
誓約の地/漂流編 生存者16名
*登場人物の説明――詳しくは➡
誓約の地/はじめに<主要人物4名の名前と職業>
鳴澤優奈(ナルサワ ユナ)
6カ国以上を駆使できる優秀な通訳。遭難前は韓国大学院に留学中。
カン・ヒョヌ
韓国の有名俳優。
相田杏子
優奈の親友。医師。
石野修平
デザイン系の会社を経営する青年実業家。会社は兄と共同経営。

鳴澤優奈(ナルサワユナ)は、大学院を卒業してから突然の韓国留学を決めた。
一方、優奈のことになると異常に関心を示す幼馴染みで親友の医師・
相田杏子(アイダ キョウコ)は、優奈の行動を心配し、近況を聞こうと彼女を船旅に誘った。
久々に女同士で買い物や観光、グルメを堪能し、楽しい旅行になる――はずだった。
1<遭難> (遭難初日)
『ここは、どこ?……夢の続き?』
優奈は目を覚ますと、白い砂浜に倒れている自分に気がついた。
遠浅の澄んだ海、鬱蒼と茂ったジャングルのような森――そう、そこはまるで南国の島。
2人が乗船した豪華客船の航路は、カリブ海と大西洋横断をする15日間のクルーズ。
南の島に寄港する予定はなかった。
それどころか、ほんの少し前まで乗船した船で過ごしていたはずなのに、なぜこんなところにいるのか?
理由もわからないまま辺りを見渡すと、遠浅の海の岩盤に難破している客船を発見した。
自分が遭難したと気付いた優奈は、慌てて親友の杏子を探すが見当たらない。
(最後の記憶では一緒にいたはず!)
優奈は内心焦りながらも『今できること』を念頭に置き、同じく遭難した13名を励ましながら一夜を明かした。
2<遭遇>3<遭逢>4<合流> (~3日目)
僕を助けてくれた彼女と、彼女を連れてきてくれた奇跡――
そして翌日。
遭難者の一人である
石野修平(イシノ シュウヘイ)と親しくなった優奈は、彼と手分けして親友の杏子を探すことにした。
東側の浜辺で年老いた女性と幼い子供の遺体を発見してその遺体を埋葬した後、不安に苛まれながら歩き続けた優奈は、海水に半身を漬けて気を失っている男性を発見して驚いた。
彼は優奈が憧れて留学までする原因となった人物――韓国俳優の
カン・ヒョヌだったのだ。
知識を総動員して懸命に看護した結果、ヒョヌは意識を取り戻した。
日没の移動を諦めた2人は、焚火を挟んで一夜を明かすことに。
2人はお互いのことを話すうちに、自然と打ち解けていく。
翌朝みんなと合流すると、そこには修平に発見されて連れて来られた杏子が――
優奈、ヒョヌ、杏子、修平。
ゆっくりと確実に、運命という時間が動き出した。
5<架橋> (7日目)
『久々の優奈マジック……相変わらず効果抜群ね』
来ない救助、通信手段の断絶。
遭難者総勢16名は、何もないまま過ぎる日々に不安と焦りを感じていく。
「とりあえず、自己紹介とかします?」
焦燥から険悪になる仲間の雰囲気を変えたのは、とぼけたように話す優奈のそんな一言だった。
これから長くなりそうな遭難生活を想定し、みんなの不安を和らげるにはお互いを知ること――そう思った優奈の提案。
その意味を瞬時に理解した杏子と修平が賛同し、全員が自己紹介をし始めた。
遭難者の国籍は日本・韓国・アメリカ・イタリア。
習慣も話す言語もバラバラで、互いに意思疎通を図れないこともある。
同時通訳者である優奈とヒョヌの通訳として乗船していた
イ・ソンホはそれを解消しようと、会話が出来る事を主軸にした全員の組み分けをはじめる。
優奈は当初、イタリア人の
ジャン・ミラ夫妻に付くつもりでいたが、美しく若い女性である優奈が夫の傍にいることを反対したミラの発言で、急遽ヒョヌと行動を共にすることに。
優奈に好意を寄せ始めていた修平は異論を唱えるが、修平の思惑を見抜いた杏子は『優奈に常時2カ国語同時通訳はさせられない』と言い放ち、それを阻止した。
また代表者としても選出されてしまった優奈は荷が重いと断るが、最年長で船医であった
佐伯が優奈を説得。
「君の判断力と行動力は、初日からみんなが知っている。語学力で全員と意思疎通が図りながら判断するためには、私も君が適任だと思うよ。もちろん、君に全部押し付けるわけじゃない。出来る限り協力するし、話し合いの調整役だと思えばいい」
その後、ヒョヌの励ましと後押しを受けて引き受けることに決めた。
ヒョヌを完全に信頼している優奈を見て、修平の心は沈んでいく。
そしてそんな3人の様子を杏子は静かに観察していた。
6~12<哀悼> (~60日頃まで)
『私だったかもしれないから。あそこで亡くなるのは、私だったかもしれない』 長くなってきた生活のための物資を調達するため、難破している客船に乗りこむことを決めた。
しかし物資を調達中の船内で何体もの遺体を発見。
高い気温のせいもあり、それらは既に腐敗し始め――異様な匂いを放っていた。
物資を運搬していたカズヤから遺体の話を聞いた優奈は、急遽客船に乗船する。
「遺体をすべて回収し、火葬して荼毘に伏したい。そしていつか遺族の元に返したい」
優奈の想いに反対する者はいなかった。
しかし、遭難生活という過酷な状況下での遺体の埋葬――救助の来ない状況で、考えたくない死と向き合い続けなければいけないことが、全員を心身ともに疲弊させていく。
さらに追い打ちをかけるように、通信に使おうと回収したパソコンなどの電気機器が全滅していると判明。
時計も同じ時刻で止まったまま――
その理由は何なのか?
わけがわからないまま続く遺体の回収と埋葬。
全員を更に過酷な状況に追い込んでしまったのではないか。
徐々に落ち込み悩み始めた優奈を、修平とヒョヌはそれぞれのやり方で支えようと奮闘し、船医であった医師の佐伯もまた優奈に道を示した。
そんな励ましを受けて、優奈はまた少しづつ自分を取り戻していく。
哀悼(5)に出てくるお菓子レシピ(画像有) yuna’s kitchen 「小説中に出てくるお菓子」へ 13~15<牽制>
夢は、いつか醒める―― 少しづつ距離を縮めていく優奈とヒョヌ。
自分の恋の危機を感じた修平は、ある日行動を起こした。
「この島から出て日本に帰っても、ずっと付き合っていきたい。これからもっと優奈のことを知って、優奈に俺を知ってもらって……ちゃんと向き合いたいと思ってるんです。ヒョヌさんは芸能人で、相手は一般大衆になる。マスコミも不特定多数の一般人も無視できる立場にいない。同じ有名人の女優さんを振って、日本女性を恋人に持つ――本当に出来ますか?」
韓国の有名俳優であるヒョヌと日本女性の優奈。
2人の間にある難しい関係と現実を指摘され、修平の言葉に動揺するヒョヌ。
「俺はアイツを大事にしたい。だから嫌なんです。スキャンダルに巻き込まれて、傷つく優奈を見たくないんですよ。ヒョヌさんが優奈を受け入れれば、いつか必ずそういう日が来ます」
***「そういう女としては見てないらしい」
ヒョヌの発言を切り取って伝えた修平の発言で、優奈は自分の中の無自覚だった恋に気付いてしまった。
そして同時に思い出した過去――
浮かんでは消える記憶の断片。
傾けた想いが行き場を失い、ただ漫然と積み重ねていく日々を。
心が壊れそうな罪悪感に押し潰されそうで、心の奥に押し込んできた想いが優奈の心に一気に甦る。
動揺して森深くに入りこんだ優奈を追ってきた修平は、優奈を強引に抱きしめて想いを伝えた。
例え今傷つけたとしても、必ず俺が守る――その一心だった。
そして遅れてきたヒョヌは、そんな2人の姿を見てしまう。
16~20<錯綜>
――優奈、本当にそれでいいの? 修平の申し出を断った優奈だったが、あれ以来ヒョヌとの関係はぎくしゃくし始めた。
自分の恋に気付いて、臆病になる優奈。
優奈を想うあまり、いつも以上に慎重なヒョヌ。
そして、優奈を追い続ける修平。
優奈を見守る杏子は、苦しむ優奈を見ながら静観していた。
すれ違う想いと錯綜する関係に気付きながらも、あえて手は出さない。
本当に優奈を預けることができる男かどうか――それを判断するために。
21~26<秘恋>
清算できない恋を抱えたまま真実を打ち明けたとしたら
中途半端な気持ちでかまうのことになるのだろうか――「ヒョヌさん、私のことどう思ってます?」
いきなり問われて動揺するヒョヌ。
その発言をきっかけに優奈に話をするが、それがかえって優奈の中にある過去を思い出させてしまう。
そんな動揺を隠すかのように優奈もまた、ヒョヌの彼女の話題に触れてしまった。
相変わらずすれ違う優奈とヒョヌ。
そんなある日、浜辺でシャコ貝を見つけたヒョヌは、それを優奈にプレゼントした。
それをキッカケに、誰もいない浜辺で2人の時間を過ごすことに。
「大丈夫だよ」
海の砂が苦手だという優奈を連れてゆっくり沖に入ったヒョヌは、波のうねりに合わせて思わず優奈を抱きしめていた。
それでもその想いが優奈の負担にならないように、決して本心を明かさない。
そして優奈もまた、いつか違う世界に帰る人だと自分に言い聞かせていく。
揺れる波に漂うように、2人の想いはすれ違ったままだった。
27~30<対決> (120日目)
勝ち取って証明して。自分の本気がどの程度なのか――
「無理強いはよせ!」
ヒョヌは思わず大声をあげ、優奈を引っ張る修平の腕を掴んだ。
大声を上げる緊迫した雰囲気に、周りで遊んでいたメンバーも唖然として振り返る。
優奈を挟んで対峙するヒョヌと修平。
緊迫した一触即発の状況を変えたのは杏子の機転だった。
「2人とも、欲求不満なの?」
遭難のストレスと互いに対して抱くフラストレーションを発散させようと、半ば強引にゲームを開催。
ビーチフラッグの優勝賞品を『優奈とデート』にすると宣言した杏子は、2人の本気を見定めていた。
この相手だけには負けたくない――
ゲーム感覚で参加する他のメンバーをよそに、火花散るヒョヌと修平の一騎打ち。
31~32<大樹> (121日目)
「困らせているのは……僕の方か」
デートのおかげで少し距離が縮んだと思っていたヒョヌは、森の中で巨木を見つける。
この島を支えているかのような大樹。
その圧倒的な存在を前に、この景色を優奈に見せたい――
そう思って引き返そうとしたその時、同じように考えた修平が優奈を連れて現れた。
「なぜ……」
呟くように放たれたヒョヌの声は、2人の消えた森の中に吸い込まれていく。
なぜ抱き合ったのか? なぜキスをしたのか? なぜ――?
答えを出したくない疑問ばかりが心に浮ぶ。
2人の会話がわからない。抱きしめられたまま動かない優奈を見て、ヒョヌは激しい焦燥と嫉妬で息が詰まった。
昨日のデートで距離が縮まったと感じたのは、自分の思い過ごしだったのか――
近づいたと思うと離れていき、捉まえようとすればひらりと逃げていく。
そんな思いを何度も繰り返して、その度に踏み出すことを躊躇ってしまうヒョヌ。
俯くようにして佇んだまま、ヒョヌは暫くそこから動けなかった。
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