優奈並の可愛さが欲しいところです(笑)
  • 2011/10/27 17:44
  • YUKA
  • URL
181センチ!!・・は高くてうらやましいですね。
まあ、私のファンタジーの設定も結構な設定ですけど。
ちなみに女性モデルの人で205センチの人もいらっしゃるようで。
世界はかなり広いものです。
  • 2013/04/13 21:44
  • LandM
  • URL
LandM さん

LandM さん、こんばんは^^
コメントありがとうございます!!

そうそう、181センチ(笑)修平は183センチ^^
やはり今時のイケメンは180越えしていないとですから。
韓国は身長に対してとても思い入れが強いらしく(日本でもそうですが)今時の俳優は180を超えていないとなかなか大成は難しいようです。女優さんがモデル上がりの方が多いので(最近の日本もですが)170超えてますから、バランスが悪いのでしょうね~~~。
ヒョヌさんはイケメン人気俳優の設定ですから(笑)最低限ここはクリア―して頂かないと!!という設定(笑)見栄えがね、違うのですよね。その辺はやはり「見せる(魅せる)職業」の方なので^^
そしてそのライバルである修平はヒョヌより「ちょっと高い」というのがポイント。負けてないというポイント(笑)

女性で205センチですか!!それはすごい。
現実がファンタジーのようです(笑)

  • 2013/04/14 02:23
  • YUKA
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