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誓約の地/漂流編・3<遭逢>




*遭逢<そうほう>――出会うこと。めぐり会うこと。






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 その時僕は夢を見ていた。


 夕暮れの浜辺で 立ちすくむ彼女を後ろからそっと抱き締めると

 声を上げずに泣いている彼女の気持ちが伝わってくる


 声にならない想いを伝えたくて

 彼女の髪に顔をうずめながら、抱きしめる両腕に力を込めた

 愛おしさが全身を包んで、自然と涙が頬を伝う



 確かに感じていた……

 夢の中だと思えないくほど激しく はっきりと

 僕は彼女を愛している

 こんなに人を愛したことはなかったから



 …………夢?

 これは夢、なのだろうか?










   * * *








 パチパチと何かが燃える音と潮の香り。

 瞳を開けると、ぼんやりした視界にゆっくりと景色が映っていく。

 零れ落ちそうなほどの星が瞬いていた。

 僕の隣に、榛色の潤んだ大きな瞳で心配そうに覗き込む女性がいる。

 美しい人だ。――そう思った。




「大丈夫、ですか?」

「……ここは?」

「たぶん、南の島です」

「……なぜ、ここに?」

「たぶん遭難、したんだと思います」

「遭難?」

「ええ」

 少し困ったような顔をして、彼女は笑った。

 寒い。南の島だと言っていたのに、両手がかじかんだように動かない。

「ハーブティー、飲めますか?」

「……はい」

「砂糖でちょっと甘くしてありますけど。身体を中から温めたいので、ゆっくり飲んでください。海水に浸かったままだったので、かなり体温が下がっていたみたいなんです。そのペットボトル湯たんぽ代わりで。リンパ節の近くに……脇とか股関節にあてておいてください。確か急に動くと危ないので……あまり動かずにいてくださいね」

 彼女のくれた温かくて甘い飲み物が、今はとても有り難たかった。

 なかなか思考がまとまらなかったが、甘くて温かい飲み物を飲むうちに徐々に自分を取り戻していく。

 彼女のすすめで、黙ってゆっくりとお茶を飲む。

 2杯めのお茶を飲み干す頃、冷えた身体がほかほかと温まって少し落ち着いた。



 それから、彼女はゆっくり話し始めた。

 自分も昨日気がついたばかりで、友人を探してる途中に僕を見つけたこと。

 海に難破しているフェリー、救助は来ていないこと。

 住人の気配がない島であること。

 他に13人の人が別の場所にいること。

 国籍は様々で、日本人のほかにアメリカ人、イタリア人、韓国人がいること。

 そして彼女の名前は『ナルサワ ユナ』

――日本人だということ。



「韓国語、かなり上手ですね」

「ほんとですか?」

「ええ。違和感無い位ですよ」

「すごい褒め言葉です! 実は今、韓国で外大の大学院に在籍中なんです。一応、通訳をしていて時々翻訳の仕事もしています」

「そうなんですか。優秀ですね」

「ありがとうございます。びっくりしました。ヒョヌさんは何故あの船に乗ってたんですか?」

「一応、撮影を兼ねた旅行だったんです」

「お仕事だったんですか?」

「仕事半分、プライベート半分ですけどね」

「韓国、大騒ぎでしょうね」

「…………」

 炎の温かい光が緩やかに彼女の顔を照らす。

 背中の中ほどまで伸びた艶かな黒髪が、時折吹く潮風に揺れている。

 顔にかかる髪をさり気なく耳にかける仕草になぜかどきりとした。

 伏し目がちに炎を見つめている彼女の横顔は、切なくなるほど綺麗で……

 なんだか目が離せなくなって、随分見つめていたように思う。


 炎を見つめていた彼女が不意に顔をあげて視線がぶつかり、慌てて目を逸らせる。

「お友達、見つかるといいですね」

「…………」

 辛そうに微笑む彼女を励ましたくて言葉を探した。

 彼女の澄んだ大きな瞳に見つめられると何故か胸が痛む。

「ここに来るまでに2人見つけたんです。一人はおばあさんで、一人は5,6歳の男の子です。2人とも亡くなっていました。そのままにしておけなくて、穴を掘って埋葬したんですけど……」

「そう、だったんですか」

「辛かっただろうなって。きっと楽しい旅行の予定だったと思うんです。こんな島じゃなくて、せめて自分の国に帰りたいだろうって。それが……とても可哀そうで……」

 辛そうな顔をしながら、それでも僕に微笑もうとする彼女の瞳は潤んでいた。

「無理して微笑まなくていいですよ」

「…………」

「優奈さんはとても優しい人ですね。一人で、辛かったでしょう?」

「…………」

 僕を見つめる彼女の瞳から涙が溢れていく。

 あわてて涙をぬぐう彼女を見ていると堪らなくなって語りかけた。

「優奈さんに埋葬してもらって、きっと感謝していると思いますよ。……確かに、国に帰りたかったかもしれない。でも、野ざらしにされるよりずっといいはずだから。辛かっただろうに、諦めずに歩いてくれてありがとう。そのおかげで僕は優奈さんに命を救われました。きっと優奈さんの友人も無事です。そう祈りましょう」

「ありがとうございます」

 小さく微笑んだ彼女の瞳からまた目が離せなくなりそうになる。

 自分の心臓の鼓動がやけにはっきり聞こえていた。



 暫くすると彼女が口を開いた。

「私、実はヒョヌさんに謝らなきゃいけないことが……あるんです」

「えっ? 何?」

 ちょっと泣きそうな顔をして呟く彼女を見て首を傾げてみる。

――謝る? 

 助けて貰って感謝することはあっても、謝られる憶えは――


「えっと。ヒョヌさんを見つけた時、半分海水に浸かったままで。勝手に、Tシャツをハサミで切って脱がしちゃったんです……あの……ごめんなさい……」

 そこで初めて自分の身体を見た。

――なるほど。

 毛布に包まれてはいるが、その下は下着姿だった。

 あぁと呟く僕に、彼女は何度も謝っている。

 慌てて説明する彼女がかわいくて、ワザと驚いたように呟いた。

「だから、こんな恰好で」

「ご、ごめんなさい!」

「あれ? もしかして……下も?」

「はい。迷いましたけど一番肝心で! ……えっ? あっ! ちっ、違います! 変な意味じゃなくて一番濡れてたのがGパンだったからなんです! それは目が覚めた後、かなり気まずいとも思ったんですけど……」

 思わず噴き出してしまった。

 焚火の炎に照らされていてもわかるぐらい、彼女の顔は真っ赤になっている。

 慌てて弁解する彼女が可愛くて笑いが止まらない。

「ヒョヌさん! 笑いすぎです!」

「あ、ごめん!………っぷ!」

「もう!」

 お互い顔を見合わせて笑ったことで一気に雰囲気が和んだ。

 それから随分長い時間、2人でいろんな話をしたと思う。

 仕事のこと、韓国や日本のこと、家族のこと。

 遭難しているというのが嘘のように、穏やかで優しい時間だった。

 たった一人で目覚めていたら、こんな気持ちにはならなかっただろうと思う。

 だからこの時間は、なんだか少し特別な気がしたんだ。





 僕を助けてくれた彼女と彼女を連れてきてくれた奇跡――


 これが、僕と彼女の出会いだった。























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Comment

とりあえずここまで読みました。

恋愛小説はあまり読まないのでどきどきしてます(^^)
ポール・ブリッツ さん、こんばんは^^

コメントまで、ありがとうございました^^

無理のない範囲でお読みください^^
私もまた、遊びに行かせて頂きますね♪
  • 2011/10/14 20:46
  • YUKA
  • URL
目線が変わるの面白いですね
2幕から3幕になって、ヒョヌさんの思いが、話の中心になるのが面白いですね。
主人公が移ったみたいです。どうなるか楽しみです。
  • 2011/10/20 17:18
  • 北のくまから
  • URL
北のくまからさん、こんばんは^^

コメントありがとうございます^^

そうなんです^^;
キャラ的に、優奈よりヒョヌが焦れています^^;;
主人公の交替……それは、大変です(汗)
面白いと言って頂けて、優しい言葉に救われております。。。

ヒョヌと優奈がメインなのですが
あともう一人、濃いキャラの姐さんが出て参ります^^;

この話は4人の物語りなので、ちょっと混乱されるかも。
ヒロイン優奈が目立つように頑張ります^^
  • 2011/10/20 17:35
  • YUKA
  • URL
3は、ヒョヌさん目線の話なんですね。

びっくりしました。優奈が主人公と思っていましたから。

でも、このシーンはヒョヌ目線のほうが臨場感が出て良いですね。

驚きの演出だ。真似しよう。

私の場合、犬目線で書いてみたい。

YUKAさんは、やっぱり表現の仕方が超うまいです。

正直、恋愛小説は読んだことがないんです。

が、YUKAさんの作品は読みやすいし、映像が浮かぶから続けて読んで行きますよ。

ちょっとづつですけど、この後が楽しみ。
  • 2011/10/20 19:12
  • オム
  • URL
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • 2011/10/20 19:14
オムさん、こんばんは^^

読んでくださってありがとうございます^^

ええ、優奈が主役なんですけども。。。
なぜか、優奈が一番難しいキャラ(笑)

なかなか、恋愛してくれません^^;;;

驚きの演出ですか?^^
ジョグ目線~~!いいですね!ありですよ~~

映像が浮かぶとは、もう感涙の褒め言葉です。
まさにそれが目標なので。

この話は、一応ヒロインは優奈ですが、
4人がそれぞれ重要です。
――――の、はずです(笑)

応援が励みになってます^^ありがとうございます♪
創作でお忙しいでしょうから、お暇な時で良いですよ~~^^
  • 2011/10/20 21:19
  • YUKA
  • URL
遭難はとても怖いのだ。そうなんだ。
・・・って面白くないですね。
ロストでも遭難を取り上げていましたけど、
なかなかそういうのはないですよね。
。。。いや、そう沢山あっても困るか。

生き残ったモノ同士ある意味共感を得ますからね。
所謂つり橋効果なんでしょうけど。
  • 2013/02/24 08:35
  • LandM
  • URL
LandM さん
LandM さん、おはようございます^^
コメントありがとうございます!

そうなんです!(←しつこい
怖いことですよね、本当は^^;
この人達は徐々にそれを忘れていきます(笑)

ロスト!
そう言えばありましたね^^
こういう状況は、かなりのつり橋効果が発揮されると思われます^^

ハリウッド映画のパニック物の恋愛も
ほとんどこれですね~~^^

  • 2013/02/25 08:16
  • YUKA
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